日記・コラム・つぶやき

とんちんかんディナー

自分の高学歴と才能は、少なくてもA社では右に出るものはいないと、心の底から信じ込んでいるバカえもんは、見た目も熊のようにのっそりしていて、間違ってもイイ男を言えるタイプではない。

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・・・が、本人はかなりイケてると思い込んでいて、今時肩からパステルカラーのセーターなどをゆったりと掛け、自信満々に社内を闊歩している様は常々Yと私の苦笑の元となっていたが、ある時Yが「石田純一みたい」と痛烈な皮肉を言ったのを真に受け、それ以来何かと私達に好意的な態度を見せるようになったのも、片腹痛い事なのだった。

IT企業というものでは”もうこの会社で覚える事はない”というのが、立派な退職理由になるし、いくら要領のいい私達でも流石に毎日毎日「勘違い集団」と付き合っているのに疲れてくるのも無理はないので、テキトーに理由をつけて辞める事にした。

自分達の予想よりはるかに社内に食い込んでいたらしい私達の退職は、どうやら社内に衝撃と困惑を与えたようだった。

仕事の割合で言えば、バカえもんと私達はそんなに関わっていない・・・というか、バカえもんに与えられている仕事はそんなになく、大して重要でもなかったが、彼的には社内の中核を担っていると信じ込んでいる上に、私達を立派な「仲間」と見なしているらしかった。

なので2人の退職が公表されるや否や、片手を挙げながら私達のところにやってきて「聞いたよ・・残念だ」などと真面目な顔で近付いてきた。

一通り退職理由を訊かれたり、それに付随した社内の誰からの話などをした後「送別会を兼ねて食事に行こうよ」と言い出した。

A社の多くの社員がそうであるように、彼も不適当なほどの高給取りなので、私達はにっこり微笑んでお礼を言い、予め知っている出張日などを除いた何日かを決め、バカえもんにメールしておいた。

果たしてすぐ「○○日にしましょう」とレスが来て、仲間というカテゴリーに所属している私達にイイところを見せたいのか、お店は私達の好きなところでいいと付け加えていた。

ご馳走されるのが大好きな私達は、この辺りぬかりがある筈もなく、この時は既に行きたい店を絞り込んでいた。

それは今はなくなってしまったが、都内の高級ホテルの最上階にある、所謂回転レストランで、かなり優秀な中華が食べられる事で有名だった。

HPで確認したら私達が行く週は女性(もちろん私達も!)が大好きなエビ料理が増える「シュリンプウィーク」なるありがたーい週だったので、益々ボルテージが上がるのは仕方なかった。

バカえもんにお店の事を伝えに行くと「君達が行きたいところでいいよ」とばかりに、さもお店には興味がない、君達にささやかな感謝の気持ちでご馳走したいだけさ・・・とでも言うように、満足気に頷きを返したのだった。

あっさりその日はやってきた。

前日に散々打合せをしたのに、当日もまた「昨日の通りでOK?」などと、いかにも通りすがりに訊いてみたよ・・・的な風情を見せてはいるが、私達はバカえもんが何故だかとっても楽しいんだ・・・とすぐ気付いた。

なんだかんだあったが、結局希望通りの日程で好きなお店に行く事になり、私達は終日ゴキゲンで仕事をこなし、定時退社をした。

そしてぷりっぷりのエビを想像しながらるんるん気分でホテルロビーに到着し、いつもより少し取り澄ましてバカえもんを待った。

少しだけ遅れて到着した彼は、お得意のトラッドファッションに身を包み、またもや軽く手を挙げてやってきた。

男性の多くはそうであるように、心のどこかに女性をエスコートしなければ・・・という気持ちが働くようで、彼もエレベーターをさり気なく眼で探し先頭を歩こうとしたが、どうにも勝手が分からないようで、進んでみては「あれ?おかしいな」などと独り言を言いながらうろうろしてしまった。

私達は笑いたいのを堪えて、でも少し申し訳ない気持ちで後から「その先を右です」などと小さな声で案内する羽目になった。

兎にも角にも予約時間の10分後には、レストランの入口に到着し、バカえもんが予約名を告げると「お待ちしておりました」と、やけに丁寧に窓際テーブルに案内された。

何しろ1時間に360度回転し、夜景を楽しむという趣向のレストランなので、周囲は全て窓という造りな上に40数階に位置するため、眺めがいい事この上ない。

これだけでかなりのご馳走という感じで、私達は少し気取った足の運びで、ボーイさんにお礼を言いながら笑顔で席に着いた。

このレストランのもう一つのウリは、高級食材の料理の数々が食べ放題~バイキング~だという事だった。

中華の高級食材と言えば、フカヒレ・カニ・ツバメの巣・・などなど枚挙に暇がないが、とにかく「シュリンプウィーク」である。

しかし、いかに図々しい私達でも、席に着いなり取りに行くほど非常識ではない。

バカえもんに飲み物などの好みを聞いたり忙しいのに申し訳ない・・的なお礼を言って、多少の世間話をするくらいの忍耐強さは持ち合わせている。

ドリンクオーダーも終わり、じゃぁ取りに行こうかと、バカえもんがこれ以上ない絶妙のタイミングだと自分に酔っている間に私達はさっさとエビを目指した。

バイキングの台が丸々一つエビになっているのを片っ端からお皿によそって席に戻ると、上品に少量の料理が載ったお皿を前に、バカえもんは外を眺めて黄昏ていた。

お喋りしながら美味しい料理を食べ、夜景を堪能するというのは女性にとって嬉しいものだが、違った意味でバカえもんも楽しいらしかった。

今まではお互い何となく敬語で話していたが、多少のお酒で舌も滑らかになったのか「タメ語でいいかな?」などと、殆ど死語のような発言をし、私達の答を聞く前に”タメ語”で話し始めた。

私達にはそうは思えない、今までの自慢話・苦労話を身振り手振りで話しているのに大仰な相槌と満面の笑みで受けながら、実は食べる事に熱中していた私達は、流石に1時間もするとお腹がいっぱいになってきた。

勝手なもので、そうなると喋りたくなるのか、今度は頼まれもしないのに今までのA社での仕事やこれからの計画などを面白可笑しく話したが、中でもバカえもんがえらく興味を持ったのが私達が2人で習っていた、ある楽器の事だった。

彼はまるで「俺は頭はいいけど楽器はからっきしでね~」とでも言いたい風に、物珍しそうにその話を聞き、様々な質問をしてきた。

実はその楽器を極めるため、というのが退職の表向きの理由だった私達は、もっともらしく多少の専門用語などを織り交ぜながら話していたものだから、すっかりバカえもんが引き込まれてしまった。

最後には俺も楽器が出来たら・・・などと言い出し、中学生の頃はギターも弾いたんだけど・・・などと、遠くを見ながら陶酔し始めた。

バカえもんは自分に自信があるし、カッコイイものに憧れがあって、困った事には自分それに近づけると本気で思っているので、きっと中学生の頃のバカえもんは、白いギターかなんかを抱えて、すっかりシンガー気分を満喫していたに違いないと想像するとおかしくて声を出して笑いそうだったが、ご馳走になる相手を軽蔑するような事はできないので、持ち上げたり期待させたり、私達は忙しく頭を働かせていた。

そんな私達に「ちょっと失礼」とまたもや軽く手を挙げて席を立ったバカえもんは、どうやらトイレに行ったらしいが、なかなか帰ってこない。

食べ物にあたってお腹でも痛いのかしら・・・?と心配し始めた頃、ニヤニヤしながら席に戻ったバカえもんは「回転してるから場所が分からなくなったよ」と、子供じみた事を言い出したのも、私達に気を許している証拠かもしれなかった。

デザートや中国茶も平らげ、もちろんエビも全種類制覇して夜も更けた頃、バカえもんが「今夜はホントに楽しかったよ。会社は別になるけど、これからも友達としてたまには飯でも食おう」と言い出した。

大変ありがたい提案だが、ハッキリ言ってバカえもんは私達の苦手なタイプ・・・というか気疲れする相手なのだが、「ぜひ~」と言いながら、内心驚いていた。

何しろ彼は会社に親しい人はいないし、どちらかと言うと浮いた存在である事を、最近ようやく理解し始めた様子だったので、私達と楽しい時間を過ごしたのが嬉しいのかもしれなかった。

その後、暫く連絡を取らないうちに、彼はA社に溶け込む事ができないまま、退職したらしい。

でもきっと他の会社でも勘違いして高いプライドを振りかざして、鼻つまみになってるんだろうなぁと思うにつけ、もしかしたらあのエビを食べた夜が、バカえもんが一番普通だったのかも・・・と、ちょっぴり哀しい気持ちになるのだった。

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じーじのカミングアウト

自分を仕事が出来るから高給取り、おまけにカッコイイから女が放っておかないんだなぁ・・・そう言えばこの間も本屋で俺をじっと見つめてた女がいたな・・・などと本気で勘違いしてる幸せ者のじーじは、でも決して悪い人でも何でもなくむしろかなりイイやつだった。

ただ、仕事中に発揮される勘違いぶりと、頭の回転も含めた、信じられないくらい遅い行動には辟易するのが常だったがとにかく悪人でない事だけは確かだった。

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そんな彼は何故だか年収1500万との噂があり、それは仕事に見合わない高給取りが多くを占めるA社の中でも、特筆すべき金額だった。

おまけに彼にはギャンブルの才能だけはあるらしく、大学生の頃からハマってるあるギャンブルで儲けたお金が2000万円あるそうで、典型的な小金持ちだった。

もっともその2000万円はそのギャンブルの元手用に決して手を付けないという意外と堅実な面も持ち合わせている彼は、その誇りの高さから自分が他の人より少しリッチだと理解していたので、仕事で私達のお世話になったり、ちょっとしたグルメ話のついでに、食事に行こうと言う成り行きになる事も珍しくなかった。

え~っと言いながらも、私達が行きたいお店に連れて行ってくれる彼は、ボーナス後なのをいい事に1人10000円以上するコースがいいなーと私達が言った時も「高いなぁ」とボヤきながら、予約しておいて・・・と、あっさり了解するのだった。

これには私達も笑ってしまった。

何しろいくらお世話をしてても所詮会社の人なので、そんな無謀が通るはずはないと思っていたし、当然じーじが断るものだと思い、もう少しランクを下げた第二候補を用意してあったのだ。

でも、流行り物が大好きなじーじの事、雑誌などに載っているニューオープンには並々ならぬ興味があり、私達と一緒という事や、お金が掛かるのは二の次で「そのお店で食事をする」事が重要らしかったので、どちらかと言えば私達も気楽だった。

でもいくら2人だけで行くわけではないとは言え、そう頻繁に高い食事をご馳走になっていては、流石の私達も多少は後ろめたい気持ちを感じるのも当然で、ある時「今度は私達がご馳走するよ」と提案してみた。

「えぇぇぇぇ~珍しいじゃん」とニコニコしながら嬉しそうにしている彼に「でも分相応のものね」と、私達が良く行く銀座の1000円ディナー屋さんである事を伝えるのを忘れなかったが、それでも彼は楽しそうなのだった。

いよいよ私達がご馳走する日、心なしかじーじはゴキゲンで、今日は午後から外出してそのまま銀座に向かうけど、何時頃仕事が終りそうだとか、待ち合わせの場所についての詳細などを何度も言ってくるほどだったが、私達は内心、そんなに期待されても・・・と閉口した。

何しろ安くて美味しくボリュームがある大人気のお店だが、所詮洋食屋さんである。

お店も木のテーブルに赤と白のチェックのテーブルクロスが掛けてあり、食事もチキングリルやオムライス、ハンバーグなど、どれも美味しいながらB級グルメである事は明らかだった。

それでも派遣社員の私達が、唯一ご馳走することになるという事実を何となく感じ取っているのか、外出先から嬉しそうに電話をしてきて、ともかくお互い銀座に向かった。

待合わせは誰でも分かるソにービル前でして、早速お店を目指したのだが、観察しているといつもは牛のように歩くのも遅いじーじの足取りが、今日は少し速いような気がしたので「お腹空いてるの?」と、つい訊いてしまったが、言いながら私達は理由は分からないがじーじがとっても楽しいのだという事を感じていた。

ものの5分も歩けば小さな古びた入口のお店に到着したが、あまりにもいつも連れてってくれてるお店と様子が違うので私達は、流石に彼が落胆するかも・・・と、恐る恐る「ここだよ」と指差すと、満足気にお店を見上げドアを開けて入っていった。

お店は1FとB1Fだが、B1はどういう事になっているのかテーブルの上に付いているランプのコードが繋がっている壁のようなものが頭上に立ちはだかり、女性でも立ち上がる時にぶつかるほど低いのだった。

もちろん180cm以上もあるじーじには危険な天井だが彼は何事もなかったかのようにすんなり座り、楽しそうにメニューを眺めだした。

「ビールも飲んで~」などと言いながら、このお店のソフトドリンクはイマイチなので、私達は水でOKという、ちょっぴりセコい決断をし、どうにかこうにかオーダーが完了した。

たぶんじーじはこういったお店にあまり来た事がないのか、珍しそうに店内をひとしきり見回し「トイレに行ってくる」とうっかり立ち上がってしまった・・・当然の事ながら例の危険な天井にぶつかりかなり大きなゴツン!と言う音がしたので私達は目を見張って大丈夫?などと、ありきたりの言葉を口走っていたが、なんとじーじはそれでも楽しそうにニヤニヤしながらいつもの調子でスタスタと階段を上がっていったものだから、全てにおいて呑気な様子に私達は大笑いしてしまった。

食事も終わり、まだ9時前なのでお茶しようという話になったのだが、じーじが「じゃぁお茶は俺がご馳走するかな」などと、いつも勘違いする時そうであるような雰囲気で言い出し「どっか落ち着ける店知ってる?」と訊かれたので「いいとこがあるよ」と言いながら私達はさっさと帝国ホテルに向かった。

B級グルメをご馳走して、その倍もするお茶をおごってもらう事になるのはある意味想定内だったが、それはじーじにとっても同じらしく、しかも帝国ホテルで女性からおねだりされてお茶してるというシチュエーションに酔っているようだった。

洋食屋さんで飲んだ、たった1杯のビールにイイ気分になったわけでもあるまいが、いつもより更にじーじの舌は滑らかで突然「ここ1年は不倫してないなー」などと言い出した時には、何千円もするデザートをパクついていた私達のスプーンが止まった。

じーじと言えば、おぼんとかなり真剣な不倫をしている事を知らない者は社内にいないほど有名だが、ここ数ヶ月、別れたらしい・・という噂がまことしやかに流れていたので、それが真実だと悟った瞬間だった。

そんな事をここでカミングアウトされても・・・と困惑しながらも、そこは百戦錬磨の2人なので「ホントなの~?」「で、不倫と浮気って違うのかなぁ??」とか言いながら、より深く真相を探るのに余念がなかった。

その後もゴキゲンでじーじは自分の恋愛を回想し、楽しそうに次々とカミングアウトしたのだった。

この日私達が2人で支払ったのは4000円弱、そしてじーじは1人で10000円近く払い、挙句の果てにとても社内の人に言うべき事ではない事柄を次々に明かしていたのは、じーじの勘違いと優しさの混ざった性格から来る「誰かに聞いてもらいたい」という気持ちと、帝国ホテルのゆったりした空気のせいかもしれなかったが、帰りの電車で逆方向に乗っちゃったよ~と次の朝聞いた私達はやっぱりこの人って給料貰い過ぎ!!と、またもや大笑いだったのは言うまでもない。

彼もA社の、愛すべき勘違い野郎な事を再確認した夜だった。

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数学者の妥協・・・

勘違い集団のA社は私達にとって飽きる事のないネタの宝庫だったが、彼らの殆どはイイ人な上に、高学歴だった。

しかもサポートやITコンサルという理系が当たり前の職種はもちろん、営業さえも全員理系だった。

営業部の紅一点(以下「紅(くれない)」)も当然そうで、私には全く理解できない数学科などという学科卒だった。

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個人的に数学は大の苦手で、その理由が「なんで答が1つじゃないといけないの?物事にはいろんな考え方や答があるのに!!」という私にとって、常に理論的に「この場合はこれが正しい」的な紅は、ちょっぴり煙たい存在だった。

もちろん彼女もイイ人でみんなと分け隔てなく接するし、決して暗いわけでもないのだが、どうにも何に付けてもプライドが高過ぎた。

彼女は高学歴でバイリンガル、中国地方のご実家はお金持ちでご兄弟も全員、一流企業勤務や医者だった。

パーソナル的には、当時40代始めだったが若く見える(と本人だけが言っていた)と思い込んでたし、茶道や華道など、かつては「女の嗜み」などともてはやされた事柄についても一通りの経験と知識があり、大抵の一般常識は解説できた。

そんな彼女は、かなり結婚願望が強いらしかったが、そこはA社で浮かない勘違い感覚の持ち主だけあって、言葉には出さないが「私は仕事だけじゃなく何でもできるから男性が尻込みしちゃうのね」と、心底信じているらしかった。

果たして彼女の理想の男性像は「年収は最低1000万、高学歴でカッコいい人」だったが、彼女はと言えばどっから見ても立派なおばちゃんだった。

本人は見た目がかなり若いと信じ込んでいるようだが、帰宅後1時間で寝られると豪語するように、あまりスキンケアをしているようには見えないし、髪もただのショートカット、営業だから仕方ないが服装はいつもジャケット、それも中途半端な丈のおばちゃんが着そうな代物だった。

加えて何より彼女をおばちゃんにしていたのは、その輪郭だった。

どこがどうとは言えないが輪郭がおばちゃんなのだ。

ちなみに私がA社で働き始めた頃、ビックリするような美形のお姉さんがいた。

美しいだけでなく、痩せてはいるが、最近の若い子の様にただ細いだけでなく、ジムで鍛えた筋肉が程よくつき、その容姿に纏う服はシンプル且つシャープで、計算しつくされたショートカットに良く映えた。

結婚している彼女は、退社後専業主婦をしながら少しアルバイトでもして・・・なんて思っていたらしいが、人目を引くその外見と仕事のキャリアを見込まれ、スカウトされファッション業界に華麗な転身をしたという誰もが羨む女性だった。

芸能人も顧客に多いと言う転身先も惜しまれながら辞め、現在はのんびりしているという噂の彼女は、二子玉川に住み休日にご主人と近所を歩いていると、女性向け雑誌の読者モデルに・・・と頻繁に声を掛けられるが断っているというおまけつきだった。

まったく紅とタイプが正反対の彼女は、果たして紅と仲良しだった。

そして信じられない事には彼女が買う店で紅も服を買っているというのだ。

どこからどう見ても同じ店の服とは思えないが、紅にはそれもプライドを満たす要素であるようだった。

そんな紅は、それこそ数知れないお見合いをし、所謂「結婚相談所」の会員登録もしているという噂だったが、彼女のハードルが高過ぎるのか、はたまた断られ続けたのか、めでたい話はとんと聞かなかった。

ところがそんな紅に春が訪れた。

お相手は某大手都市銀勤務で有名私大卒だったが、見た目は普通のおじちゃんだという話がまことしやかに囁かれ始めた頃、紅と仲良しの噂のチャンネルが、その情報収集力と動物的な嗅覚で紅からある証言を取っていた。

「学歴と年収は譲れないから、外見を諦めたの」というその言葉は私達をボーゼンとさせたが、都内の超高級ホテルで行われた結婚式の写真を見た私達は、失礼ながらいくら諦めるとは言え、あんまりな・・・と、ある意味ド肝を抜かれたのも確かだった。

次男と次女の結婚なので、東京に居を構えるべく彼女達はマンションを探し始めたが、どうやらここでも彼女的なプライドがあったようで、都内でも高級住宅地~でも1本しか電車が通ってない新興住宅地~に、あっさり決まったようだった。

この時も噂のチャンネルは、紅が購入したマンション名をいち早く聞きだしネットで検索していたが、最低6000万円となっていた価格帯を見た私達は、紅の事だから最低の物件など買うわけないよね・・・と意見が一致するのだった。

紅とはもはや交流はないが、子供が出来なかった彼女は最近夫婦2人で家庭菜園に勤しんでると年賀状に書かれていたがその文章も行動も、やっぱり勘違いのままなのが可笑しかったものの、何はともあれ彼女が幸せな日々を送っているのが書面から伝わってきて、微笑ましいのだった。

そう考えると、勘違いのまま一生を送るのは幸せな事なのかもしれないなぁ・・・と、つくづく感じる今日この頃である。

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女王様の「お・す・き・な・も・の」

究極の男好きである女王様でも、流石に他に好きなものも感心のあるものもあるらしかった。

ある昼休み、Yと私が食後の歯磨きをしていると、いつものように小柄な身体をパンツスーツに包み、うつむき加減で入ってきた。

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当然私達は無意識に一歩下って、歯磨き状態なので 「おふはれはまです(お疲れ様です)」と軽く会釈をしながら言った。

女王様はこれまたいつものように、可哀想なほどやつれた顔に満面の笑みを浮かべながら「お疲れ様っ」と、鏡越しに返してきた。

その笑顔がいつもよりちょっぴり誇らしげな気はしたが、その後特に会話はなく私達は歯磨きを終え軽いお化粧直しをしていた。

すると突然女王様が、また鏡越しに「どうしてそんなに肌がキレイなの?」と話しかけながら近付いてきた。

常日頃、例えば外資のA社では自分のお茶は社長と言えども自分で入れるので、パントリーなどで会った時に多少一般的な会話はするが、お互いあまりプライベートな事まで踏み込む事はないので、この質問にはちょっと驚いたし、A社の勘違い集団と違い私達は特に自分の肌に自信があるわけではないので答えに詰まった。

すると女王様は、まるで自分が何の質問もしていないかのように「私も最近肌の調子がいいのぉ~」と、頬に手を当て鏡に向かって微笑を投げかけながら喋りだした。

ある意味、自己完結型の女王様に驚きはしたものの、こういう展開はA社で珍しくない上に、答えに詰まっていた私達はチャンス到来!とばかりに「何か特別な事をなさってるんですか?」と質問する側に廻る事にしたのだが、果たして女王様は「やっぱりそう思う?」と、脈略のない発言をして一瞬私達をひかせた。

普通の会話の流れと違う形式の会話~それは勿論彼らの大いなる勘違いの上に成り立っているが~は、A社では全くと言っていいほど珍しくないので、すぐ立ち直った私達は、驚きなど微塵も表情に出す事無く「えぇぇ・・」と微笑を返しながら言った。

すると女王様は、やっぱりね・・・と満足した様子で、子供が秘密の基地を教えたいけど勿体ぶってる・・というような、ちょっといたずらっぽい目で「どうしても聞きたい?」と言い出した。

私達にしてみれば、1時間の昼休みはもう終りそうだし、第一そんな事に全く興味がなかったので、一刻も早く席に戻りたいのだがそこはOLの哀しい性で「是非ぃぃ~」と答えていた。

すると女王様は上目遣いに私達を交互に見ながら「実はローヤルゼリーを飲んでるの」と、また頬に手を当てカミングアウトしたのだった。

「さっすがぁ・・セレブは違いますねぇ」などと持ち上げながら、そんな心にもない事を言っている自分達に腹を立てながら、まだ話は続くんだろうなぁ・・・と、ちょっぴりうんざりしながらも次の言葉を待つしかなかった。

「飲んでるだけじゃなくて顔全体に塗ってるし、すごく私に合ってるみたぁい」などと、自己満足に浸っている女王様に、私達から返す言葉はなかったが、その後もその製品とどうして出会い、どのような使用感覚で、どこが気に入っているか・・・などなどまったく私達には無関係な自慢話が暫し続き、ようやく開放されたのはお昼休みを10分オーバーした後だった。

今日も勘違いな人々との仕事に、心身ともに疲れを感じながら2人一緒に帰る道々、高いローヤルゼリーを使っていてもシワっぽくやつれていてカサカサした肌は相変わらずだね~、でも飲んでるだけで美しくなったと勘違いできるんだから高い買い物じゃないかもね・・と、大笑いになったのは言うまでもなかった。

数日後、私は営業部にいらしたお客様からの到来物を配っていた。

それは高級で有名なおせんべい屋さんの、小さなおかきの詰め合わせだったが、女王様が大のおせんべい好きな事を知っていた私は全種類揃っているうちに、うやうやしく女王様の席にその箱を持っていくのを忘れなかった。

果たして女王様は「わーい」と、先ずは可愛い子ぶって「どれにしよっかなぁ」と小首をかしげていたが「1種類しか取っちゃダメ?」と、社長のクセに派遣社員の私に甘える素振りをみせた。

図々しいなぁ・・・1箱しかないのに・・・と、内心呆れながら「どーぞどーぞ」と言っている自分をちょっぴり恥じながら答えたのだが、その後女王様は驚くべき事を言った。

「ここ3日間、忙し過ぎて食べるの忘れてたから3日ぶりに食べ物を口にするわぁ」「・・・・・」戦争中でもあるまいし、現代において、ましてや小さいながら外資系企業の社長である女王様が言うセリフとも思えないが、忙しくてご飯も食べられないというのが、彼女のキャリアでは自慢の一種なんだろうな・・・とその言葉を聞きながら、 「そんな事してるからローヤルゼリーも効果がないのよ」と、洗面台の鏡を自慢げに見つめていた女王様を思い出し、少し可笑しくなるの事実だった。

そう言えば前におせんべいを配った時には「私おぜんべいだーいすき♪だって私の主食はおせんべいと赤ワインだもん」などと自慢だかネタだか分からない事をのたまわってたなぁ・・・と、女王様の小さく、細かいシワの中に埋まったファンデーションを見つめながら、社長であってもこんな哀れに年とりたくないぁ・・・と、つくづく感じるのだった。

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ニッポン!!チャチャチャッ!!

やけに高いスキルを持っているが、他のA社の勘違い社員のようにそれを大袈裟に宣伝する事もなく、ホントに凄いのに本人がそれに気付いてないのか???と心配になるほどスキルに淡白なボンバーは、それでも流石に仕事は早かった。

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相変わらず白無地Tシャツの日々は続いていたが彼女は悪人でも何でもなく、ただ結構変わってる人なのだった。

2002年はサッカーファンだけでなく、全ての日本人がサッカーに注目した年。 何故なら初めて日本でワールドカップが開催されたからだったが、果たしてボンバーは熱狂的なサッカーファンだった。

面白いもので、こう言った世界中が注目しているようなスポーツ競技がある時は、例えば普段サッカーなど見た事も無い人が俄かに「オフサイド」「フリーキック」などのサッカー用語を使い、やけにサッカーに興味を持つ事が多い。

かく言う私も俄かサポーターの1人だったが・・・。

ところがボンバーは、どうやら筋金入りのサポーターらしかった。

時々Jリーグの試合を見に行っていたのは知っていたがもちろんワールドカップは特別で、ベッカムやジダン、フィーゴなどと言う超有名人でない選手についても、その経歴などについて詳細に知っているのだった。

海外で開催される世界レベルのスポーツイベントの殆どは時差の関係で日本では真夜中に行われる事が多くサラリーマンには辛いので、日本開催は嬉しいし待ち望んだものだったが、実際その時になったら困った事に気が付いた。

ワールドカップは1ヶ月かけて決勝戦までを戦うトーナメントなので、当然の事ながら平日の昼間も試合があり、それは開催国でも同じ条件に決まっていた。 開催1ヶ月くらい前になると、それこそ日本中どこでTVをつけても話題はワールドカップ一色となり、いよいよ俄かサポーターが巷にあふれ出したが、A社も例外ではなかった。

Yと私も常日頃サッカーの「サ」の字も言わないが、これだけ世間が騒いでいるとイヤでも気になるもので、かと言って有給を取るほど入れ込んでるわけでもなく、でも見たいなぁ・・・と、実にミーハー的な気持ちでいたのだった。

いよいよ明日は日本の初戦という前日、俄かサポーター達はニュースで仕入れた試合の展望などをかしましく話題にしていたが、何となく社内もやけにザワめき始めた。 それは奥のほうから聞こえてきて、イチ早くこれに気付いたYが自販機で飲み物を買う振りをして様子を探り、私の所に飛んできた。

それによると明日の初戦を、奥の通称「P部屋」で見ていい事になったと言う事だった。

その後、矢継ぎ早に聞こえてくる情報を繋ぎ合わせると、明日の開催時間までにP部屋に大きなスクリーンが設置され、勤務時間中だが無礼講でこの歴史的瞬間を全員が見ていい事になったらしい。

ちなみにP部屋の”本名”はプロジェクト部屋で、その名の通りシステム系緊急プロジェクトの行われる、ある意味もっともA社らしいと言える部屋かもしれなかった。

機密性重視のため、フロアーの一番奥にあり関係者以外殆ど足を踏み入れないその部屋は、その性質から常に使われているわけではなく、ワールドカップ開催に合わせたかのようにこの時期はまんまと空いていた。

こういう、ちょっとみんなが感心を持つ事項になると必ず表舞台に登場するおぼんが、普段はサッカーなど全く興味が無いのにいそいそとP部屋にスクリーンを設置しPCと繋いでテストをしていたが、Yと私の予想ではたったこれだけの事なのに「やっぱり技術系の中心人物は私なのね」と、勝手に納得して満足していると思われた。

2002年6月4日は、朝早くから全てのTV局で試合会場からの中継を流し、新聞も政治も全て日本VSベルギー戦一色だったのは言うまでもないが、社会人たるものそんな事で浮き足立ってはいられないので通常通り出勤し、取り敢えず一服しに行った私は、目が真ん丸くなり、一瞬息が止まったのが自分でも分かった。

そこには、全日本の青いレプリカユニフォームを着てGKのような格好をして意気込んでいるボンバーがいたのだ。

彼女は私を見つけると何事もなかったように朝の挨拶だけすると、真剣に初戦の戦略を練ってでもいるのか、首を傾げたり目を瞑りながら小さく独り言を言い、その間にも足はステップ・・・いや反復横跳びのような動作を繰り返していた。

私はその一挙手一投足が気になって仕方がなかったが、仕事に入るとそんな事は忘れてしまい、あっさりキックオフの時間になった。

電話中だった私をYが呼びに来てP部屋に行くと、全社員が集まっているのではないかと思うほど満員だったのだが、その最前列に陣取っていたのが熱狂的なサッカーファンのボンバーと、何故だかおぼんだった。

ボンバーはユニフォームはもとより、たぶんJリーグの試合会場で売っている全日本応援グッズをたくさん持ってきてスクリーンに向かって大声で叫び、おぼんはおおよそスポーツ観戦らしからぬキリッとしたタイトスカートのわりに、どこから仕入れたのか全日本のメガホン、スポーツ観戦にもっとも相応しいフィンガーフードのポップコーン、会場で良く売っているようなスポーツドリンクなどを沢山持ち込んで、すっかりサッカー慣れした風情で大騒ぎだった。

ボンバーは選手の動きひとつひとつに「あ~っっ!!」とか「遅~い!!」「上がれ~!!」など、まるで関係者の如く声を上げ本物のサポーターの気概??を示していた。

まぁこの時は日本中全員がそんな気分だったので誰一人笑う人もなく、スクリーンに釘付けだったが、その試合が引き分けたので大変だった。

もちろん試合終了後しばらくは、A社内でもその話題がHOTだったが、ボンバーは勝っていた試合なのに追いつかれて引分にされた事がどうしても悔しいらしく、大声で全日本の不甲斐なさを罵り、大層ゴキゲン斜めだった。

でもYと私が何より可笑しかったのは、ボンバーが恒例の白Tではなくツルツルの青いレプリカユニフォームを着ていた事だった。

いくら熱狂的なファンでも、廊下で来客に遭遇するかもしれない会社に、全日本ユニフォームで登場したボンバーに驚きもし、その勇気と熱意に、敬意を払う気分でもあった。

そしてその姿と行動は、全日本の試合が完了するまで続くのだった・・・。

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ボンバーねえちゃんはフレンドリー

勘違い集団のA社では、その多くの勘違いが自分への大いなる自信の上に成り立っている。 彼女の入社の話を聞いた時も、その素晴らしい経歴によって、また同じような勘違い女が増えるか・・・とYと私はうんざりしたのだが、出社初日からその考えはちょっと違うのかも・・・??と気付かされた。

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なにしろ彼女の経歴たるや、A社の人が逆立ちしても届かないような素晴らしいものだし、ある意味ではA社の人たちのもっとも苦手とする分野に精通していた。

彼女は先ず語学に堪能だったために、手始めに所謂「産業翻訳」的な業務をしていたが、これがまた早くて美しい翻訳で今迄、自分は語学に堪能・・・と勝手に思い込んでいたA社の人々は、目から鱗だったに違いない。

初登場の彼女については、いくつか披露しておくべき特徴があった。

先ず、その才能や経歴とはうらはらに、服装が変わっていた・・・というか、毎日ほぼ同じだった。

間違っても痩せているとは言えない彼女は、どうやらカジュアル志向らしくTシャツにパンツが定番で、そのTシャツは90%くらいが白の無地と決まっていたが、そのサイズが合ってるのか合ってないのか、実に奇妙なのだった。

小さくないのは、Tシャツに全くと言っていいほどシワがない事を見れば明らかだが、大きいかと言うとそんなに余裕があるとも思えない。

髪はセンター分けのボブで色つきフレームの細いメガネの丸顔の下にそのTシャツがあるのは、何とも不釣合いでつい目で追ってしまうのだが、西陽などは彼女を影で「ボンバーねえちゃん」などと呼んでいた。

そんな彼女はかなりのヘビースモーカーだった。

A社では社内に喫煙室があり、喫煙者はそれぞれ決まった場所にタバコを置いていたがその場所は暗黙のルールで決まっていた。

私は喫煙スペースに割りと近い棚の中段が”指定席”だったが、最近やけにタバコが減るなぁ・・・吸い過ぎかしら?

と感じ始めた矢先、何故だかボンバーが私の苗字に”ちゃん”をつけて親しげに近付きながら「ごめん、さっき1本もらっちゃった」と言いに来た。

部も違うし席も遠い、何よりろくに話した事もない彼女が、どうして私に親近感を抱いてくれたのか分からないがそれ以来彼女は私を「社内の親しい人」の1人にカウントしてるようで、何かにつけて「Sちゃん、ちょっといい??」と言いにくるようになり、時々はアイコンタクトだけで私を喫煙室に誘うのだった。

ある時、彼女がちょっぴり落ち込んだような、心配しているような顔で「ちょっと、いい?」と、いつになく深刻な顔で私のところにやってきたが、いつもの事ながらボンバーはそんな時、私の答を待つような事は一切無く、足早に喫煙室に向かう。

いつもと様子が違うので私も急いで後を追ったら、彼女はタバコに火を点け、考え込むように外を見て黄昏ていたがそれは、思い悩んでいるような、簡単に声を掛けられないような雰囲気だったので私もそっとタバコに火をつけてボンバーの様子を見ながら、彼女の言葉を待っていた。

するとじっと窓の外を見たまま「○○さん・・・大丈夫かな」と、独り言のように呟いた。

私はその言葉の意味が分からなかったので「どうかしたの?」と探りを入れると、「○○さんよ・・離婚したんでしょ?」と、初めて私を振り向いた。

その○○さんはつい最近入社した、ある部の女性部長で、時々私が彼女の仕事を手伝うのだが、もちろん特に親しいなどと言う事はないし、彼女のプライベート事情など全く知らないし興味もない。

ボンバーは私なら詳しい事を知ってるかと思った・・のような事を言いながら、2本目のタバコに火を点け、明らかに○○さんに同情しているようだった。

しかし、新参者の彼女が○○さんと親しいのも妙だと思い「離婚したの?」と聞き直すと「えっ?だって名前変わったじゃない?」と、どうしてそんな事聞くの?というような顔をして「大丈夫かな」と再び呟きながら、まじまじと私をみるのだった。

でも、私は知っていた。

○○さんは元々旧姓で入社してきたのだが、何かの理由で現在の結婚後の姓に変更したのだ。

ちょっと可笑しくなってその事をボンバーに告げると「あぁ~そういう事??心配しちゃった」と、あっけらかんと納得しまたもや足早に喫煙室を出て行った。

彼女はA社の勘違い人間とは明らかに違う人種だったが、やっぱり不思議な人~それもかなり不思議~で、ある意味究極の「勘違い」と言えなくもない証拠には、この後も全く悪意のない、かなり的外れな行動が続くからなのだが、それは次回のお楽しみ。

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女王様にはかなわない!

何を勘違いしてるのか、自分よりキャリアも年齢も上のコンサルタントやエンジニアを怒鳴りつけて、自分の存在を誇張しているかのようなドームの横暴ぶりは、日々進化していた。

何様のつもりか、ヒステリックに怒鳴り続けるその姿はどこか滑稽で、怒鳴られている人達には申し訳ないが、その内容とは裏腹に周囲の失笑をかっていた。

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それほど彼女が彼らを怒鳴る事は、その能力やキャリアに見合っていなかったのだ。

と同時に、周囲はどうしてあんな「ガキんちょ」に仕切られて、働き盛りの彼らが黙って我慢しているのか、歯痒い気持ちでいた。

ところが、人間イイ気になってると、ろくな事はないと証明される事件が起きた。

ベテランエンジニアのTさんがキレたのだ。

初登場の彼については少し説明が必要だが、エンジニアのイメージ通り、寡黙で真面目に黙々と仕事をこなし家庭もきちんと大切にし、目立たないがその技術力と勤勉さは会社にとって大いなる財産になっている。

そんな彼は、一緒に怒鳴られているコンサルタントのKさん(以前登場した、女王様が監禁までした大好きな男性)の、真面目に仕事に取り組む姿勢を尊敬しているようだったので、自分はともかくKさんを頭ごなしにバカにし切って怒鳴りつけるドームを許す事ができないらしかった。

「システムの事を何も分からないのに、いい加減にしてくれ!」と彼にしては精一杯、でもどこか弱々しい声で言い放ったのだ。

いつも物静かで黙々と仕事をこなし、ドーム的には「存在感の無い」Tさんがキレた事には、流石のドームも驚いたらしく一瞬無言になったが、逆ギレした彼女はヒールをイラついた音でコツコツ言わせながら、コンサル部リーダーのじーじの元へ向かった。

事の顛末を興味深く見守っていた私達は、Tを応援しながらもドームの逆襲がどんなものか心配だった。

でも流石にドームにデレデレしているじーじも、最近のドームの横暴振りには辟易していたようで、その言動を注意したらしくこの後、Tさんがキレた一連の事件は表立っては語られず、次の日からドームの怒鳴り声も鳴りを潜めた。

しかし、ある意味ドームを見直す事実を私達が掴んだのは、彼らを怒鳴る事で自己の存在をアピールし、ついでにストレス解消もしていた彼女が新しく「おいしい仕事」を見つけた直後だった。

ある朝、Yと私は一緒に会社のエレベーターで、閉まりそうなドアを無理矢理開けて飛び込んできたドームと一緒になったのだが、あまりの驚きに朝の挨拶も忘れてしまった。

それは、前から何故だか他のコンサルメンバーより1泊多い出張をしていたドームが出張に出発する朝だったのだが、ただでさえ厚化粧の彼女がより一層「塗りたくって」いた上に、今時「on the 眉毛」の前髪にチークはまったく「おてもやん」、しかも数年前のスーツを着てるもんだから、どっかの若作りのおばちゃんのようないでたちで、ご丁寧にキッツい香水のおまけ付だった。

たぶんポカンと口を開けてた私を横目にYがやっとの思いでドームに「イ・・イメチェン?」と訊くと「え~っ・・」とガラにもなくはにかみを見せたが、どう考えてもドームはイカしてると勘違いしてるのは明らかだった。

そのまま意気揚々と席に着くと、果たして周囲の人は「どうしたの??」と、ギョっとしながらも訊いていたが、ここでもドームは「やっぱり私って人目をひく可愛さなのね」と勘違いしまくっているようで、ニッコリ微笑んだりしていた。

ところでドームの「おいしい仕事」だが、社内の人も自分を見くびっている、唯一の頼みの綱のじーじさえ自分を庇いきれない。

キャリアや知識もなく人間的にも人気の無い彼女は、プロジェクトの基幹とも言える顧客を取り込む作戦に出た。

A社の中でこの当時羽振りのいい部と言えば、なんと言ってもコンサルだったが、そこである程度の地位を保とうとすれば何としてもプロジェクトの、しかも金額の大きい、できれば難しいものに関わっているのが最低条件だったので、平たく言うと顧客のシステム責任者と関係を持ち、自分をシステム担当に加えてもらったのだ。

まったく汚らわしい勘違い女だがすぐ男を取り込む手腕と、そこまでする仕事への執着心には、ある意味感心するのも確かだった。

どうやら彼女の自称「イメチェン」は、その相手へのアピールの為にしている事らしかったが、日々みんなが自分をうっとり見つめているという自己満足に浸っていた彼女をあきれ返って観察していた周囲の人々は、ある日の女王様の一言で溜飲を下げた。

「あら、イメチェン?あなた髪型も顔もヘンよ」と真面目な顔であっさり言ってのけたのだった。

もう私達を含め周囲の社員は笑いを堪えられず、思い出しては噴出し・・の繰り返しでその日は仕事にならないほどだったが誰よりも笑いが止まらず喜んでいたのは、KさんとTさんである事を考えると、私達はこの時ばかりは女王様に拍手喝采を送ったし、いくら偉そうにしてもドームごときが女王様に太刀打ちするのは無理な事だった。

しかし、本当にいつもドームが自慢しているように、電話1本ですぐ駆けつけてくれる弁護士や医者が周囲にたくさんいるなら身体を張ってまで仕事にしがみ付く必要はないと思うんだけどね・・・・。

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ドームのたくらみ

A社の上得意の多くは製薬会社で、その「頭脳集団」は大阪に集結している事が多いことは以前書いたが、これは新薬開発などというものが20年近い歳月と、少なくとも百億単位の費用がかかる事を考えると、A社にとっては最重要業界であった。

もっともプロジェクトと一口に言っても、その中身や規模は様々で、当然コンサルタントとしてそれに当たるにはかなりの知識と高い技術力が必須なのは明らかだった。

勘違い人間の宝庫であるA社の中でも、最も可愛げのない勘違い女はドームだが、マズイ事に彼女もコンサルの一員だった。

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かなりハイレベルと言う、女王様からの触れ込みで入社したドームだったが、1ヶ月もしない内にそんな事は全くの風説で実は何もできない、単なる事務員レベルである事が表面化した。

そこで彼女はコンサル部のリーダー、じーじと不倫関係になり”誰でもできる簡単な仕事”を割り当ててもらう事で、製薬会社のプロジェクトの末席に連なるという作戦に出た。

これも以前書いたが、じーじも流石にドームの実力は理解してるので、とても危なくて自分の参加してないプロジェクトにはアサインできない。 そこで毎週いそいそと2人一緒に泊りがけでプロジェクトに勤しんでいた。

何故だか他のプロジェクトメンバーより1泊多いドームは、これも前泊するじーじとマンツーでコンサルとしての教育を受けていたらしいが、そんな付け焼刃で、何十年もの経験を持つ他のメンバーに太刀打ちできる筈は、どう考えてもなかった。

女としてだけではなく、社会人としてコンサルとしてもエベレスト並みのプライドを持つ彼女は、その事が我慢できない。

A社のプロジェクトはコンサルと技術者がセットにならないと進めようがないので両者の足並みを揃える事が不可欠だが、これを調整するのも大変な作業だった。

ドームは自分の無力を棚に上げて、常日頃から技術者に文句を言っていたのだが、寝物語にでもじーじにおねだりしたのか自分が参加しているプロジェクトの技術部門を担っている、技術系リーダーと、経験豊富なエンジニアの仕事を監視する役目を勝ち取った。

この日から彼女の暴挙はエスカレートし「5分でやってみて」などと、技術者2人のある作業を、腕組みしストップウォッチを片手に彼らの後ろで監視し、5分が過ぎると「まだ出来ないの??バカじゃないの?」「やる気あるの?もっと要領よくこなせないの?」などと、まったく目上の人に対する礼儀を忘れ去った様子で怒鳴りつけたりしていた。

困った事には、稀に会社にいる女王様は「仕事に男も女も無い」と信じ込んでいて、同じようなタイプであった事だが、決定的なドームとの差は、彼女は充分の経験と知識も持っているプロジェクトのプロで、周囲の人もそれに異存はないという点だった。

なので女王様に怒鳴られるのとドームに怒鳴られるのでは、まったくその受け取り方が違うのは仕方のない事だったが、じーじとの不倫関係だけでその役目をgetしたドームは、意気揚々とストップウォッチ片手に怒鳴りまくっていた。

まったくそれは当事者のみならず、例えば技術者2人と同じシマに座っていたYも大いなる被害者だった。

あまりの大声にそばに座っている彼女はうるさいのと気分が悪いのとで、その日から耳栓をして仕事をしなければならなかったほどだったが、そんな威張り散らしているドームの作成したドキュメントはめちゃくちゃで、それを手直しするのがYだったのも皮肉だった。

ちなみに、Yから聞いて大笑い&どうしても理解できないドームのドキュメントの不思議な部分は、消しても消してもその下からテキストボックスが出てくる事で、どうしてそんなに重なっている必要があったのか全く不明だったが、とにかくそんな仕事ぶりの彼女が技術者を怒鳴りつけているのだから、何とも納得できない事柄だった。

こうして「俄か権力」を手にしたドーム女だったが、この後大きなツケが廻ってくる事になるのだった。

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大事件勃発

いつまでも「女の子ちゃん」を気取る女王様の大本命、Kさんは女王様の気持ちを知っててさり気なく付き合ってるのか、はたまた本当に気付かないのか、傍から見ていると「これ以上無い」ほど適切なスタンスで女王様とビミョ~な距離を保っている。

しかも、それが全く計算されたものでなく自然体でできるものだから、女性陣の人気は高まるばかりだった。

女王様もそんなKさんに誠実さを見ているらしく、夜のお付き合いがなくても、よいしょされなくても、変わらない態度で接する唯一の相手のようだった。

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そんな女王様を観察していたYと私は、女の子ちゃん扱いされる事や、褒め称えられる事は大好きな女王様が、どんなに出世してもそこは普通の女性であり人間なので、本当は「人として」尊重しあいながら付き合える相手を必要としているのを見抜いていた。

A社の殆どの人は女王様の顔色を伺って言う事を決めたりして点数稼ぎに余念が無いが、Kさんだけは自分の信念に沿って発言し、たとえそれが女王様の意見と違っていても納得するまでディスカッションするものの、決して険悪な状態にならないという、稀な男性だった。

女王様の男性の好みの中に「センター分け」、つまり髪の分け目が真ん中でサラサラヘアの人というのがある。

同棲しているSさん、社内のお気に入りであるコンサル部リーダーのじーじ、中途入社のSさん、取引先のおエライさん・・・と言われて見れば全員センター分けだが、中でも最もトラディッショナルなセンター分けをしているのがKさんだった。

そのせいだけではないと思うが、とにかく女王様は哀しいほどKさんが大好きなのだった。

そのKさんを悲劇が襲ったのは、A社お得意の大手製薬会社のプロジェクトも佳境に入った頃だった。

仕事の特性上ミーティングが多く、しかも長時間に亘るのはある意味当たり前で、それが深夜に及ぶ事も珍しくない。

でもこの時ばかりは異常事態だった。 なんと女王様は「最重要課題のミーティング」と銘打ち、Kさんと2人で夕方からミーティングルームに籠ったのだが後でKさんがこぼしたところに拠れば、それは朝5時過ぎまで、ほぼ半日続いたそうである。

私達はあまりの事態に驚きKさんに同情もしたが、はっきり言ってちょっぴり興味本位になるのはどうしようもない事で、つい探りを入れたところでは、大の男と女が1つ部屋に半日籠っていても、何事も起きなかったそうである。

もちろん会社のミーティングルームという場所柄もあったと思うが、女王様がこれを好機と捕らえていた事は想像に難くないだけに、その必死さが益々女王様を可哀想で寂しい女性に思わせたし、Kさんのあまりの真面目さが歯痒い気もした。

しかし、考えてみればKさんは立派な妻子持ちであり、女王様がSさんと住んでいる事は周知の事実であったのでKさんが妙な事に巻き込まれて家庭にヒビを入れたくないと考えるのも当然なのかもしれなかった。

ただ、女王様があまりにも堂々と男性を口説くものだから、ついうっかりその野望の行方を見守ってしまうという感じだった。

こうして女王様最後の賭けも不発に終わり、流石に女王様もKさんを我が物に・・・という妄想から覚めたようでそれ以降、Kさんの上に陽が当たる事はなく、行く末を案じたのかKさんは1年後に退職した。

その送別会の席でKさんの近くに座った私達は、如才なく楽しそうに飲み食べしているKさんを横目に、女王様とKさんが会う事はもう2度とないだろうな・・・と確信していた。

しかし、これらの事が全てKさんが描いたストーリー通りだとしたら、Kさんもなかなかやるものである。

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女王様の悲哀

いくつになっても、社長になっても「可愛いコちゃん」ぶるのが大好きな女王様は、誰もが認める男好きで守備範囲もかなり広いが、そんな彼女にも好き嫌いがあるのは当然だった。

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彼女が気に入っている男性は、内容的に美味しいプロジェクトにアサインされ、地位や年収も自然と上がる仕組みとなっていて、勿論これには泊りがけの出張や夜のお相手も含まれる場合が多く、日常的に彼女を「女の子扱い」するのは不可欠だった。

ところが、これを全くしないのに女王様の一番お気に入りの男性が存在した。

彼はコンサルの元マネージャーで、何事に対しても真面目に取り組み人当たりもいいが、仕事や礼儀などの件でおかしいと感じる事があれば、ハッキリ物を言う、所謂「一本筋の通った」人であった。

外見は中肉中背だが、高校球児だったというだけあって肩幅など広くガッチリしているし、奥様のおかげと思われるがいつもパリっとしていた。

折り目正しく女性には殊の外優しいが、決してデレデレしないところが女性にウケて「結婚するならKさんのような人」と女性達から言われているタイプであった。

何事につけても女王様はKさんに相談という名目で近付き、何とかして特別な関係に持ち込もうと必死なのは見ていて哀れなほどだった。

もちろん女王様は立場上、仕事の話で近付くのだが、その魂胆を知ってか知らずか、その都度Kさんは生真面目に応対し、結果として女王様に付け入るスキを与えないのだが、これが女王様には歯痒い事この上ないらしい。

実際、彼女はトップコンサルのSさんと永らく不倫関係にあるのだが、どうしてもKさんの事も気になるらしくアピールは続いた。

外資なのでもちろん本社は海外にあるのだが、本社で各国の代表が会議をする出張に、なんと社費を使ってKさんを伴った。

その出張の詳細は分からないが、Kさんから聞いたところによれば女王様は終始上機嫌で、会議も日本支社に優位なものとなり、驚くべき事には、得意の英語でイヤミまで言い放ったという。

女王様の秘書も兼任していた私はある日彼女からの電話で、滅多に誰も近付かない女王様の机で探し物を頼まれた。

急ぎの用だったので電話をしている間は必死だったが、終わってふと机を見渡した私は、そこで見つけたものにドキドキした。

絶対に座っている人からしか見えない巧妙な位置に、ロンドンで撮ったと思われる、Kさんと腕を組んで満面の笑みを湛えている女王様の写真を発見したからだった。

それは本当に今まで見た事も無いほど楽しそうな女王様であり、その腕は執拗に捲きつくヘビの如くKさんを捕らえている。

自分には何の関係もないのに、何だかとても罪の意識を感じ、私は慌てて転びそうになりながら急いで女王様の席から脱出した。

私は何だか女王様が可哀想になった。 その世界では有名人で、講演会をすれば何万円もの券があっという間に売れ、著書も多い。

マンションを3つ所有し億単位の年収を稼ぎ、着ている物はアルマーニを始めとするブランド品という、人も羨むプチセレブだ。

なのに一番手に入れたいものは入らない。

でも今日も女王様は一生懸命仕事をし、その合間にKさんに色目を使い、Sさんと住んでいる。

公私共に何とも忙しいのだが、彼女の心には風穴が空いているに違いない。

そう考えると、ちょっと甲高い声も、せかせかした話し方も、仕事中にヒステリーを起こすのも仕方ないような気がして彼女の意味不明の要求にも応えて見ようか・・って気になるのだった。

Kさんへの執着はかなりなもので、この後ちょっとした事件が起きるのだが、それは次回に・・・。

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続Pink Collection

まだ少し肌寒いが、春の足音がそこまで聞こえているこの日、私達はお気に入りのカフェで仕事の疲れを癒していた。

美味しいお料理と他愛の無い会話、ちょっとオシャレな立地でストレス発散をしていた私達の隣のテーブルに、一度会ったら決して忘れない、いや忘れる事のできないおばちゃんが現れたのは、ちょっと気だるい風の夜だった。

前回書いた通り、この浮世離れしたおばちゃんはどうやら若いイケメンと食事をするのを、人生の課題としているようで、観察したところによると、彼らのうちの右手に座っている男性におネツのようである。

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どんな職業なのか、彼らの髪は肩の少し上まである茶色で、スーツも一般企業のサラリーマンという風情ではない。

もっとも主役のおばちゃんからして、全身ピンクに金髪にちかい茶色の長い髪なのだから、別段おかしな組合せではないのだが・・・。

おばちゃんは、まるで10代の女の子のようにキャァキャァはしゃぎ、甘ったれた声で首をかしげながら彼らに話し掛けお気に入りの彼にしなだれかかって笑転げている。

その様子を、丁度食事が終って飲み物タイムになっていた私達は、口をあんぐりさせて背後からとっくり拝見する事になったのだが、暫くしておばちゃんが急に後にガクッと首を垂れたのには、少々焦ってしまった。

後から見たら年齢不詳の彼女をハッキリ前から見てる私達には、彼女がかなり年配だと分かっていたので、あまりにもエキサイティングな気分の中で、体調に支障を来たしたのでは???と心底心配になったのだ。

前方に首を垂れたなら睡魔に襲われたかな?とも思うが、何しろ後にのけぞるように、しかも全身から力が抜けてしまっている証拠には、これ以上垂れられないというくらいの反り方が、まったくイナバウアー状態である事でも明らかだった。

あまりにも今迄の出来事が面白かったので、このギャップはかなりの衝撃だった。

ところが同席しているイケメン達は涼しい顔で、むしろニヤニヤしてるではないか・・・ もしかしたらこの男達は悪者で、おばちゃんにいい顔して騙すつもりなのかも・・・と、またもや何の関わりも無い、言葉を交わした事もないおばちゃんの事が心配になって、それこそ固唾を呑んで見守るしかなかった。

そのまま緊迫した5分ほどが過ぎ、すっかり私達の紅茶も冷めてしまった頃、にわかにおばちゃんが動き出した。

不安と期待の入り混じった気持ちで見つめていると、おばちゃんは何事もなかったように、さっきと同じ甘ったれ声で笑いながら、イメケン達にしなだれかかっている。

おまけにイケメン達も何のわだかまりも無く話を聞いている。

私達は今目の前で見た光景は夢だったのかと、ホントにお互いの頬をつねってみたが普通に痛いので、現実だったのは間違いない。 なのに、当の本人たちは空白の時間など数秒もなかったように、無邪気に笑っている。

何だか拍子抜けしたような、安心したような、騙されたような、ちょっぴり納得できない気分でお茶に手を伸ばした私達の目に再びイナバウアーなおばちゃんの姿が飛び込んできたのは、そろそろ帰る準備をしようとしていた時だった。

この時もイケメン達はニヤニヤしていただけだったが、前と違ったのは私達の方を見ている事だった。

どうやら私達が彼らのテーブルで起きている出来事に興味津々なのをすっかりお見通しのようで、私達が面白がっているのを見て、楽しんでいるのだった。

そしてあと2度、イナバウアーは繰り返され、その頃には私達もおばちゃんが年齢のせいか体質なのか、急に寝てしまう事に気付いていたし、イケメン達は慣れっこらしかった。

でもこの日、おばちゃんはハシャぎ過ぎたのか、イケメン達の様子からもいつもよりイナバウアーの回数が多い事が察せられた。

そして流石の彼らもお店の中央の席で、自分達がネタの一部にされてるのが恥ずかしくなったのか、3度目以降は「何とかしてよ~」という助けの色を目に浮かべ、席から私達に助けを求めてくるのだった。

もうこうなると私達も、何だか良く分からないながらも彼らに同情し始めたし、この劇の幕が下りるまで帰る事はできない気持ちになったのは当然だったが、どう考えても彼らを助けてあげる事などできるわけもなく、彼らもためにも、もちろん私達のためにもおばちゃんが帰るのを待ちわびるだけだった。

こうして4度イナバウアーを繰り返し、上機嫌で清算した彼女は、送ってもらおうという気は微塵もないようで「じゃ、またね」と最後まで鼻にかかった甘い声で手を振って席を立ったが、この後に続いた彼女の言葉がまた傑作だった。

「私ちょっと眠くなっちゃった♪」 まったく幸せなおばちゃんもいたものである。

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Pink Collection

今夜はA社の勘違いな人々の事から離れ、その人々と毎日一緒に仕事をしていたYと私が出会った、とてもキュートなおばちゃんについて触れてみたいと思う。

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私達は派遣社員だったと言う事もあるが、ハッキリ言って仕事がとっても早かったので、だいたい6時頃には退社できる日々だった。

A社は桜の季節になると観光バスが数珠繋ぎになる大人気の桜の名所がそばにある都心の一等地にあり、交通の便も非常にイイので会社の帰りの寄り道には事欠かなかった。

中でも私達お気に入りのカフェは2駅先にあった。

そこはアクセスがいいだけでなく、女性雑誌に載りそうなほどオシャレな創りで、季節のいい時にはテラス席に座り、近くのセレクトショップを訪れる、今時風なカップルを見ているのも楽しい。

何よりも嬉しいのはカフェ・ディナー・スイーツ・お酒と、どの時間帯でも何でもオーダーでき、その上メニューも豊富な事だった。

その日も私達は、ディナーには少し早い6時半頃その駅に着き、付近のお店を冷やかしつつ、7時半頃お店に入った。

まだ少し肌寒い季節ではあったが、何となく半袖が着たくなったり、薄目の色が良く見えたりする「先取り気分」と同じで冷製パスタなんてメニューも気になったりする。

何種類かの食事をオーダーし話に花を咲かせていると、私達の視界の隅に鮮やかな色彩がチラついた。

そしてそれはどんどんこちらに近付いてきて、ついに隣のテーブルに座ったのだが、その姿は私達の会話をストップさせるのに十分過ぎた。

彼女はブロンズの長い髪で、着ている物は上から下まで微妙に色の違うレーシィなピンク、お化粧も白塗りにピンクの口紅、そして常連らしくスタッフに話しかける声はとても甘かったが、どう贔屓目に見ても60才は超えていた。

彼女は上機嫌で、いつもの定席らしい席に座り、若いイケメンスタッフに「ねぇえぇ・・・○○くんの携帯いくら掛けても留守電なんだけど、番号これで合ってる??」などと、鼻に懸かった甘い声で媚びるように別のスタッフの携帯番号を確認していたが、明らかにそのスタッフが困っているのは、その端正な顔に浮かんだ苦笑で明らかだった。

そしてメニューを手に「これはどんなのぉぉ?」「こっちはぁぁ??」などと、やけに語尾の延びる言い方で訊いていたが「春らしいからこ~れ!!」などと、菜の花の冷製パスタといちごのサラダという、季節感溢れるセレクトをしたのだった。

お料理が運ばれてくると、これまた大仰に「美味しそ~」と喜び、いちごのサラダを見ては「かぁわい~ぃぃ」とはしゃぎながらスタッフを横に立たせたまま、味わっては感想を述べている、どうやら迷惑な常連客らしかった。

暫くすると、若い男性客が2人店に入ってきた。

驚くべき事には彼らの姿を見つけるや否や彼女が「こっち!こっちぃ~」とまた例の語尾の延びる言い方で立ち上がって手を振ったのだ。

前述の若いスタッフと同じ種類の苦笑を浮かべながら彼女のテーブルに近付いた彼らを、手を取らんばかりに出迎えた彼女はお店中に聞こえる様な大きくウキウキした声で、来てくれて嬉しいというような事を言い、今日の出来事などを話していたが「あ、そうそう・・・」とうやうやしくバッグに手を伸ばした。

私達はこの時初めて気付いたのだが、このバッグがヴィトンでいかにも春らしいほんのりピンク系の、Yによれば日本には売ってない代物だった。

その中から彼女が取り出したのは、ディズニープリンセス・リトルマーメードのアリエル模様の、これまたピンクのファイルだった。

この頃には私達は食事も終わりお茶していたのだが会話はなく、彼女の一挙手一投足に釘付けだったので、そのファイルから彼女が取り出したものに瞬きも忘れるほどだった。

それは、ピンクの衣装を纏った彼女が、にっこり微笑んだ写真が印刷された大判サイズのハガキで、彼女はとても気に入っているようで、彼らに自慢げに見せた挙句、「あ・げ・る」とちょっと恥ずかしそうな風情を見せながら手渡したのだった。

私達はもうお茶も会話も眼中になく、このLIVEで目の前に繰り広げられている面白い見世物に夢中だった。

彼女と彼らはどういう関係か分からないが、彼らはどう見ても好き好んで時間を共にしているとは思えないので、もしかしたら仕事上とても重要で、夕食のお誘いを断れないとか、彼らにとっては頭の上がらない、大切にしなくてはならない立場の人物らしかった。

それにしても仕事の話など微塵もなく、次々と高級バッグから飛び出してくる、彼女ご自慢の品々を褒め称えなくてはならない彼らに同情してしまった。

この後も彼女のオン・ステージは延々と続くのだが、第2幕は次週のお・た・の・し・みぃ。

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バカえもんの仕事ぶり

少し前に入社した、高学歴な「バカえもん」は、その学歴だけで仕事ができると心底から思っている、本物の「おバカさん」だった。

A社は途中入社が多いとは言え、その業務の専門性の高さからズブの素人が入社する事は絶対なく、彼も多少はその筋の知識はあるらしく、実際入社前からその評価は格段に高かった。

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多くの勘違い人間がそうであるように、彼もまた「自分はこんなにハイクラスなのにフレンドリー」と考えていて、それは例えば私のような事務系の人間に対して一層顕著に現れ、やけに丁寧でにこやかに接するのだった。

その事は「下々にも分け隔てなく接するいい人」と、彼らを益々勘違いの渦に巻き込むのだが、不思議な事にそれがまた彼らのエベレスト並みに高いプライドを満足させる一因らしかった。

バカえもんも最初はプロジェクトに参加していなかったので、同じ部のYに様々な質問をしたり、私に社内の事を聞いたり、情報収集に余念が無かったのだが、丁寧にかぶっている仮面も、本当は見下している私達などより自分が知らない事があるとすぐボロが出て、隠しようも無いイヤな表情を見せるのだった。

そんな彼も2ケ月ほど経って仕事や社内の様子が飲み込めてくると、プロジェクトに参加する事になった。

プロジェクトなどと言うものは、期限があるのが当然だが、A社のそれは大手企業の命運を掛けた大規模なものもあり何年も必要な事が多かったので、途中から参加するにはそれまでの経緯や取引先の細かい事情などを把握している事が大前提である。

ところがバカえもんのような、自分を中心に地球が廻っているような錯覚をしている人間にはそれが理解出来ないのか、取引先の事情より、自分の能力を誇示したがるという、全く不可解な思考回路の持ち主だった。

彼が参加したのはA社お得意の大手製薬会社のプロジェクト。

これは大型には違いないが女王様はじめ沢山のメンバーが参加しているのでバカえもんに掛かる負担は少ない割に、プライドを満足させるという、彼が初参加するには「うってつけ」のものだった。

そのプロジェクトに参加が決まると、彼はまるで彼の高学歴でこのプロジェクトは既に成功したような、意気揚々とした態度で、あたかもプロジェクトの中心人物のように振舞いだした。

彼に割り当てられたのは、連絡係とちょっとしたマニュアル作りだったのだが、彼にとっては大型プロジェクトに参加してるだけで満足してるようで、それは私達への態度の変化でも明らかだった。

例えば私に、ちょっとしたコピーを頼むだけで、まるで総理大臣か大統領のような素振りで高いところから物を言ったり、Yにマニュアルの修正を頼むのにも「君にできるかな?」というような薄ら笑いを浮かべる始末だった。

考えればコピー数枚など、コピー機の前を通り過ぎて私に頼みに来るより自分で取った方がはるかに早いし、マニュアルの修正だって要は自分が勘違いして修正を求められたものなのだ。

良く観察していると、バカえもんは「自分が使う下の者」が欲しいらしくそれが私達だったようなのだが、どう贔屓目に見ても私達より仕事ができるとは思えない所が滑稽で可哀想なのだった。

もっとも、このテの勘違い人間に慣れ切っている私達は、扱いを心得過ぎているほど心得ているので、上辺だけは鄭重に接するという事が実に自然にでき、バカえもんのプライドも満足させているようだった。

こう考えると、この勘違い集団のいる会社に就職した私達は、人を見る目により磨きを掛け、その人達を手の平で転がす術を日々身に付ける修行をしていたようで、まんざらでもないなーと、特にバカえもんと接する度に思えるのも収穫だった。

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ユーザー会のマドンナ

このブログの中で、圧倒的な最多出場回数を誇るのは、なんと言ってもおぼんである。

それは彼女の勘違いぶりが圧倒的だと言う事に他ならず、面白いのは彼女が真剣に勘違いしている事で、人から見たら嘘のような事でも”やらせ”でも何でもなく、心底そう信じての行動だから、たまらなくおかしいのである。

何度も書いているが、彼女は自分の容姿・仕事ぶり、その他全てにおいて、誰にも説明できる根拠も無いのに多大な自信を持っている。

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そして、トランプマンのようないでたちで出勤し、みんなの失笑を買っているのに、そのファッションセンスにさえいろいろなシーンでズバ抜けたセンスを発揮している・・・と信じ込んでいた。

その日は、A社のビッグユーザーの会の方々が所属する、所謂ユーザー会的なものの会議があった。

どういう理由かは全く不明だが、何故かこの会を牛耳っているのはおぼんであり、マズイ事に実務担当が私であった。

何もしない代わりに、目立つ事は大好きなおぼんは「私がA社の代表です」と言わんばかりに胸を張り、意気揚々とその会を仕切っているつもりになったいた。

もちろん当日の会議資料や、様々な段取りは私の仕事だが、あくまでも「縁の下の力持ち」で表面には出ない。

前日から何だか大騒ぎをしていたおぼんは、果たして当日、社外の方々との重要な会議なので、きっちりスーツで現れた。

会議は午後からなので、私は最終チェックに忙しく動き回っていたのだが、会議室の前で何故かおぼんが手招きしていた。

打ち合わせることでもあるのか??と彼女の傍に行くと、何も言わない。

暫くは???だったが、腕組みをしてそっぽを向いてる彼女の姿を見て、はたと気が付いた。

彼女は今日、新調のスーツでご出勤なのだ。

そして忙しい私をわざわざ呼びつけたのはそれを見せびらかし、褒めて欲しかっただけなのだ。

全く分かり易いと言うか単純と言うか、このクソ忙しいのに・・と、半分怒り、半分呆れ果てた私は「あぁぁ・・新しいスーツですかぁ?キリッとしてるのにディティールにレースがあったりして凝ってますねぇ。これもいつものお店で買われたんですか??」と、思い浮かぶだけのお世辞を口にした。

ようやく腕組みを解いたおぼんは、初めて気付いたような顔で「あぁ?これですか?ちょっとレースが可愛すぎるかなと思ったんだけど、お店の人が私にしか着こなせないっていうので、売れ残っても可哀想かと思って・・」と、目の玉が飛び出そうな事を恥ずかしげも無く言ってのけた。

確かに、生地はサッカー地を厚くしたように、冬物なのにヨレヨレし、そのくせ色は若草色で、良く見ないと分からない小さな白い模様が刺繍されていて襟と袖口に可愛らしい白のレースが付いているそのスーツは、どう見ても「いんちきマジシャン」的でとてもではないが普通の人がステキだと思う代物でなかったので、おぼんしか買ってくれる人などいるわけもなく、ある意味「彼女にしか着こなせない」のは当然かもしれなかった。

午後になって会議が始まり、私は指定の時間に紅茶を出した。

その日は2月上旬だったのだが、彼女はまたもや勘違いして会議に来ている全男性にスタバのチョコレートを買ってあり「一休みして召し上がって下さい」などと微笑んでいた。

いかにも、私は仕事も出来るけど、こういう細かい気配りも得意なの。

だから男性に狙われるのかしら?それにしてもあなた達,私からチョコレートをもらえるなんて果報者ね・・とでも言いたげな有様で、私が運んだ紅茶とチョコを、いそいそと配り始めた。

果たしてお客様は、早く会議を終らせて帰りたい様子で、全員困った顔をしていたが、まぁバレンタインのチョコをもらって悪い気がするわけではなさそうなので、全員少しリラックスしていたようだったが、どう考えてもチョコレート効果くらいで会議がA社に有利に運ぶとは思えなかった。

その証拠に、このチョコレート騒ぎの後から会議に参加した女王様は、会の幹事を決める際、散々ユーザーの皆様よりお小言をもらったらしい。

要はおぼんはお飾りの代表で、重要な案件は女王様が取り仕切る・・と言うか「こんなお嬢ちゃんに言っても仕方ない」とユーザーさんから思われているのだったが、またもや本人だけは気付いてないようだった。

会議終了後、片づけをしていた私に「お疲れ様でした」と深刻ぶって声をかけたおぼんは、不思議な事を言い出した。

おぼんを持ち上げて利益を上げていると思われる「いつものお店」は恵比寿にあるらしく、新調のスーツを褒められたのがよほど嬉しかったのか「今度ご一緒に如何ですか?」と真剣に私を誘ってきたのである。

結局少し後に「お供」する事になるのだが、このエピソードはまた後日!!

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バカえもんという男

勘違いな人々で埋め尽くされているA社だが、社内を見回せばやたらと高学歴の人が多い。

外資には中途入社が多いのは常識だが、入社する人が皆、揃って高学歴なのは女王様の意向でもあり、次々と入社するそのテの人達が、これまた勘違いの集団ときているので、一般人の私達はたまったものではなかった。

中でもヘタな国立大より高い偏差値を誇る私大卒業後、日本一の頭脳を持ち、その卒業生はノーベル賞受賞者も多数出している国立大院卒の男性は、高学歴だけで人生が決まる考えている、本当にレベルの低い男だった。

彼の名前は「バカえもん」、もちろん本名ではなくYが思いついたのだが、後でYの見る目の確かさに下を巻くことになるのだった。

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彼はその学歴だけを拠り所にしているようなところがあり、仕事の事はもちろん、一般的な話をするにも何とか理論的に進めたがる。 高学歴ゆえに周囲の尊敬を集めたいとでも考えているらしく、斜に構えてカッコつけて喋るのが常だった。

ところが高学歴なだけでおバカさんなので、質問された事や話の流れが全く読めず、その事に動揺すると尚更高飛車な態度に出るクセがあった。

やたらと難しそうな顔と言葉で、益々斜に構え「それは○○って事かな?」などと、さもキミの質問は的を得てないなぁというように、余裕を見せながら上からものを言うのだ。

周りの人に、自分が理解できていないという事を見破られるのがイヤだと見えて、殊更見下した風情を見せるのだ。

私達はこの様子が可笑しくて「バカえもん」と名付けたのだが、彼はその奇妙な態度が自分のプライドを満足させるらしく会社に慣れるに従って、高飛車度は加速して行った。

彼の容姿は角が無い(要は丸い)上に大きめで前屈みに歩くので、その姿はまるでエサを探す熊のようだったが、これまた彼一流のプライドの高さを現した、威張り切った態度と顔付でのっそのっそ歩き回る。

あまり外出のない職種の彼はスーツで出社する必要はないのだが、観察していると彼的にはなかなか服装にも気を使っているようである。

どうやらその基本はトラッドらしく、ピンクストライプのボタンダウンに紺のコットンパンツ、ベルトもカッコイイわけではないが同じトラッド系でまとめている。

しかし、彼の服装は仕上げが時代錯誤だった。

なんと今時、パステルカラーのセーターをゆったりと肩に掛け、フロントで結んで意気揚々と歩いているのである。

彼の世代はたぶんバブルを経験しているので所謂”トレンディードラマ”世代と思われるが、Yが面白がって「バカえもんの服装って石田純一みたいですねぇ」などと、からかった。

何を勘違いしたのか、本当に石田純一を見本にしてるのか、「そう?ありがとう」と嬉しそうに頷いたのだ。

傍で聞いていた私も、言った本人のYも、あやうく噴出しそうになるのを奥歯を噛締めて抑え、必死の作り笑顔で走るようにその場を立ち去りトイレに駆け込み、耐え切れず大笑いした。

そうとは知らないバカえもんは、それ以来私達に会うと満面の笑みですれ違うようになり、ともすれば話しかけてくるようになった。

その都度私達は、その奇妙な服装と、根拠不明な自慢話に付き合わされることになったのだが、この時からかった事で、後々イイ思いをする事になろうとは・・・。

誠にもってバカな高学歴男である。

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おとぼけ化粧水

社内イチの腹黒女、化粧水は、何故だかイイ人だと思われているフシがあるのが不可解なのだがよく観察してみると、イイ人でも何でもないが、ちょっとトボけたところがあるのは事実だった。

見た目はごく普通のおばちゃんなのだが、その行動には、やけに子供じみたところがあり、それが所謂「天然ボケ」でない事は、彼女がその事を周囲に言いふらす行動で明らかだった。

その日は彼女が属する本部の歓迎会だった。

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イイ人ぶりたい彼女は、そのテの行事にはなるべく参加するよう心掛けているようで、その日も集金に来た幹事に「お疲れ様~」などと、何かを探るような目をしながら「細かいのがないから、お昼休みにくずしてくるね」などと、またまたイイ人ぶって言うのだった。

約束通り、化粧水はお昼休みに銀行に行ったらしいが、帰ってきた彼女は明らかに疲れきったようすだった。

大人が「大きいのをくずしてくる」と言えば、大抵の場合、万札を五千円や千円にするものだが、果たして彼女もそうだった。

ところがその日は5・10日だったせいか、いくら銀行と言えども両替にも限度があるようで、なんと彼女が”噂のチャンネル”の分も頼まれてしてきた2万円は、全て100円玉になっていたのだった。

銀行まではオフィスから10分程度歩くのだが、その間中200枚の100円玉をぶらさげて歩くのは難儀だったようで疲れきった様子になっていた

それを重たそうに、でもニコニコしながら持って帰ってくるところが、何とも化粧水らしい、わざとらしさなのだが、周囲の一部の人は、それも彼女の「イイ人」がなせる業だと可哀想に思い、自分のお札を両替した100円玉に交換してあげる人もいたらしかった。

私達はその日、社内のある人と食事の約束をしていたのだが、彼が支払いの時大量の100円玉を財布から出し「あ~軽くなった」と言ったのには驚いた。

挙句、「化粧水は人がイイから、銀行で100円玉を出されてもイヤって言えなかったんだろうね。。。可哀想に」と言い出す始末で、私達は内心、「可哀想なのは化粧水の本質を見抜けないあなた達よ!」と思ったが、このテの人々には、永遠にそんな能力が身に付く筈もなく、そんな事を言ったら私達が悪者扱いされるのは明らかあったので、ただ、黙って頷いておいた。

まったく銀行まで利用して自分を良く見せたい化粧水という女は、その行動すべてが計画的で気味が悪いのだった。

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大規模プロジェクト8

いくら大規模プロジェクトとは言え、要はオフィス移転である。

そのわりに、とてつもない労力と時間を必要としたのは、ひとえに様々なタイプの勘違いな人々のおかげである。

彼らは明らかに悪人ではないが、とにかく何でも大袈裟にしたがるクセがあるのには困りものだった。

そんな彼らに振り回されながらも、何とかあとは移転するだけ・・というところまで漕ぎ付けた。

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この頃には、すっかり「有能なプロジェクトマネージャー」振りを発揮していたおぼんは、実は何もしていないのだが本人は肝心のターニングポイントはしっかり仕切っているという勘違いをしていた。

引越しに不可欠の車両手配も、さも自分が最初から最後まで大車輪の役割をしていたかのように、意気揚々と始めた。

そして、車両手配は私が責任持ってやるから・・・と、意味もなく額に手の平を押し付け、軽くため息をつきながら、私たちへ配慮をしている風な自分に酔っているのだった。 数日後、彼女はまたもや意気揚々と私達の打合せブースにやってきて、大変だったが車両の手配は完了しました・・と詳細を伝えて、コツコツとハイヒールを鳴らして帰って行った。

引越し当日は土曜日、社内インフラを日曜に完了させ、月曜から新オフィスというスケジュールも確定したある日、おぼんと私達が最後の打合せをしていたその席で今度こそ ”地球がひっくり返りそうな”言葉が、おぼんの口から飛び出した。

「手配車両は2t車です」 「・・・・・」2t車って小さいよね?? 普通の家の引越しだってもっと大きいよね?? どれだけ荷物があるか・・間違ってない?? 私達は心の中の声にならない声に苦しめられた。

一体どうしてそんな奇妙な事になったのか・・・どう考えても答が出ないその疑問を、気付いたとき私は口にしていた。

すると会社を背負って立ってるとも勘違いしているおぼんは「経費削減です」と、どうだ!と言わんばかりに自慢げに言い放った。 これにはまたもや言葉を失った。

経費削減は結構だが、2tトラックで企業が引越しをするなど、聞いた事もないしどうしてそんな非常識な事を考え出したのか、まったく分からなかったが、とにかく配車は完了していた。

引越し前の1週間くらいは、当然の事ながら毎日終電で、最後の調整に追いまくられたが、あと1週間でこの任務から開放されるという安心感は、確かにあった。

だからと言ってこの配車に異議を唱えなかったわけではないが、実際のところ2tトラックで引越しをすると、どれくらい大変なのかはハッキリ分かってはいなかったし、引越し先は女性の足でも徒歩10分ほどの近さと言うのもあったのかもしれない。

いざ当日、おぼんと私達、そしてケチ男は朝早くから新オフィスでトラックが来るのを待っていた。

そもそもその到着時間も遅れ、オフィス移転は初っ端からケチが付いたが、こうなったら忍耐力しかないのは誰もが理解していた。

果たして30分以上遅れて到着した第1便が積んでいた荷物はキャビネ3本、しかも小ぶりながらエレベーターが3基あるビルだったがどういうわけだか1基しか確保されておらず、大き目のキャビネだと1本しか入らない。

私達は気が遠くなりかけた。このペースであの荷物を全部運ぶのに2tトラックが2台・・・何時まで掛かるのか・・・。

挙句の果てに、引越し業者に全ての指示を出していたのは、例の計測が苦手な業者だったのだが、私達との決め事が何も引越し業者に伝わってなかった為、私達はいちいち運び込まれた荷物をどこに置くか指示を出し、確認する必要があった。

力仕事だけに若者が占める引越し業者は、ただ言われた通りに荷物を設置するのが責任なのだが、彼らが困り果てる事態が発覚した。

業者が引越し業者に渡した図面に、重大な情報が抜け落ちていたのだ。

年配の責任者が血相を変えて私達の所にやってきて「このキャビネの設置予定場所は防火シャッターなので置けません」と汗を拭き拭き訴えたのだ。

私達はもう目の前が真っ暗だった。

いくらプロジェクトメンバーでも素人なので、窓や空調には目が行っても防火シャッターには気付かなかったし、それくらい業者が気付いてよ! 第一どうして引越し当日に彼らは来ないのか? と、ふつふつと怒りがこみ上げてきたが、こんな時、やっぱり責任ある立場のケチ男の行動力は頼りになった。

無責任な業者より、はるかに手際良く測量し周囲を見回し、一番適切な動線を見つけ出し、その通りにレイアウトするようテキパキと指示を出し始め、何とか荷物の搬入がスムーズに進み出した。

いろいろ苦労してきた、この数ヶ月の思いがあるので、段々と荷物が入り、オフィスらしくなっていく様子を垣間見るのは私達にとって嬉しい事ではあったが、数個づつ2人の若者によって運び込まれる荷物には、時間的にも一抹の不安があった。

果たして朝早くから始まった引越しは、夜10時になっても終わらず、メンバーの中にはこの日の3回の食事を全て会社で取る羽目になった人もいたが、どう考えても帰る事ができないのは明らかだった。

もう少し・・・もう少し・・・と自分に言い聞かせながら、ようやく「これで最後です」と言う声を聞いたのは、なんと午前2時だった。

何故だかみんなから拍手が沸き起こり、Oさんなどはホッとしたのか涙をこぼしていた。

でも、もう私達の体力は限界だった。

ただでさえ睡眠不足の日々だったのに、引越し業者に置き場所の指示を出していて声が嗄れていたし、喉も痛かった。

こうして2tトラックでの引越しは完了し、月曜には新オフィスの1番大きな部屋での小宴が企画され、私達は労ってもらえるらしく、既にケータリングも手配済み、とおぼんから聞いたのは午前3時近かった。

タクシーでそれぞれ帰宅し、泥のように眠り、月曜に備えたが、果たしてOさんと私は発熱し、新オフィス初日に出勤できなかった。 小宴などどうでも良かったが、やっぱりちょっぴり残念に感じるのは人情だった。

そして火曜日、出勤した私達がケチ男から聞いた言葉は「残念だったね~。美味しい料理だったのに」

「・・・・」

オフィス移転が無事終了しても、A社の勘違いは延々と続くようだった・・・

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大規模プロジェクト7

A社はとにかく東京の一等地にある。周囲は大使館や外資系が多く、大都会の割には緑も多かった。

ランチに行くと、巷に背の高い、いかにも「日本人が想像する外国人」が当たり前のように歩いていて、立地は申し分なかった。

そんな環境のいいA社の社員がみな東京人かと言えば、そうでない人が殆どなのは却って当然かもしれないが、通勤圏内の千葉や神奈川と決定的に違うのがゴミの分別だった。

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外資の多くは環境への配慮を徹底しているが、もちろんA社もそうだった・・・と言うより、このお話の時代背景の頃は環境配慮が声高に叫ばれ始めた時期だったので、女王様やおぼん、噂のチャンネルなどは、それを気にする事が時代の最先端!とばかりに、うわ言のように「分別・・・分別・・・」と言っていたのである。

引越しとなれば各種書類の整理整頓は不可欠だが、A社の古い書類は「フロッピー」などと言う時代の産物で保存されているものも多く、これがまた厄介な代物だった。

何しろデータ流出を防ぐためにも分解しなければならないのだった。

先ず、力任せにシャッターを剥がし、メディアを取り出す為に渾身の力を振り絞りジャケットをこじ開ける。

そして小さなバネと肝心のメディアを取り出すのだ。 シャッターだけをを外しチラッと見えるメディアをカッターで裂けばいいじゃない!!と思ったが、私達は結局その作業を延々と続けなければならなかった。

軽々と1000枚近くはあるフロッピーを、である。

何故ならあんなに小さな物体なのに、ジャケットとシャッターは不燃ごみ、メディアは産廃、バネは危険物、と3種類に分類しけなければならないからだった。

この作業を一番沢山しなければならないのは、成果物を保管しているコンサル部隊であったが、ここのリーダーは「じーじ」だった。

米軍基地のある、関東の都市で生まれ育った彼はもちろん東京人ではないし住んだ事もないので、ゴミを分別するという事にまったく慣れていないおいうレベルではなく、どうやら「分別」という言葉すら認識していないようだった。

各部で行われている整理整頓をざっと見回ろうと、コンサル部隊を通り掛った時である。

透明な東京都指定ゴミ袋の中身は丸見えで、その中にはフロッピーの各部品や紙のファイル、定規やシャーペンなどなど、ありとあらゆるゴミが詰め込まれていた。

そして傍らには、ニコニコとゆーーーっくり手を動かしているじーじと、その隣にぴったり貼り付いて「できなぁ~い」などと、凡そ会社には不似合いな声でじーじに甘えているドーム女がいた。

いくら東京人ではないとは言え、ここはれっきとした東京である。ましてみんなが忙しいのに軍手をはめながら細かい作業に勤しんでいると言うのに、呆れ返った事には「いったーい・・手切っちゃったみたい」などとバカげた事をほざくドーム女の手を自分の膝に乗せ「大丈夫?」などと本気で心配しているじーじを見た途端、分別できていないゴミの山に無性に腹が立った。

気付いた時には、その一角だけに漂っている甘いムードを切り裂くように「なんで分別してないの?」と、まったく無表情な声で聞いていた。

2人の世界を邪魔されたのが気に入らないのか、見下したように言い放った私に怒ったのか、じーじは冷酷な目で「そんな細かい事いいじゃん」と、意味不明な切り返しをしてきた。

A社の花形部隊であるコンサルのリーダーの自分が言えば私が引き下がるだろう・・・という甘い目論見はまんまと外れ「他の部は全部出来てるのに、どうしてここだけ出来てないの?」と更に喰い下がった。

ちょっぴりしつこいかな?と思わないでもなかったが、こんな事もできない、女好きの勘違い男が年収1500万というのが癇に障ったのか「とにかく全部きちんと分けて」と言い残して他部署に廻った。

どうやら私の雰囲気で、何か怒った事を察知したおぼんが、さも「相談に乗るいい先輩」のような顔付で近付いてきたので当事者の名前は言わずに、分別できてないゴミがあったと伝えたら、何の関係もない彼女が烈火のごとく怒り出し「誰ですか?その不届き者は!私がガツンと言ってきます」と息巻いた。

そんな事言ったって、相手はかつてあなたが同棲してた相手よ!しかも今行くとドーム女とイチャついてるよ!と思ったが、引き下がるような彼女ではないので、さっさと伝えた。

果たして彼女は一瞬ひるんだが、眉を吊り上げ、カツカツとハイヒールを鳴らしながら、大股にコンサル部隊の方へ向かった。

そして数分後「話をつけてきました」と、まるで低予算で作られたヤクザ映画のキメ台詞のような事を言いながら満足げに戻った彼女によれば、面倒臭そうにしているじーじはさておき、ドーム女に必ず分別するように”命令”してきたらしい。

今や、おぼんにとってはゴミの分別などどうでも良く、ドーム女の風上に立つ事が重要になっているようだった。 まったく何とも呑気なひと時である。

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大規模プロジェクト6

社内外のわけの分からない人々に振り回されながらも、何とかプロジェクトを期日までに仕上げなくてはならない私達はあまり深く考える時間もなく、とにかく片っ端から業務を片付けるしかなかった。

歴史の浅いIT業界の中ではパイオニアのA社は、それでも20数年の社歴があるので、引越し前の荷物整理は大変だった。

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なにしろこの会社の人達は、全く「捨てる」という行為を忘れてるような人種なので、自分達が新入社員だった頃の書類などを、あたかも自分の歴史であるように、大切に保管していた。

中でもケチ男は、ダントツに多い自分の書類ファイリングを私に頼んでいたが、これが傑作だった。 当時、企業のペーパーレス化が推進され始めた頃で、新しい事に目がないケチ男などは声高にペーパーレスを叫んでいて、当然、取引先に送る契約書や見積などは全てpdfの添付だったが、ケチ男はこのメールを印刷してファイルするというバカげた事を、日々繰り返していたのだ。

しかもフォワードメールも全てなので、ファイリングする私は、何度も何度も同じ文章を見かけることになるのだった。 こんな事をしているケチ男なので、各取引先毎に用意した背幅10cmほどのファイルは、1週間くらいでパンパンだった。

ケチ男というだけあって、何でも取っておく性分なのか、本当に彼は書類以外の荷物もハンパじゃなかった。

いつの間にかケチ男専用になっている棚やキャビネは数知れず、それを全部新しいオフィスに持って行くと言い出した時には、ギャグかと思って笑ってしまったが、心底自分の書類たちを整理するのは無理と信じているらしく、<真顔で困惑していた。

冗談じゃない!!こんな大昔からの歴史を引きづられちゃぁ、困惑するのは間違いなく私達である。

でも、とにかく何とか捨てさせなくては・・・と真剣に考えた私にも名案などある筈もなく、とにかく収納スペースがないから処分してもらわないと困る!! 持って行っても結局捨てる事になる!!と真っ向からお願いするという正攻法で攻めるしかなかった。

もちろん周囲にも充分な根回しをして応援してもらい、案外あっさり納得したケチ男は、当然のように私にその作業を依頼してきた。

捨ててもらえないのも困るが、その処分を頼まれるのもある意味もっと大変だった。

でもやらなければどうにもならないのは明らかだったのでYにも一緒に作業してもらう事にし、ある1日、私達は明けても暮れても古い書類と睨めっことなった。

その20数年分の書類の量たるや、気が遠くなりそうだったが、昔の事でご丁寧にクリップやホチキスなどで留められている。 それを要不要に判別しいらない書類はダンボールに詰めていた私達にケチ男がニコニコ近付いてきた。

彼のことだからご褒美のアイスをくれるわけじゃないな・・・とは分かっていたが、果たしてその笑顔から繰り出された発言に、私達は凍りついた。

「クリップ外さないと、勿体無いお化けが出るよ」

「・・・・・」

ただでさえ、ケチ男の書類は上から入れる透明なポケットのついたファイルに収納されているものも多く、取り出すだけでも面倒なのに、クリップも取れと言う事らしかった。

まったく名実共にケチの王道なのだ。

気が狂いそうになりながら、私達は半ば意地になってクリップ類も外し、こんな作業なのに夜まで残業し1日で終らせたのだが、良く見たら大きなおせんべいの缶に2つのクリップが集まっていた。

ようやく終ったと思った頃に、我に返ると空腹なのは当然だった。

それを察したようにケチ男がまたもやニコニコ近付いてきて

「助かったよ。ありがとう!ご飯食べる?残業食取ろうか??」

「・・・・・」

まったく悪意のない人ではあるが、どんな場合でもケチ男はケチなのだった。

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大規模プロジェクト5

何が何だか分からないうちに、プロジェクトメンバーの意思を無視してさっさと進み始めたプロジェクトはメンバーの忙しさとは一切関係なく、どんどん佳境に差掛かって行った。

IT担当、Oさんと私の最初の大仕事であるキャビネや様々なものの大きさを測る作業では、それを専用ソフトで平面図にし、業者と打ち合わせるというおまけが付いてたが、この業者がまた ”なんちゃって”だった。

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プロジェクトメンバーだからやっているとは言え、計測などはまったくの素人なので、もちろん業者にもしてもらったがそれが間違っている。 計測値を付け合せると全く違うし、それを元にレイアウトしているので、私達の図では入るわけのない場所にしっかりはまってるキャビネなどが多いのだ。

プロの仕事だから間違いない、と計り直しは辞退したが、ヘラヘラ笑いながら「まぁ念のため」と言う業者を見て下らない自慢をしたいんだなぁ・・・忙しいのに面倒だなぁ・・・と感じながら、しぶしぶ付いて行った。

就業時間中でもあり、社内で仕事をしている社員たちに会釈しながら、彼はおもむろに専門的なメジャーを大袈裟に取り出し、さも慣れた手つきでキャビネを計測した。 1度目は失敗したようだが余裕で計り直した。

ところが何度計っても彼の信じている数値ではないらしく、次第に汗をかき始め動きも早くなっていった。

ただでさえ時間がない私達はイライラしたが、彼は私達はもちろん、周囲の景色が何も目に入らなくなったらしかった。

慌しく動き回り、おかしいな??と小さく独り言を繰り返し、何度計っても変わるわけのない数値が、間違っていると何とか証明しようと必死になって、もがきまくっている。

その姿はクモの巣に引っ掛かった昆虫のようで、プロなのにヘンなの!と、その慌てぶりがおかしく、でもちょっぴり可哀想で、私達はどうしていいか分からなかった。

結局、ずぶの素人の私達の計測がことごとく合っていて、彼はそのデータをPCで送付してくれと頼んでくる始末だった。

普通、クライアントが大体の希望を言い、それに沿って専門の業者が詳細なレイアウトを行いものだが、今回はどうした事かクライアントがレイアウトの詳細を決め、実行に移すという、奇妙な事になってしまった。

元々プロジェクトマネージャーが仙人でメンバーは苦労していたので、せめてレイアウトくらいはプロにビシッとやって欲しいと切望していた私達の願いも空しく、業者は毎日、安心したように足繁く私達のもとに通い始めた。

そしてちょっとだけ仕事の話を盛り込んだ世間話をして、何故だかゴキゲンに帰っていく。

あまりな事に、現責任者のおぼんや、その他の関係者に相談したが、再度業者と話し合ってみても埒も明かず、時間もないのでその業者と最後までタッグを組むことに決定した時の、私たちの落胆と不思議な責任感は、何と説明したら良いのやら。

結局、この業者は引越し当日までこの調子で、実質的に引越し業者を指揮する事まで、私達がやるようになるとは流石の私達も想像していなかったのだが、もちろんこの時は目先の事を見るのが精一杯で、気付く由もなかった・・・。

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大規模プロジェクト4

何度も書いているように、このプロジェクトのリーダーは「仙人」である。

リーダーと言うのはその名の通りメンバーをまとめ、プロジェクトを適切な方向に導き成功させるのが義務である。 それは本人も充分分かっていると思うが、何故だか彼は全く何もせず「飄々としている」という表現がピッタリの日々を過ごし、一人だけ場違いなほどゴキゲンである。

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当然、最初はみんなその無責任さに怒りを感じていたが、何事もそうであるように、ある一定の基準を超えた常識外れに対しては怒る気もなくなるのは時間の問題だったので、彼の事は「いないもの」として、すっかり透明人間扱いになり、誠におかしな事態だがリーダー抜きでさっさとプロジェクトは進み始めた・・いや、彼を除いた事でようやく進み始めたと言うのが適切かもしれなかった。

社内インフラ担当のOさんと私しか実質的なメンバーがいなくなった時、A社の勘違いでお節介な人々が、正義感をふりかざして立ち上がったのは予想通りの展開だったのかもしれない。

何より真っ先にクビを突っ込んできたのは「勘違い女王」おぼんである。

しかもお得意のハイヒールをコツコツ言わせながら私の所に歩み寄り「安心して下さい。これからは私が仕切ります」と大真面目な顔をして言い放ったものである。

面食らったのは私達だった。

リーダーが変わるなど聞いていないし、何よりおぼんの性格を熟知しているので、些細な事が大騒ぎになるのは、火を見るより明らかだった。

彼女は決して悪人ではないし、仕事を一生懸命するのは確かなので、私達としては、逆に彼女を上手く使う事が重要課題だが、とにかく何事も大袈裟になるのには閉口だった。

彼女としては私達が骨身を削ってプロジェクトを遂行しているのを見ているし、”結構高い地位にいるのに、私達にも丁寧に接している自分”が大好きなので、毎日様々なお伺いメールが飛んでくる。

果たして頼みもしないのにプロジェクト全般について細かく質問し、今までの経緯報告のためのミーティングが開催される羽目になった。

ただでさえ時間が足りないのに迷惑至極な話だったが、取り敢えずプロジェクトにかかる費用の申請や許可などの役を彼女が買って出てくれたのは、ありがたいと言えなくもなかった。

どうしても勘違いな性格の彼女は、勝手に買って出たリーダーとは言え、私達の上に立っている~それは現段階で1番大きく重要な社内プロジェクトのリーダーである事を意味していた~と思っているのか、益々張り切りだした。

自分の容姿や働きぶりによって、本人の意思と関係なく目立っていると勘違いしているのが、元々目立ちたがりな性格なので従来の仕事そっちのけで、キャビネの移動を手伝ったりしている彼女を、周囲の関係者は苦々しい思いで眺めていた。

そんな事は気付かないのか、かなり窮屈そうなタイトスカートにも拘わらず生き生きと肉体労働にも精を出し始め、5分も働いていないのに大袈裟に汗を拭い、終ると私達に大きな声で労いの言葉を掛け、相変わらずコンビニアイスを配るのに余念がなかった。

おまけに私達がキリがないので帰ろうと、彼女の様子を見に行くと「まだ少し片付けものがあるのでどうぞお先にお帰り下さい」などと、疲れた微笑を浮かべた顔でやけに丁寧に言い、今度はあたかも自分が会社を背負って立っているという勘違いに酔い始める始末だった。

こうして何が何だか分からない状態でプロジェクトは転がり始め、私達はまたもや勘違い会社の人々に振り回されるのだがこの時はまだエピローグに過ぎない事に気付いてないのだった・・・。

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大規模プロジェクト3

相変わらず勘違いの上に成り立ってはいるが、前段階の準備も終わり、いよいよ本格的に引越しプロジェクトが始動する事になった。

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以前書いたように、このプロジェクトのリーダーは「仙人」である。

キックオフでミーティングの日程を決めたにも拘わらず、一向にミーティングは開催されないばかりか、プロジェクトなんて全く知らないという顔つきで、日々暢気に過ごしている。

仕方がないので他のメンバーで少し準備を進めながら、様々な判断を仰ぎに行くと「分からない」とか「適当にやっておいてよ」などと威厳のかけらもない発言を繰り返し、まったくインチキ仙人を地で行っていた。

最初はA社でのキャリアが長くない彼が、仕事に追われて大変なのだろう・・・と暖かい眼で見ていたメンバーだったが、毎日ノーテンキな世間話に余念のない、彼の笑顔を見ていると、自分たちの考えに疑いが芽生え始めた。

要は「やる気がないのでは??」と言うものだったが、それが図星なのは彼の行動を見れば明らかだった。

プロジェクトと言うのは期限や予算が決まっているが、特に社内プロジェクトなどの場合、できるところは自分達でこなす事になる場合も多い。

我が引越しプロジェクトもその通りだったのだが、その「自分達でこなす」事の中には、社内のレイアウトなどと言う、本来ならその道の専門家のすべき作業も含まれているところがまた、A社っぽかった。

しかもこの作業の驚くべきところは、現在使っているキャビネを全て持っていくというもので、おかげでIT関連業務で選ばれたOさんと私の女性2人は、数え切れないほどある全てのキャビネや袖机などの大きさを測る事が、最初の重要任務となった。

プロジェクトメンバーとは言え通常業務がある上、昼間は社員が使用しているキャビネなどを動かす事は不可能だったので必然的にそれは「夜の作業」となった。

今思えば、女性2人で夜の9時頃から、よっこらおっちら、メジャー片手にキャビネを動かしている様は不気味と言えるが、この時の私達は真剣である。

ここで、プロジェクト開始の多忙な時期に「仙人」は何をしていたか、書いておく必要があるかもしれない。

その①

「仙人」が何もしない事に頭に来たある社員が彼のデスクに行った時、一目で業務に関係ないネットを見て楽しそうに笑っていた。

勿論、同じエリアには彼の部下がたくさんいて、それぞれ真面目に仕事をしているのに、である。

その②

「仙人」が来客中に彼の席に行った社員は彼のメール全てが「未読」だったと証言した。

その殆どは、エグゼクティブ・マネジャーという重要なポジションにいる「仙人」への、承認申請や質問・許諾などという、本人が見なければ先へ進まない、速さと正確さを必要とするものばかりの筈なのだが・・・。

その③

当然、定時より早く「寄るところがある」などと言う不透明な理由で。

通常業務やプロジェクトの進捗を全く気にする事無く、軽く手を挙げてにこやかに帰って行く。

このようなプロジェクト・マネジャーの元、コンサルであるメンバーの1人が担当している重要な社外プロジェクトに大問題が生じ、彼は全てのウィークデーをプロジェクトの作業場所である、日本海側の都市で過ごすという事態となった。

プロジェクト・マネジャーはいないも同然、メンバーの1人は不在となり、Oさんと私はそれこそ死に物狂いとなった。

まったく、肉体労働を含むこのプロジェクトを動かすのが、社内インフラ設定用に選ばれたOさんと、派遣社員の私だというのが滑稽極まりないのだが、ここでもA社らしさが存分に発揮されてると言えるかも知れない。

この後、様々な勘違い人間がこのプロジェクトに関わるのだが、それは次回に!!

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大規模プロジェクトⅡ

何とかキックオフミーティングをクリアした「引越しプロジェクト」だったが、外資は新しい会社と言えども20年以上の業歴のあるA社なので、その時に向け、整理整頓する必要のある書類は山のようにある。

それを引越し直前に片付けるとなると至難の業で、結局全部移動させるというような事態に成りかねないので私は比較的ヒマなお盆の時に、各部のキャビネ整理をするよう提案した。

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イヤな顔をされるかな?というYと私の予想を全く裏切り、さも素晴らしい思いつきだと言わんばかりに、何故だかみんなが張り切りだした。

「書類整理」という、何とも単純な名前のついたその作業は、お盆の1週間前くらいから各部で手順などが決められ全社的なイベントとなっていったが、こういう時に目立ちたがるのが、勘違い女筆頭のおぼんだ。

何度も書くようだが、おぼんは自分はバイリンガルでIT企業と言う最先端の会社で、エンジニアとしてトップに立っている、しかも男性が全員よだれを垂らして自分を見ていて、服装のセンスは全社員の注目の的・・・と、どうしてそんなに自分を美化できるのか、首をひねりたくなる思考の持ち主で、今回は一流のエンジニアでありながら、書類整理などという肉体労働的な業務にも率先して汗を流す自分にも酔っていた。

A社の自社ツールはどれも高額で、その中で1番安価な50万のソフトは、その値段の割には良く出来たスケジュール管理ツールだが、おぼんは頼みもしないのにそれを使って詳細なスケジュールを立ててくれた。

でも彼女はこの時点ではプロジェクトメンバーではないので、あたかも「縁の下の力持ち」であるかのように、表に出たくないフリを貫いていた。 準備期間を慌しく過ごし、各種注意事項などを掲示板に載せたりしていると、あっという間に当日になった。

お盆でもあるし、男女ともTシャツなど動きやすい服装で出勤したその日、いつもは「忙しくて疲れている」という、他社では全く通用しない理由で11時ごろ出勤してくる彼女が、9時前に会社に来ていただけでもビックリだったのに、軍手に防塵マスクを身に付け、当時流行っていたカーキ色のワークパンツで意気揚々と社内を駆け巡っていたのには、笑うしかなかった。

どうやら彼女はサポート部隊の指揮を取っていたようで、これはあっち、それは箱に詰めて、などという声が聞こえていた。

書類などと言うものは、その時には大切だと思ってファイルしておいても、以後20年数年来放置されているなどというものも多く、いざフタを開けると処分にも時間が掛かるし、環境に配慮する事が声高に叫ばれ始めた頃だったので、その分別だけでも一仕事で、進捗状況に関わらず無常にも午後になってしまった。

ランチもそこそこに必死で片付けていた私達を、おぼんの声が捕らえたのは、いい加減体力がなくなってきた頃である。 おばさんでもあるまいし、注意を引くためなのかパンパンと手を叩き「一休みして下さぁい」とコンビニで買ったらしいアイスキャンディーの箱を、うやうやしく冷蔵庫から取り出した。 まるで家の改築をしている大工さんのおやつタイムのようだったが、日頃PCに向かってばかりいるA社の社員は、確かに甘いものが食べたいと感じるほど疲労していたので、ありがたく頂戴する事にした。

それを尻目に、おぼんはまだアイスが行き渡ってない人たちに、「些少ですけれど」などと、いつも通り全く間違っている言葉遣いで腰を低くして言って回っていた。

にこやかに「ありがとうございます」と言いながら、ちゃっかりソファに座ってアイスを食べていた私達は、その姿を見ながら、この分では引越しが近付いたら、目立つ事にだけ、どれだけしゃしゃり出るか知れたものではないな・・・と同時に感じていたが、これがまんまと図星になるのを、このとき私達は確信していたのかもしれない。

でも、これはまだ引越しプロジェクトの、ほんの序曲に過ぎない事に気付くのは、もう少し後だった。

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大規模プロジェクト

A社の業務は様々なプロジェクトと深い関係がある・・・というかプロジェクトで成り立っている。

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そしてごく稀だが中には社内プロジェクトもあり、何故だか私は、その中でも大規模なものに関わる羽目になった。

「引越しプロジェクト」・・・それはそう呼ばれていた。 良く考えると、全てのプロジェクトは関わる人が決まっているが、自分たちのオフィスが移転するこのプロジェクトは社員全員に関係ある事なので、最終的には大騒ぎになるのだが、今日はその序盤から。

それは、そろそろ昼休みという時間帯に突然上司からこう告げられた。

「オフィス移転のプロジェクトチームが立ち上がるんだけど、営業代表を頼めないかな?」 社員でもない私が・・・と散々固辞したが、丁度その頃の営業部隊はとてつもなく大きく重要なプロジェクト始動に向けての大切な時期、しかもそのプロジェクトは大阪だった事もあり、週の半分以上は営業部隊が留守がちになるという事情から「社員でなくても対等に意見を言える」事を条件に、最終的には引き受けざるを得なかった。

そして各部から選出されたプロジェクトメンバーが集まりキックオフミーティングが開催された時、まだこのプロジェクトがそれほど大変だとは思われていなかった証拠には、メンバーはたった5人だった。

これからのメンバーそれぞれの役割と、毎週同じ曜日の同じ時間帯にミーティングをする事を決めてキックオフは終ったが、このプロジェクトのリーダーが振るっていた。

そのプロジェクトの性質から当然とも言えるが彼は管理部門の責任者で、その役職はエグゼクティブ・マネジャーだった。

彼もまた高学歴&バイリンガル大好きの女王様のお眼鏡にかなって入社した、外資畑を歩んできた人だが、外資にありがちなカッコつけた雰囲気や、人を寄せ付けない個人プレー、いかにも高給取り的なバリっとした様子ではなく、どちらかと言えばざっくばらんな、所謂「どこにでもいそうなオッサン」ちっくな感じだった。

外資は特にスーツを着なくてもいい職種の人も多いが、彼はその役職から最初の頃は毎日紺のスーツに身を包んでいたが極度の寒がりのようで、秋めいてきた頃には、ただでさえ厚ぼったいカウチンセーターに毛糸のマフラーで口まで隠し、まるで風邪を寄せつけない!という決意の表れでもあるように、おおよそオフィスには不似合いな姿になり、冬にはカウチンが野球の監督のジャンパーにようなものに「進化」してしまった。

まったく彼は、仕事に関係ない世間話は延々とするが、仕事の事になると「またあとで」と、良く分からないタイミングで軽く手を挙げ去っていく。

忙しいのか・・・と思い、相手がメールでその内容を送ると、いつまで経ってもレスはなくこれまたそんなに忙しいなら・・・とポイントだけでも訊こうと思って席に行くと早退していたりする、なんとも浮世離れした、仙人のようなオッサンなのだった。

その彼がリーダーを務めるプロジェクトなので最初から雲行きは怪しかったのだが、取り敢えずキックオフミーティングは何とか終了した。 この後様々な不思議で不可解で、でもA社らしい出来事が勃発するのだが、それは次回のお楽しみ。

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高学歴な食い倒れ

キョーレツな異臭と共にA社に入社した食い倒れは、入社前から、日本では最高の部類に入ると思われる高学歴が、期待と羨望の眼差しと共に社内の人々の口の端にのぼっていたが、Yと私はそんなモノは頭から信じていなかった。

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そもそもA社には、彼ほどではなくても高学歴はゴロゴロいる・・・というより高学歴の人しかいないのだ。

でも彼らが人間として、社会人として優れているかと言えば、まったくそんな事はなく、ハッキリ言って短大卒の私達の方が、ずっと頭の回転が早いのは明らかだった。

なので日本最高峰の学歴だからと言って、特別な期待は全くしていなかった。

遂に運命の日・・・食い倒れの入社日がやってきた。その学歴ばかりが注目されがちだが、特に女性陣はどんな男性か気になるのが人情だったが、小柄でやや猫背の体格を包むスーツは、まるで昨日買ってきたように「取ってつけた」様子で、手の甲まで掛かりそうなほど長めの袖でありながら、パンツはくるぶしが見えるほど短いという、誰もが噴出しそうな姿で登場した。

服装に関しては、失礼ながらこの学歴ならアリかな・・・という気もするので、不思議な事にみんな納得していたが、仕事となれば期待してしまうのは仕方ない事だったのかもしれない。

少し仕事に慣れた頃、高学歴大好きの女王様は、これから彼が参加するプロジェクト名をじーじに伝えた。

このあたりも流石は女王様で、食い倒れの高学歴だけが好きなので、彼に直接言う事はしないのだ。

言うなれば食い倒れのように「高学歴だが男性としては全く興味がない」タイプは、仕事さえきちんとやってくれたらそれでいいという感覚なのだった。

そのプロジェクトは西陽がリーダーのもので、食い倒れ入社時には面倒な導入部分はほぼ終りかけていたので、食い倒れの役目はその決まったシステムをお客様の要求通りカスタマイズして正常稼動に持っていくことだった。

これは卒業後ずっとシステム系の仕事に携わっていた、自称「ハイクラスエンジニア」の彼には、朝飯前・・・のはずだった。

最初は西陽と同行してプロジェクトについての詳細説明を受け、そのうちに単独でシステムに向き合う事になったがこれがお客様のキョーレツな怒りを買う事となった。

何しろプロジェクトの基本であるお客様のニーズを理解できないばかりか、自分の知識にやたらと自信を持っているせいかお客様の話も聞かなければ、挙句の果てにわけの分からない持論を振りかざし、呆れ返ったお客様が閉口して黙ると、自分の知識の前にひれ伏したと勘違いしていたようだった。

そうとは全く気付かず何度かそんな失態を繰り返した後、遂に苦りきったお客様の担当者から女王様に連絡があった。

食い倒れからの報告と全く食い違った内容のその電話は、会社の大損害に繋がりかねない驚愕の事実が満載で流石の女王様も言葉を失う程だった。

お客様は冷静に自分たちがどんなに困っているかを報告し、最後に「御社もうちのプロジェクトに、あのような担当者を付けなければならないなんて大変ですね」と、半分哀れむような口調で言ったらしいが、即担当者の交代を要求されたのは当然だった。

電話を切ってすぐさま、食い倒れは関係者一同に詰問されたが、彼は心底そう信じているかのように自分は間違っていないと力説し、お客様が怒っているとすれば○○が悪い・・・とシステムやその周囲の事柄のせいにするという、まったく大人とは思えない幼稚な言い訳を繰り返すばかりだった。 思った通りである。

高学歴などは妙な自信を持つだけで、人の気持ちが判らない人間を作る手助けをする事も往々にしてあるものである。 これを機に女王様も心を入れ替えるだろう・・・とホッとしたのも束の間、また高学歴な社員を雇い入れるのに余韻がなかった。

まったく、高学歴だけが自慢の食い倒れと言い、こんな大失敗をしたのにまた同じ過ちを繰り返す女王様と言い本当にA社は勘違い集団だという事を改めて思い知った事件だった。

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やっぱり彼も・・・

このブログに最多出場している「おぼん」は、どうしてここまで勘違いできるのか、何が彼女にそんな自信を植え付けるのか、私達からはまったく理解できない思考の持ち主だった。

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仕事だけではなく、女性としても自信満々で、世の中すべての男が自分を狙っているというほとんど被害妄想的な発想をするのも彼女の特徴の一つだが、傍から見ていると何とも面白いその行動も、ターゲットにされた人には迷惑なだけにしか映らないのは当然だった。

同じくこのブログへの登場回数が多い「西陽」は、自他共に認めるフェミニストなので、女性には気を遣っている・・・というか女性に気を遣っている自分に酔っているのだが、いくらなんでも好き嫌いがあるのは仕方がなかった。

例えばYと私は、頻繁に彼にご馳走になるが、そんな時彼は必ず、自己への嘲笑が混ざったような、でもやっぱりそんな自分に酔っている表情で「何のメリットもないのにご馳走した女性はキミ達が初めてだよ」と言うのが常だったが、それでもメリットがないだけに人間対人間として本音で話せるのが楽しいらしく、その集いが終わる事はなかった。

おぼんは男好きだが、どうやら「こざっぱり」して自分に優しい男が好みのようで、西陽もまぁまぁそのお眼鏡に適っているらしかった。

ある日の午前中、私が西陽の後ろの書棚に必要な本を取りに行った時、おぼんが西陽と楽しそうに談笑しているのが目に入った。

そして彼女の手に2ヶ月が一目で見られるカレンダーが握り締められていたのを横目で見ながら、特に気にせず書棚に向かった後、2人の会話が勝手に耳に入ってきたところによれば、どうやら執拗におぼんが西陽を食事に誘い、西陽が困惑している様子だった。 おぼんは手に持ったカレンダーを2人の間に広げ、いつなら都合がいいか、聞きだそうと必死である。あまりの執拗さに閉口した西陽は、そばに仲良しの私がいる事に気付き、咄嗟に逃げ場にしようと思いついたらしく「この間話したこの店、いつ行く?」と、急に話を振ってきた。

驚いたのは私である。

そんな話はしてないし、おぼんはまだ西陽の隣に陣取っている。西陽はその場を切り抜けたい一心で、さも前から私とそのお店について話し合ってたような素振りで、偶然手元にあった男性向け高級志向情報誌のグルメページを広げ、私に同意を求めたのであった。

アテ馬にされてる私は迷惑極まりなかったが、いつもご馳走になっている立場と、何より彼の瞳に浮かんだ必死の懇願の色が、私に心を決めさせた。

「そうですねぇ・・・来週あたり行きましょうか???」と、おぼんの存在など忘れたように入れたアドリブを受け、「そうだね。割り勘でねっ!」と、こちらも全くおぼんを無視した角度で、ホッとした 笑顔でウインクする西陽は満足げで、それはまるで「キミの割り込む隙はないんだよ」「俺たちはこういう冗談をいつも言い合ってるほど仲良しなんだよ」と、おぼんにアピールしているようであった。

プライドの高いおぼんは、ここで怒るほど私はモテない女じゃないわ・・・という勘違いをしてくれたようで自分宛の電話で呼ばれたのをいい機会と、何も言わず、優しげな微笑を浮かべながら立ち去った。

後で聞いた処によれば、おぼんは何度も何度も西陽のところにカレンダー持参でやって来ては、同様のバトルを繰り広げていたそうで、流石のフェミニスト西陽も困り果てていたそうだ。

彼曰く「彼女と食事なんて行ったら、ご馳走した挙句『西陽に誘われちゃった』なんて言われて『やっぱり彼も私を狙ってるのね』とか『下心ありあり』なんて、ありもしない事を言いふらされるんだから冗談じゃないよ」と思っていたそうで、私達は彼の、珍しく賢明な選択を褒める事にした。

何はともあれ、おぼんの超ド級勘違いから逃れられた事は、彼にとても感謝され、彼がおぼんへの当て付けに広げたグルメページのお店でご馳走になったのは言うまでもない。

食べている間、私達はおぼんの勘違いに感謝し続けた・・・かな。

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社長就任!!

技術部→コンサルの各事業部長を経て、現在は副社長となっている女王様は、関西の一流大学を出て大手製鉄会社にOLとして勤務したのが社会人キャリアの始まりである。

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以前聞いた処に拠れば、かれこれ30年前のその時代、お茶入れをしたりコピーをとったりと言った「フツーのOL」だったそうだ。

一流大学を出ても、女性であるというだけで誰でも同じような仕事しかなかった時代だったそうで、案外当時の女王様は普通にこなしてたらしい。

ところが周囲の上司達が女王様に「こんな仕事をしているのはキミには勿体無い」と言い出し、それが現在のITキャリアを築く第一歩となったらしい。

その事に女王様は感謝してるようだし、そう聞くと実に先見の明のある上司達と言えるが、本当のところは女王様に早く出ってて欲しかったのでは・・?と勘ぐってしまう私達なのだった。

ひとクセもふたクセもある女王様だが、彼女がかなりの努力をして、現在の地位を築いた事は誰もが認めているところである。

今の若い子だったらとても我慢できそうもない、理不尽な仕事や就業体制をものともせず知識と経験を積むには、先ず人より強靭な体力と精神力ががなければならないし、割と早めに結婚し「いい奥さん」をしていたのに、短い年月で破局を迎えた事も、ある意味では彼女の仕事への執着のせいと言えなくもなかった。

なので、がむしゃらに仕事をしてきた彼女が順調に出世をし、外資であるA社で初の「生え抜き社長」となった事に、社内では喜ぶ声も少なくなかったらしい。

こういった事は、実際の就任よりかなり前に社内外に聞こえるものだが、就任日のその日は何となく社内がザワついていた。

別に特別なセレモニーがあるわけではないが、とにかく女王様の「お言葉」があるらしいのだ。

規定の時間に一番大きなミーティングルームに全員が集まり、ある人は緊張気味に、またある人は会社の未来に明るいものを見出したような希望に溢れた顔で、彼女の登場を待った。

果たして、相変わらず忙しい女王様は予定より10分ほど遅れて現れた。

あまり社員に好かれているとはいえない彼女だが、とにかく社の事を何も知らずにやってきて、あーでもない、こーでもない・・と掻き回すだけの「雇われ社長」にうんざりしていた一同は、社内の稼ぎ頭で生え抜きの彼女の就任に、”前よりはマシだろう・・・”という、儚く、でも確固とした期待を持っていたので、彼女が部屋に現れると、自然と拍手が沸き起こった。

そして派手めな、いかにも関西人という顔に満面の笑みを浮かべ、小柄な身体に自信と期待を漲らせている彼女の第一声を、静かに待った。そしてその言葉は、少なくても私達の眼を瞠らせるのには充分だった。

「企業とは・・!稼いでこそ企業といえます!」 新入社員研修じゃあるまいし、ただでさえ平均年齢の高い会社で、今更そんな言葉が必要なの??

第一、そんな事を知らない人がいるの??

今、この言葉を聞く事にみんな納得なの??もう、私達はパニックだった。

そして大きく深呼吸をし周囲を見渡すと、いかにも納得しているような、「こういう人を待ってたの!」的な羨望の眼差しとでも言える視線を女王様に送っている、おぼんやおっかさんが目に入った。

一瞬、私達も彼女の手腕に期待しそうになっていたが、この言葉と光景を目の当たりにして我に返った。

そして『会社自体が、勘違いの上に成り立っている』という事に、改めて気付いたのであった。

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キョーレツな登場人物

それは暑い暑い、夏真っ盛りな日の夕方だった。

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金曜だったので私は早めに帰りたくて、さっさと仕事を片付けるべくピッチをあげて仕事をしていたがのそのそ~っと、じーじが近付いてきて「お茶2つ、ミーティングルームにお願い」と言ってきた。

来客の予定はなかった筈だけど??と思いながらも、涼しげな器に冷茶を2つ用意して、指定された部屋をノックし、うやうやしく一歩足を踏み入れた途端、私はめまいがしそうな感覚に襲われた。

????なんだろう・・・この異臭は???

息もできない状態に追い込まれながらも、持ち前の愛嬌で「いらっしゃいませ」とニッコリ微笑んでお茶を出そうとした瞬間、そのお茶を飲むであろう相手が、その眼もくらむような異臭の基だと気が付いた。

見ると、ただでさえ暑苦しそうな、うっすら吹き出物の浮いた顔に、これでもか!というほどかいている汗を拭こうともせず、口を半開きにして肩で息をしている彼は、道頓堀の有名人『食い倒れ』のそっくりだった。

しかもその姿で意気込んで喋っている彼は、どう見ても滑稽な生き物にしか見えなかった。

とにかく、この場を逃れなければ・・・という事しか考えられなくなっていた私は、それでも控えめな微笑を絶やさずに礼儀正しく退出すると、今度はこちらが肩で息をする羽目になった。

暫くしてミーティングルームから出てきたじーじに「彼、取引先の人なんだけど、どんな印象だった?」と訊かれた私は、ヘンな事訊くなぁ~と思いながらも「例えば彼がコンサルだったら、お客様と話す時にあの感じじゃ取引不成立ですね」「焦って、畳み掛けるように喋る様子が、落ち着きがなく見えますね」などと、正直に話した。

金曜なので、その事はすぐ忘れてYと一緒にさっさと帰途についた道々で、面白おかしく、『食い倒れ』の話をしていた時、Yが大笑いしながら「どんな異臭なの?」と訊いてきたので、暫く考えて「獣のような腐ったような酸っぱい匂い」と言った私は、あたかも彼がそばにいるような異臭を思い出して吐きそうになったのだが、その後のYの発言は、ひっくり返るほど私の気を動転させた。

「じーじが今日の夕方、面接があるって言ってたよ」

ガーーーーン!!食い倒れて社員候補??もし入社したら毎日あの異臭がするの??

もう私は完璧なパニック状態だった。 Yと私は「食い倒れが面接で受かるわけないよね」と、自分に言い聞かせながら言いながら、もし彼の学歴がとっても高かったら社員になっちゃうかも・・・と一抹の不安を抱えて駅に向かっていた。

そんな事も、楽しく過ごした週末のうちにはすっかり忘れ月曜を迎えた私達は「すごい高学歴の人がコンサルに入るらしい」という噂を聞きつけ、背筋に冷たいものを感じた。

じーじに確認するのは怖かったが、何としても嘘だと信じたい気持ちから、私は早速じーじの席に行き真偽を確かめた。

するとじーじは本当に困ったといった顔で「俺はKも言ってた通りの印象を受けたから断ろうと思って女王様に報告したら、そんな高学歴の人を入社させないなんておかしいって言うんだよ。女王様もチラッと会ったんだけど、気に入らないのは髪形だけって言うんだ・・・」と話したのである。

余談だが女王様の好きな男は、全員髪型が「センター分け」という共通項があったが、食い倒れはとにかく髪がボサボサで、分け目がどこか・・・などと言う事は二の次という有様だった。

ただでさえ憂鬱な月曜は、このじーじの発言で益々ブルーになった。

最終的な全ての権限を握っている女王様は、とにかく高学歴や、英語・システム系の資格を持ってる人が大好きで、人物など全く気にせず、バンバン入社させるクセがあったが、さすが稀に見る男好きの彼女は、彼にはまったく「男」としての魅力は感じないらしく、評価の対象は、その高い学歴だけだったようである。

彼は入社後、やけに高い学歴は何の役にも立たないという事を次々と証明して見せるのだが、そのエピソードはまたそのうちに・・・・・。

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個性派ファッション

人生で一度だけしか輝いた事のないSさんは、148cmと小柄だった。

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普通ならそれだけで男性の興味をひく事もあるのだが、彼女は常にふてくされた顔をツンと突き上げ、不機嫌そうな顔をしているばかりか、単なる日常会話も刺々しく、全ての人を敵と見ているような有様だったので、特に男性陣にはまったく評判が悪かった。

しかも技術部所属ではあるが事務方、という立場でありながら「どうして私がやらなきゃならないの?」と言う気持ちを常に態度に出すので、次第に周囲が彼女を避け始めるのも自然の成り行きだった。

何しろこの会社は技術者集団で、事務方と言えば総務部と私とYしかいないのだが、彼女がいつもこの調子なので、全く別の部署なのに技術部の人が細々とした事を私に言って来るのも仕方なかった。

A社の事務方はデフォルトの仕事+「みんなのお世話係」的なポジションなのだが、彼女は何を勘違いしているのか、お世話が罪悪でもあるように毛嫌いし、益々不機嫌な顔になるのだった。

彼女の滑稽さは、こんなに「ご立腹」なのに周囲の人達から苦笑されている事だったが、それは彼女の、良く理解できない怒りの風情に加え、服装に原因があるらしかった。

148cmと小さいわりに細くはない身体を包むそれは、大きいのか小さいのか良く分からないという、何とも妙なものだったが、中でも某6大卒のKさんが見るたびに大爆笑していたのが、モスグリーン系チェックと思われる、冬のワンピースであった。

襟や袖などは丁度いいらしかったが、どうにも長い。

マズイ事にそのワンピースはウエストのくびれが全くない ”ズトン”としたもので、くるぶしまであるワンピースが余計、彼女に不釣合いで、Kさんは「あ・・またSさんパジャマで会社に来ちゃったみたい」と、抑揚のない声で言いながら、楽しそうに大爆笑するのだった。ところがご本人はこれをいたく気に入っているようで、彼女的な「特別な日」には必ず着てくる。

逆に、30半ばを過ぎているのにも拘わらず、小柄なのが自慢なのか膝上10cmくらいのスカートもたびたび登場する。

そんな時のトップはやけにピチピチのTシャツやセーターだからたまらない。

細くもない彼女の身体が強調され、またもや違う意味で男性陣の眼を釘付けにする。

こうして人生で一度だけしか輝いた事のない嫌われ者のSさんは、奇妙なところで周囲の人々の視線を独り占めしていることに気付いていないのも、何とも皮肉な展開だった。

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こわ~い女

A社には勘違い女性が多い・・・と言うか、殆どの女性が自分に都合のいい勘違いをしている。

技術部の事務方のSさんもその1人である。

もっとも彼女がサポートする人々は、おぼん・化粧水・噂のチャンネル、そして上司はおっかさんという最強メンバーが揃っているので、影響を受けたという見方も出来なくはないが、どうやらSさんは元々ひねくれ屋で、猜疑心が強く、一言でいうと「性格が悪い」のだった。

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自分に影響力の持っている、おっかさん始め彼女がサポートする人々には、影では悪口を言っても表面上は卑屈なほど従順で、しかも自分の気に入らない人への仕返しに彼女たちを利用する狡猾さも持ち合わせている、まったく油断のならない事務員だった。

彼女は私達が、社内の男性陣と何のわだかまりもなく仲良くしているのが、殊の外気に入らないようで、西陽と私が喫煙室でグルメ話をしているところに彼女がやってきた時の事・・・ 実は西陽はSさんが大嫌いなのだが、自他共に認めるフェミニストの彼は彼女が話に入れないと可哀想だと思ったらしく、「子羊って美味しいよね」と、お決まりのポーズでちょっぴり自分に酔いながら、話を振った。

普通の大人なら、適当に話を合わせるのだが、ひねくれ者の彼女の答えはふるっていた。

「あの匂いが嫌い」と、ニコリともせずそっぽを向いたのである。

狭い喫煙室は一瞬凍りついたが、それでもフェミニストの彼はひるまなかった。

そんな反撃は痛くも痒くもないという薄笑いを浮かべながら「でもさ、岩塩だけで焼いた子羊は絶品だと思わない?」と続けたのである。

Sさんは、会社の男性にちやほやされたい、美味しいものをご馳走になりたい、注目されたい、認められたい・・・と思いながら、自分に全く見合わない自己顕示欲が強過ぎるために全く逆効果にしかならないジレンマにイライラしているせいで、ひねくれ者になっているようなので西陽のこの言葉にムカついたらしい。

「そんな高級なもの食べた事ないから分からないの!!」と吐き捨てて、プリプリ出て行ってしまった。

流石の西陽も苦笑していたが、Sさんは誰にでもこの調子で、特に自分をちやほやしない男性には目くじらを立てるのだが、考えてみたらSさんをちやほやする男性など、どこを見渡してもいるわけもなかった。

そう言えば、いつも不機嫌にムクれている彼女にも、人生でたった一度だけ輝いた瞬間があった。

飲んだ時に少し自慢げに話していたのだが、東日本の政令指定都市出身の彼女は、小学校時代に地元のデパートで開催された「ピンクレディーコンテスト」に出て、渚のシンドバッドを見事な振り付けで歌い踊ったというのだった。

もちろんコンテストに入賞していない事は、彼女の話が出場したところで終っているので明らかだが、その話を聞いた時、何十年も生きていて最大の自慢がそれなのか・・・と思ったら、Sさんの性格がひねくれるのも仕方ないのかな??と思えなくもなかった。 とは言え、結局彼女は殊に男性陣に嫌われていて、まだエピソードがあったりするので、そのうちに・・・。

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ネタ系勘違い

社内の勘違い女NO.1のおぼん

は、いつでも世の中全ての男が自分を落としたいと思ってるとも勘違いしているらしく、「私ったら罪なお・ん・な」と、ありもしない男性の視線を集めているという、根拠のない自信をふりかざして歩いているような女である。

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不倫してるじーじが、妻子を捨ててでも自分と結婚したがってると思っていたり、社内イチ若い20代後半の男性が、女性としても先輩としても自分を憧れの目で見ていると勝手に思い込み、彼が高熱を出して数日休んだ時には、わざわざデスクから彼に電話をし「大丈夫?ちゃんとご飯食べてる?今晩ご飯作りに行ってあげようか?」と言い放ったものである。

おぼんが彼に色目を使っている事はあからさまだったので、周囲は別に反応しなかったが、そのメンツが噂のチャンネルや化粧水だった事を考えれば、彼女の行動には敬意を表すべきかもしれなかった。

もちろん彼は、苦しい息の下から鄭重にお断りしたのだが、彼の迷惑にも全く気付かず「遠慮しなくていいのに」と、さも面倒見のいいお姉さんぶっている様子は、滑稽でしかなかった。

さて、そんな勘違い生活を満喫しているおぼんは、自分の外見やセンスにも絶大な自信を持っていた。

外見は特にヒドくも良くもなく、ごくごく普通で、まずいことにかなりのガニ股だったが彼女は常に「外資IT企業の出来る女」を気取っているため、よくそのテの女が勘違いするようにシャープな黒っぽい服が多かった。

冬の初めのある日、私達は目を疑った。いつものようにコツコツとハイヒールを鳴らして出勤したおぼんは、意気揚々と白地に紺の大きなダイヤ柄のコートを身に纏っていたのである。

スーパーモデルクラスにしか着こなせないような、とんでもない柄のそのコートに、みんなは呆れ返ってあんぐりしていたら、またもや勘違い絶好調のおぼんは「やだ・・またみんな私に注目して・・」というような満足げな微笑を湛えながら、うやうやしくコートを脱いだ。そして次の瞬間、私達は第2次驚愕の時間を迎えるのだった・・・なんとコートの下には、まるでカルピス社の回し者のような、白地に大きな紺の水玉模様の、身体にフィットする服を着ていたの0だ。

もう全員、見なかった事にするしかなかったが、おぼんはこの一連の光景に「やっぱりミスA社は私以外いないわね」と再確認したようで、その日は終日上機嫌であったのは言うまでもない。

あまり自信満々なのが可笑しくて、ある時私は「いつもステキなお洋服を着てらっしゃいますけどどちらで買われるんですか?」と、噴出したいのを堪えて訊いてみた。

彼女は勘違いしてるだけで、悪人でもなんでもなく、むしろある意味素直なので、からかわれてる事など露ほども感じず、得たり!と思った時に多用する「いえいえ・・」という言葉の後に詳細な説明をした。

この一言のおかげで、数日後おぼんの買い物に、ありがた~く付き合せて頂く事になったのだがその話はまた今度!!しかし・・おぼんのこの勘違いの数々はネタのようだが、彼女はいたって真剣なのだった・・・

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毒牙の結末

女王様が大の男好きだという事は周知の事実だが、その守備範囲はかなり広かった。

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前回、新しく入社した独身男性Sさんに触手を伸ばした事は書いたが、それまでにもそれこそ数多くの社内の男性、しかも妻帯者にでも構わず色目を使う、困ったおばちゃんだった。

これまでも、その権力に屈して餌食になった男性社員は多いが、そのきっかけの多くは出張で、大抵の場合、それは大阪で起こった。

A社の取引先の多くは、大阪にある事は既に書いたがそのテのプロジェクトのミーティングは、恐ろしく長い場合が多く、朝から夜10時・11時まで続く事も珍しくなかったので、メンバーが心身ともに消耗し、多少の食べ物を口に入れ、シャワーを浴び、何も考えずにベッドにもぐりたいのも当然だった。

あっという間に吸い込まれるように眠りにつき、至福の時を過ごしている彼らを、しのびやかなノックが襲うのは、大体夜中3時頃だった。

冴えきらない頭と視界でドアの方を向くと、ノックと共に多少苛立った、女王様の鼻にかかった声がする。

「ちょっと言い忘れた事があるんだけど、開けて~」・・・・ ぼんやりした思考能力で事態を整理しようと、取り敢えずドアを開けたらおしまいだった。

もう夜中なのに美しくバッチリ化粧をした女王様は、するりと小さな身体をドアから滑り込ませ後はお決まりのパターンだった。

じーじの様な勘違いな女好きや、高学歴のKさんのようなマジメなサラリーマンは、ドアを開けてしまうがSさんは、そういう様々な噂を耳にしていたので、寝たふりを決め込んだ。

女王様の策略か、仕事上本当にそれが適切だったのかは知らないが、この時の出張は女王様とSさんの2人だけだったので「今夜こそ」と意気込んでいた女王様は、かなり長い時間ドアの外で粘っていて流石のSさんも「社長だし、仕事の話があるのかもしれない・・。

もし無いにしても女性に恥をかかせるのは可哀想かな」と考えながら、でも本当に睡魔には勝てず彼女の足音が寂しげに去っていくのを聞きながら、また深い眠りに落ちていった。

次の日は大切な提案をする日だったが、当然朝から女王様はご機嫌ナナメである。

Sさんは内心やりづらいなぁ・・・と閉口しながら、何も気付いてないように、いつも通り振舞っていた。

果たして客先での大切な提案の時、女王様は「Sさん、そんな事も分からないの!!」「それはどういう事??」等と、まるで敵対するライバル会社のように、Sさんを客の面前で罵倒・追及し始めた。

Sさんは、この展開に驚いたが、もっと驚愕した顧客が、2人の間を取り持つ羽目になったのはまったく滑稽極まりない事態だった。

こうして大切な提案の日は修羅場と化し、東京に帰る前にSさんがこのプロジェクトから外されたのは予想通りの結末だった。

こうして女王様は、モノにした男だけをいいプロジェクトにアサインし、給料を上げるという暴挙を繰り返すのだが、この事が、自分の征服欲とプロジェクト充実の両方を満たすものだという事に、女王様自体は気付いてなかったが、女王様の男好きが、会社の利益に大いに貢献しているという、納得できない結末になっている事は確かだった

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女王様は可愛い子ちゃん

勝手気ままに振舞う事、そして年甲斐も無く可愛い子ぶる事にかけては、女王様の右に出るものはいない。

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例えばオフィスレイアウト変更の時、自分の仕事は機密性が高いので、デスクをパーテーションで囲んで欲しいと言い出し、みんなで言われた通りにしたのだが、座ってみたら孤独感に見舞われたのか「いや~ん・・・こんなんだと寂しいぃ」という一言で、再度の変更を余儀なくされたり、事業部長時代、午後のオフィスではキーボードを叩く音しか聞こえない様な静寂の中、お気に入りのじーじに「ねぇ・・今度の土曜日空いてる?社長のお宅のホームパーティに招待されてるんだけど、一緒に行ってぇ~」と鼻にかかった声でおねだりするのである。

みんな、また始まった・・・と思いながらも聞こえないフリに徹するが、この「私って女の子」攻撃は重要な来客の際にも遺憾なく発揮されるので、関係者はたまったものではなかった。

~女王様、社長就任~

ある時、誰でも知ってる会社の、かなりエライおじさんが、女王様の社長就任祝を言いに来社した。頼まれてお茶を持って行った時、私は目を疑った。

なんと女王様は彼の背後に回り、顔を大接近させて「暑いでしょ~?上着脱いで下さいねっ」と言いながら、彼が上着を脱ぐのをいそいそと手伝っていた。ここはクラブなのか??と思いながら、何も気付かないふりでお茶を出したが、顧客にまでそんな態度で接しちゃうんだ・・・と思ったら、こちらが恥ずかしかった。

まぁ女性らしい気遣いと言えなくもないし、企業のおエライさんの多くは女王様より年上なので、どんな女性に対しても「取り敢えず女性だから」的な発想で優しく接してくれていたので、女王様は自分がどれだけ滑稽かという点には、思いが及ばないらしかった。

~女王様とのプロジェクト~

当時A社の顧客は大阪に多かったという事は既に書いたが、女王様はお目付け役としてそのプロジェクトに参加しているので、当然毎週大阪出張があった。

中途入社してきたSさんは、一流大学出身の独身男性で、周囲の女性はすぐに彼が女王様のお気に入りになりそうなタイプだと気が付いた。

果たして入社3日目に彼は女王様から一緒のプロジェクトに参加するよう仰せ付かった。

彼は同業界の出身なので知識はあるが、何しろまだ3日目で顧客の事も全く分からないのでもう少し勉強してから・・・と当然の理由を持ち出し断るのは当然だった。

この時も女王様はクスッと笑いながら「だ・い・じ・ょ・う・ぶ!!私がちゃーんと教えてあげるから」と、安物のAVのような台詞を、小首をかしげて恥ずかしげも無く、彼に言い放つのだった。

~女王様は、体調不良!~

大抵の場合、その気味の悪い攻撃は男性に向けられるのだが、時々女性にも垣間見せるのは、全く厄介な話だった。

セクレタリーのKはみんなの面倒を見る係りなで、体調が悪いから午前半休するなんていう連絡も受ける事が多かった。

それは女王様も同じで時々朝「○○です・・・Kさん??」と消え入りそうな声で電話をしてくる。

それだけで充分体調不良は分かるのだが「具合悪いの・・・アレで」と、聞きたくもない詳細な理由も、ちゃーんと言ってくれたりするのだ。

Y曰く「まだ私も女なのよ~」というアピールだと言うのだが、単なるセクレタリーにそんな発言、しかも体調不良だと言うのに、それにどんな意味があるのだろう・・・・未だに全く謎である。

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じーじはプロジェクトリーダー

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ドームは嫌われ者なので、社内に仲良しは皆無である。

なのにどうにも「つるみたがる」傾向があり、一仕事終えた10時頃に近所のスタバのコーヒーが飲みたくなるらしいのだが、まんまとじーじを誘い出す。そして買って帰ってくるのかと思いきやしっかり「店内でお召し上がり」なのである。

忙しいと徹夜だわぁ~と行ってる割には、スタバでお互いに見つめ合って、微笑みあって、手を繋ぐ時間は作り出せるらしかった。

そして軽々と2時間近くを過ごした後、さも出来る女に必要なブレイクだったという顔で席に着き、30分くらいすると、もうランチである。

これまた、じーじは見事に罠にはまり、いそいそとドームの後に付いてエレベーターに乗り込みスタバと同じように永らく帰ってこない。

彼らは時計を持っていないか、企業で仕事をしてお金を得ると言う事が理解できないかのように、2人の時間の流れはアバウトに過ぎてゆく。

こんな有様なので、出張の多いコンサル部隊に属する彼らが、一緒に出張しようと思い立つのも当然の成り行きで、じーじはリーダーの地位を利用して、ドームを自分と同じプロジェクトに組み入れた。

化粧水の話も以前書いたが、このテの勘違い人間ほど別居や不倫に社費を使う事さえも当然の権利だと思い込んでる、セコイ輩が多いのだ。

全く公私混同も甚だしいバカ者達である。

当時A社は製薬業界を得意先として沢山抱えていたが、これらの大企業の所謂「頭脳集団」である開発部門と言うのは、その殆どが大阪にあった。

A社は自社システムをカズタマイズして売るのが主な仕事だったが、この導入には億単位のお金がかかる。

顧客にそれだけの金額を吐き出させるには、それ相応の成果をあげなければならないのは当然で、ある製薬会社のプロジェクトは、その会社の全ての仕組みを変える大掛かりなもので、メンバーは毎週大阪詣でをする為に日々の業務に追いまくられていた。

そのリーダーがじーじで、何の必要があるのかドームを急にプロジェクトメンバーに組み入れた。

既に「そんなに必要なの?」という人数をつぎ込んでいるのに、である。

プロジェクトを成功させなくては自分たちの給料も上がらない仕組みのA社で、何人ものメンバーがいるにも拘わらず常に一緒に行動し、驚くべき事には2人だけは毎週1泊多い出張をするのだ。

私の業務の中には出張手配がある事は既に書いたが、割とじーじとは仲良しだったので、ある時「どうしていつも2人は帰京日がみんなより1日長いの?」とバッサリ訊いてみた。

「ドームは完璧主義だから打合せも長くなっちゃうんだよ」・・・。

ここまでは、まぁふーん・・・と思える。

しかしその後のじーじの答えと、その時の楽しそうな顔は、私を呆れさせるのに充分だった。

「でもさ、いつも取ってもらうホテルの支配人とうちの社長って友達だろ?だからチェックアウトを2時まで伸ばしてもらえるから、一仕事終わってシャワー浴びられるんだよ。これっていいよな」

「・・・・・・・・」どんな一仕事か知らないが、ただでさえ他のメンバーはミーティングが18時間続いたなどと嘆いているのに、午前中に終るミーティングなどあるわけもなく、顧客と会っている筈はなかった。

例の、アニメのキャラクターに似た悪気の無い顔と、のんびりした口調で言われると、怒る気も起きず黙って立ち去るのが最善の策のように思えるのだった。

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じーじの社内不倫

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以前「じーじ」については書いたが、背が高いだけが取柄のアニメの主人公のような容姿の彼は根拠の分からない多大な自信を持っている男である。

しかし驚く事には、そんな彼に「男としての魅力」を感じる女が、こんな小さな会社に複数いるのだった。

じーじとおぼんが不倫関係にあったのは周知の事実だったが、もう1人彼に好意を持っていたのがこれまた、わけのわからない自信過剰なバカ女、ドームである。

じーじとおぼんは同棲までしてた仲だし、お互いにある程度本気だったのは確かだったがドームとの仲は、全くそういう匂いはなく、この勘違い者同士の社内不倫は、一般的な感覚を持った社会人には、理解できない事が多かった。

例えば、ドームに仕事の相談をされたじーじが彼女のPCの前に行った時、何故だかドームの椅子をシャアして座っていた・・・つまり1つの椅子を仲良く半分コしてたり、会議の最中に手を繋いでたり、キスシーンを目撃した女性もいたらしい。

彼らの出張手配も仕事の1つだった私は、ある時その部全員が海辺の施設でする1泊2日研修の切符の手配をする事があったのだが、手配書を見ると行きは7人分、帰りは6人分、部員数より少ない。

間違えては面倒だと思い、リーダーであるじーじに確認に行った時「あ~・・俺は往復車だから」という答が返ってきたが、帰りのもう1人は??と不審に思って聞き直した時、ハッと気付いた。

聞いて失敗だったなぁ・・・と思ったその時、彼は何食わぬ顔で「帰りはドームも俺の車で帰るから」と言い放った。

全く恐れ入った度胸である。

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女王様とOA機器

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何度も書いているがA社は外資のIT企業である。一般的にそのイメージは、社員の殆どがPCに詳しく、専門用語を多用する・・・的なものだと思うがそれは大きな誤解である。

確かに普通の人よりは知っているが、中学生の機械好き少年や、オタッキーな大学生には到底敵わないレベル程度のものである。

ましてや社長、しかも出身がコンサルとなれば尚更である。 その頃、コンサルのKさんは、A社のシステムを導入してくれた、誰でも知ってる超大手通信会社のマニュアル作りに没頭していた。

彼は子供の事から「神童」並に扱われ、小学生の頃には「行くなら東大」と決めていたというツワモノである。

しかも東大に入ってみたものの「なんか違うなぁ~」と思い続け、結局退学してしまった。

その理由が「もっとアカデミックな所かと思った」とあっさり言う彼は、良く東大生にいる「テストはできる」タイプの典型であった。

その彼が作るマニュアルなので完璧かと思いきや、残念ながら彼はWordに疎かった。

提出したマニュアルに不備があると客先に指摘され、訂正にかかったが、あまりにも不出来な上、300ページちかくあるそれは、訂正しない部分の方が少ないような代物だった。

女王様は当時、彼(というよりその学歴)を愛していたので、その手直しを手伝うと言い出した。

ところがフタを開けたらあまりにも大変そうで、私達にその尻拭いが廻ってきた。

どう考えても彼らよりWordに詳しい私達は、手分けしてさっさと手直しし、終電に飛び乗った。

問題はその後発覚した。

女王様とKさんにメールで送った完璧なマニュアルを、意気揚々と女王様が客先にメールしたところ「ファイルがおかしい」とクレームが入った。徹夜で会社に残っていた女王様が驚いてファイルをクリックすると、めちゃくちゃになっている。焦った女王様は、ずれた箇所などを手でコツコツ直したそうで、次の朝、手直しする作業がどんなに大変だったか、私がやったからマニュアルが完璧になった・・・と言うような事を、徹夜明けで目の下にクマを作りながら、出社した私達に自慢げに説明するのだった。

そして次の瞬間、私達のうちの1人Yは耳を疑った。

「このマニュアルFAXで送って」。

FAX???このご時勢に、しかも客先は超大手通信会社なのに、だ。

めちゃくちゃになった原因について女王様は全く理解の外のようであったが、私達のものよりかなり低いバージョンのオフィスを使っていた為、ファイルが正しく見れなかったのは明らかだった。

後から考えると、Yから送れば何の問題も無かったのだが、この時ばかりは常に冷静な彼女も勝手が違った。

「FAX」という一言に度肝を抜かれ、良く考える間もなく印刷したマニュアルをFAXし、何とか全て送信し終わった時は、とっくにお昼を過ぎていた。

驚くのはこれだけではなかった。

私達のうちの1人Kはセクレタリーで、完全な事務職である。

この頃には女王様も、オフィスのバージョンが失敗の原因だった事を聞きかじっていたのだが突然Kの席までやって来て「オフィスの入替できる?」と言ったものである。

誰がどう考えても、少なくてもA社でのそれは社内OAの仕事で、セクレタリーに関わりのある業務である筈が無かった。

ポカンとしてるKに、女王様は少し苛立ちを覚え「出来るの?出来ないの?」と声を荒げたのには、益々驚いた。

その後、オフィスのバージョンアップが社内OAの業務だと言う事も悟った女王様は2度とKに、そんなバカげた事を訊く事も無かったが、この一連の不思議な事件はある意味、A社の本質を現していて、今でも私達にとっては大いなる笑い話となっているのは言うまでもない。

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モテ男もラクじゃないぜぇ~

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西陽と姉さんが付き合ってるという噂は、まことしやかに流れ、聞いた人全員が納得するという、この2人にピッタリの展開を見せた。

要はみんな「あの2人なら・・・」と思ってるわけだ。西陽はいい人だけど、妙に自信たっぷりで女性好き、姉さんに至っては単なる男好きで、ちょっといいと思う男とはコロッと寝る・・・という具合である。

ある意味、大阪支店を仕切ってる状態の姉さんは、仕事はもちろん、出張に関しても勝手気まま・・・まるで個人旅行のように展示会やミーティング、セミナーなどにかこつけて、月に1度は東京に通ってくる。

私は姉さんと話す唯一の女性社員だし、いつも仕事を押し付けられているので、1度くらい食事に誘ってくれても良さそうなものだが、そんな提案は全くなかった。それどころか、彼女が何度も電話で言ってくる、訳の分からない要望をクリアする宿泊先を予約するのに結構な時間を掛けなくてはならない事も多かった。

もちろんそのホテルが西陽との愛の巣になるわけで、知らない間に「社費で不倫」の片棒を担がされている私もとんだ役目を担っていたものである。

どういう訳だか私達は、会社の男性陣にご馳走になる機会が多かったが、西陽はその筆頭で彼は、勿論足を交差させながら「何のメリットも無いのに食事ご馳走する女性は君たちが初めてだよ」などと髪をかきあげ、あまりコミュニケーションが密とは言えないA社で、本音で語れる相手は君たちだけかもね・・と憂いを帯びた目で遠くを見つめるのが常だった。

ある時、白金に美味しいイタリアンがあると聞きつけた私達は、次の会でそのお店に行ってみた。グルメも自認する彼は「やっぱりイベリコ豚は格別だね」とか「ラムには岩塩が一番合うね」などと独り言のように呟きながら、かなりの量のワインと共に食事を楽しんでいた。

楽しい時間も終わり、会計を済ませた彼は「酔い覚ましに少し歩こうか?」と言い出した。

白金から目黒まで、昼間ならいざ知らず、もうかなり夜も更けているし、女性の足では楽々20分は掛かる道を、冬の季節に歩こうと言うのだ。

明日も会社である事を考えると鄭重にお断りしたい気持ちだが、かなりの額をご馳走になっている身では頷く他、選択肢はない。

道々、暗さとワインのせいで、いつもよりもっと滑らかになった舌は、「この道、彼女と歩いたなぁ・・」と、空に向かって大きく息を吐きながら言い放ち、突然私達を驚かせた。

そして相槌に困って沈黙する私達に、追討ちを掛ける様に「結婚して欲しいって言い出されてさぁ・・ビックリしたよ」と、懺悔か自慢か分からない薄笑いを浮かべながら続けたのである。

愚問と分かっていても「それで何て答えたの?」と訊いてしまった自分を情けないと思いながら答えを待ってると「キミの事は好きだけど家庭を壊す気はないよ、って言ったら泣かれちゃってさ」と、すっかり映画のワンシーン気分で、目黒に向かう並木道を、風に髪をなびかせ歩いている彼を、妄想の世界から引き戻す術は、既に無かった。

何とか駅に辿り着いた私達は、彼が駅の雑踏で現実に戻った事を知って、密かな安心感を感じていた。

ホームに着くなり「トイレに行って来る」と言って、今上ってきた階段を駆け下りたのである。

何だか可笑しな後姿だったが、帰ってくるときは上質なキャメル色のコートのポケットに片手を入れたまま、一段抜かしで階段を駆け上がり「お待たせ」とウィンクする彼を見た私達は、いつ、どんな時でも自分をモテモテ男だと信じて疑わない彼を、つくづく幸せ者だなぁ・・・とちょっぴり羨望の眼差しを送ってしまうのだった。

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恋の予感・・・始まりはゆりかもめ

西陽が自信たっぷりな事は既に書いたが、忙しくて寝る暇もない、とこぼす彼にも女性と付き合う時間はあるらしかった。

彼は背の低さだけがコンプレックスなので、そのテの男性にありがちで、好きな女性のタイプは「華奢な人」、第一印象で目が行くのは顔でも胸でもなく「細い足首」だと言い切っていた。

IT企業であるA社は展示会に出展する事が多いが、その準備や設営は私の仕事で、名目上の責任者が「姉さん」であった。

もちろん彼女は仕事を一生懸命する、なんて気持ちは全くないので結局システム関連の事柄以外は私の仕事になるのだが、このエピソードにその事はあまり関係ない。

ある時、ビッグサイトで大きな展示会があり、当然姉さんと私は前日から入って設営したが、その帰りのゆりかもめの中で姉さんは驚くような事を言い出した。

彼女は大阪在住のため、その時がレインボーブリッジを実際に通った最初だったのだが、私に「雑誌でこの橋を歩いて渡れるって書いてあったんだけど、西陽と一緒に歩きたいなぁ。伝えておいてくれない?」と言い放ったものである。

私にしてみれば目が白黒状態なのだが先輩の命令だし、何より面白い事になりそうな予感に、あっさり頷いたのは当然だった。

早速次の日ビッグサイトにやってきた彼に、その重大な秘密をそっと伝え、事の成り行きを見守ったのだが、そこは熟練?の2人、周囲に気付かれるように急接近する事などあり得なかった。

しかし私は、当然その後も2人の動向に目を光らせていたのだが、こんな時どこからとも無く登場するのが「噂のチャンネル」である。

彼女は2人の約束など決して知らないのに、その名に恥じない嗅覚で何となく2人が「怪しい」と、あっさり目を付けた。まったくもって恐れ入った活躍ぶりである。

そうこうしている内に「西陽と姉さんが一緒に歩いていた」という噂が、まことしやかに流れた。

まさか本当にレインボーブリッジを歩いたとは思えないが、確かに距離は縮まっているようである。

交際中に本人たちから何か聞いたわけでもないし、勿論私も社会人の、そして後輩の常識として「その後どうなりました?」なんて口が裂けても言った事は無いし、訊いた所で言う筈もない。

ただ、西陽は「今付き合ってる人がいる」という事実を仄めかしたいらしく、核心はぼかしながらも「デートの時は『今日は食事して軽く飲んでホテルだよ』って言う」とか「どんなに彼女が好きでも家庭を壊す気は全くないから、絶対泊まらない」など、あたかも「それがどうかした?」という素振りで、もちろん足を交差させながら話し、さり気なく私にヒントを与えてくれていた。

そして姉さんも東京出張の際、必死で仕事をこなす私に「西陽に誕生日プレゼント渡したいから喫煙室に来てくれるように言ってくれない?」などと、東京出張の目的はそれだと言わんばかりに私に頼むばかりか、まるで「2人は怪しくも何とも無いから喫煙室でやり取りする」という証明に使うように、プレゼントの受け渡し場所に私もいるように命じるのだった。

えっ?その後2人はどうなったかって??それは次回・・次回。

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西陽のコンプレックス

常に自分の、やや時代錯誤な美学を追求する彼は、ある意味涙ぐましい努力家とも言える。

おまけに彼は自分に、男性としての魅力が満載だとも思ってもいる。

「結婚してから付き合った女性は、まぁ10人程度だけど、彼女達はみんな幸せになったなぁ」とか「電車の中で”カッコイイ”って声がしたから、どんな男だと思ってチラッと見たら、女性が2人でこっちを見てて・・」などと、恥ずかしげもなく言いのける自信家でもある。

その為に、当時まだ日本に入荷してなかったカルティエの新作トワレを身に纏い、スーツにも靴にもお金をかけ、細身でタールが低いメンソール煙草を、足を交差させて吸ったりする、超ナルシストなのである。

確かに彼はヘンな男でも何でもなく、仕事も出来るし、女性にも優しく、ユーモアもある。

そんな彼にも、だった1つだけ(・・と彼は思っている)コンプレックスがあった。

ある時、彼が海外出張に行く事になり、旅行会社に提出する書類を書いた時の事だった。

私はそのチェックも仕事だったので、書き漏れがないか見ていたら1箇所だけ空欄があった。

全ての欄を埋めてもらわないとならないので、彼に持って言ったら「あ・・見落とした」とスラスラと書き足したものである。

また、IT企業なのでビッグサイトなどで開催される展示会に出展するのだが、コンサルである彼はもちろん自社システムに詳しいし、人当たりも悪くないので、駆り出される事も多い。

そんな時はお揃いのTシャツを着る事になっていて、解説メンバーにそれぞれのサイズを聞き、買い揃えるのも私の仕事だった。そろそろ種明かしをすると、彼のコンプレックスは身長だった。

どう見ても170cmないのは明らかなのだが、海外出張の書類には堂々と「169cm」と記入し、Tシャツのサイズは「L」だと言い張った。

まぁ誰もそれに文句は付けないが、嘘と言うのはどこかしらから綻びが生じるものらしい。

会社につき物の人間ドッグの結果の話をした時、体脂肪率が少ないのを自慢したい彼は、その紙を私に見せびらかしたのだが、そのすぐ上の欄には「身長 166.7cm」と記入されていた。

また、会社のレイアウト変更の際、パーテーションの高さを測った私は、そのパーテーション越しに話をする彼を、後から見た事がある。

どう考えても相手の席まで行って話した方が楽そうなのだが、わざわざ小難しい話を大きな声で、しかもパーテーション越しにするのも彼の好きなアクションだった。

それは彼の追求する美学に合っているらしかったが、私は彼がかなり背伸びしていたのを見逃さなかった。そしてそのパーテーションの高さは169cmだったのである。

言うなれば彼は「もう少し背があれば俺ほど完璧な男はいないぜ」と心底信じているわけで、でもユニークな人柄故に、彼独自のこだわりがそんなにイヤミになっていないhappyな人だった。

ちなみに彼は、既に登場したある女性と浮名を流した時にも面白い逸話を残したのだがそれは次回のお楽しみ♪

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なんで私が・・・

噂のチャンネルはちょっぴり迷惑な人柄ではあるが、仕事もきっちりこなすしお話好きって以外は、取り立てて悪人でも何でもない。

むしろ彼女は真面目すぎるくらいの性格だった。

A社の仕事は、顧客とプロジェクトを組んで行うためスタンスの長いものが多い。ある営業マンが地方の電力会社の仕事を受注したのだが、その営業マンは自社システムについてまったく無知で、噂のチャンネルがそのシステムの責任者であったので出張同行を依頼した。

それまでにそのシステムを使って作らなくてはならないデータも、その営業マンは全く自分の仕事でないような顔をして勝手に私にまで振り分け、自分はさっさと帰る日々に、まじめな性格の噂のチャンネルは、会社にとって多大な利益になりそうなプロジェクトでなかったら絶対に手伝わないのに・・と、トイレやコピーや給湯室で会う度に、大きな目に怒りを湛え真っ向から怒っていた。

営業マンがさっさと帰るのを尻目に、手分けして作ったデータがようやく出来上がったのは出張の2日前で、噂のチャンネルは彼と2泊3日の中国地方出張に出た。

当然知識のない営業マンは口先で適当な事を言うだけで、プレゼンから質疑応答、今後の打合せ日程まで全て噂のチャンネルに押し付け、5時頃になると夜の巷に消えるらしい。

初日の夜だけ軽くご飯をご馳走になっただけだったと、帰ってから彼女の怒りは「呆れ」に変わり、とにかくこのプロジェクトが成功しそうな滑り出しを喜ぶ事で気を紛らわしているようだった。 しばらくして、フェミニストを自認する営業マンは、噂のチャンネルにお礼をしようと思いついた。

そしていかにも前から考えていた大切な案のように、彼女の耳元にこう囁いた。

「この間のお礼に、今度食事をご馳走するよ」当然彼女が顔を輝かして喜ぶと思っていた営業マンの目論見は全く外れ、彼女は目を怒らせて「あれは仕事ですから私は当たり前の事をしただけです。

仕事のお礼に食事のご馳走とかって好きじゃありません」と言い切った。

こんな時、笑いながら言い訳するほど不適切な反応はないのだが、営業マンはそれをやってしまった。

ニコニコしながら「取って食おうってわけじゃないし、この間のお礼に食事をご馳走するだけだからそんなに大袈裟に・・・」この一言で噂のチャンネルの怒りは頂点に達した。

「何で私が妻子持ちのあなたと食事をしなきゃならないんですか!!!」 これには流石の営業マンも二の句が告げず退散するほかはなかった。

まったく、その行動とは正反対に、驚くほど「固い」噂のチャンネルの性格が現れたひとコマだった。

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噂のチャンネル

大抵の女性はワイドショー的なネタが好きなものである。

そしてどこの会社にも必ず1人は、どこでそんな情報を仕入れるのか??という程様々な噂話について、見てきたように詳しい女性がいるのである。

当然、この会社にもかなりハイグレードな「噂のチャンネル」が存在した。

彼女はなかなかハッキリ顔の美形で見た目はまぁまぁ上クラスだが、とにかく噂話に目がない。技術部に所属している彼女は、かなり忙しそうでマジメな仕事ぶりだが、昼休みになると本領が発揮される。

「噂のチャンネルチーム」が寄り集まって、会社のミーティングスペースで繰り広げられるランチは、その話題の100%が噂話か芸能人ネタで、お互いの情報交換に余念はなくそのディティールを繋ぎ合わせると真実が見えてくる・・・と彼女達は信じて疑わないので噂を繋ぐ細い糸を少しづつ手繰り寄せようと必死になっている姿は恐ろしくも滑稽である。

以前「じーじ」と「おぼん」が不倫関係だと書いたが、当然このテの話題は彼女の独壇場で、まるで見てきたように詳しく、意気揚々と語るのを、何よりのストレス解消法としていた。

本人達は絶対言う訳のない「同棲」については、場所がみなとみらい付近、部屋は2つでカーテンは花柄、週末だけ同棲していて、時々「おぼん」が手料理を振舞っている・・・などなど2人が同棲している部屋に招待でもされない限り分からない内容について自信満々で語るのを周囲の人たちも、真偽のほどはともかく、間違いなく面白がっていた。

このような情報を集めるために、彼女は仕事を素早くこなし、女王様に「猫娘」とあだ名を付けられたほど大きな目を出来るだけキョロキョロし、どんな細かい情報源も見逃すまいとする。

彼女のようなタイプは、何となく「臭い」ところを嗅ぎ付けるのに警察犬並みの才能を発揮し見事に真実に辿り着く(と本人は思っている)。この標的になった人こそ災難で、常に監視され、本当でない「きわどい」話を、さも本当のように撒き散らかされる。

そしてもっと災難なのは、噂の出所を聞かれた時、名前が出てしまった人である。

「噂のチャンネル」の名誉の為に付け加えると、彼女はちょっぴり好奇心旺盛過ぎるきらいはあるがイイ人である。

そして元々マジメな性格なので仕事はきっちり素早くこなし、浮かせた時間で趣味である情報収集をして生きがいを保っているのだ。

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化粧水_偽りの幸せ

新婚の浮かれ気分も長くは続かず、ヘタにいい男と結婚したばかりに、ただでさえ人より深い猜疑心に益々拍車がかかっていった。

普段から悪い顔色は、グレーの濡れ紙を貼り付けたように表情がなくなり、それでもいい人だと思われたい、私は幸せな人妻よ・・・とアピールしたいという意識が働くのか明るく振舞っているのが哀れを誘ったが、知らない間にいつもより目が鋭くなり一層不気味さを増していくのは自然の成り行きだった。

M氏と化粧水の新居は、M氏が当てた公団住宅で、立地は埼玉副都心からバスで20分と言う、かなり地味なものだったが、その分間取りは広く自然を愛するM氏が喜ぶような緑多い土地だった。

「新居は三軒茶屋がいい」などど、都会に憧れる田舎者の典型的な夢を抱いていた化粧水にしてみれば、結婚までは自分の思い描いたストーリー通りだったが、ちょっぴりガッカリな立地だった。

でもそこは誰よりも計算高い化粧水、この立地条件を自分の失敗しかけている結婚生活を隠蔽するアリバイに利用した。

結婚して暫くすると「忙しいから」という理由で会社から電車で10分くらいの都心にマンションをこっそり借りた。

事実彼女は残業が多く周囲の人は可哀想に思いはしても何の疑いも持たなかったがここに彼女のズルさが隠されていた事に気付いた人は少なかった。

化粧水の説明では、彼女が忙しくM氏も出張が多いので、遠い新居に帰ると、すれ違い生活になってしまうため平日は都心で生活しているの・・・という尤もらしいものだったがもちろんM氏との関係にヒビが入り別居していたのだった。

そのマンションは新居への通り道にあったが、彼女は会社から支給される交通費はしっかり遠い新居までの分をもらい、幸せのアリバイと余剰金という図々しい2本立てをしてのけていた。

人生最大の危機というべき離婚が目前にあっても、会社から交通費を掠め取るという芸当をあっさりしてのけるあたり、育ちの悪さと言うのは隠せないものである。 これは数年前の出来事で、その後どうM氏を騙したのか何とか元の鞘に収まったが、若くない彼女が人一倍正義感の強いM氏を、一生繋ぎとめるに「子供」が一番なのは、誰にでも容易に想像がつく。

当然彼女は張り切って「不妊治療」に勤しみ始めた。

化粧水独特の気持ち悪さで、隠しているように見せかけてさり気なく自慢しながら続けられたそれはまたもや彼女の幸せアピールに一役買った事に、彼女自身が最も満足していたのは言うまでもない。

その精神の安定が、幸か不幸か「妊娠」という事実を引き起こした。

祝福の言葉を浴びながら化粧水が「これで一生安泰」とほくそ笑んでいたのに気付いたのは私達だけだったかもしれない。

段々大きくなるおなかを大事そうに抱え、M氏もとっても喜んでいるの~などと言いふらす彼女は今度はママになる幸せを噛締めている妊婦を、意気揚々と演じ始め、これまたまんまと会社初の産休に入った。

そして週に一度「現状報告」として電話で自慢話を撒き散らすのを楽しみにしていた。

もちろん組合の規定通りの「出産補助金」を手にしたのは言うまでもない。

今は復職しているらしいが、これほど計算高く不気味で恐ろしい人を私達は知らない。

あ~恐るべし化粧水の人生設計・・・。

今後の展開も「怖いもの見たさ」である。

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化粧水vs姉さん

まんまとM氏を陥れた化粧水は、結婚のお知らせハガキをセピア色にしてみたりしてすっかり「新妻」の地位を満喫しているようだった。

ストーリーが展開する前に、新たな登場人物について説明する必要がある。

「姉さん」は大坂支店勤務で、会社でもかなり古株の嫌われ者だった。

関西にいる上、根っからの怠け者のようで滅多に電話にも出ない、仕事上の約束も守らない、自分がやりたいと言い出した仕事を、もっともらしい理由をつけて途中で放り出し新しい仕事をしたがる、年の割りにイケイケな格好をする・・など噂好き女性陣の憎まれ役になっていた事は当然だった。

ところが勤務年数と年齢で簡単に決まる年俸は、前年度より下がらないという、ありがたく時代錯誤な会社の決まりでおかげで、かなりの高給をもらっていると専らの噂で、それが女性陣の怒りに火を点け、更に嫌われるという構図だった。

このテの女は必ずと言っていいほど男好きと決まっていて、彼女が売り物にしている「華奢」が、女性の最大のチャームポイントだと思っている男にはモテる。

化粧水の罠にはまったM氏は、当時大坂に大きなプロジェクトを抱えてて元々関西出身の彼は、出張の度に姉さんと食事をしてたらしい。

まぁこの先はお決まりのパターンだが、離婚の慰謝料に受け取ったという、かなり豪奢なマンションに1人暮らしをする姉さんが、M氏を手玉に取るのに時間は掛からなかった。

私は姉さんと喋る唯一の女性社員だったのだが、以下この「事件」について直接聞いた話である。

ある土曜日、姉さんは友達と飲みに行き11頃には帰宅し早寝をした。3時頃電話が鳴ったのでビックリして取った途端、怒りまくった化粧水が「このドロボー猫!」とか「いるんでしょ?出しなさいよ!」などなど、最近は2時間サスペンスでも聞かれなくなったような台詞を立て続けにまくし立て、姉さんが相手にしないと何度でも掛かってきた、あの人のあのヒステリーは只事じゃないと大笑いし、全くの濡れ衣が迷惑という素振である。

化粧水に負けず劣らず男好きで図太い神経の持ち主の姉さんが、M氏と何事もなかったとは全く信じられない話だ。

1人も味方のいない姉さんも可哀想だが、超円満夫婦を装っている化粧水は、その内実を誰にも言える筈もなく、幸せな妻を演じ続け、益々顔色が悪くなり不幸が張り付いたような暗さは、益々濃くなっていったのだった。

これは不幸のエピローグに過ぎないのだが、続きは次回・・・。

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化粧水の恋愛模様

何とも不気味な「化粧水」には、驚くべき事には家族がいたりする。

彼女が最初に配属になった技術系部署は、その当時、現在の社長「女王様」が仕切っていてどういうわけだか何かと「化粧水」に目を掛けていたらしい。

こと恋愛においては化粧水もかなり腹黒だが、女王様はその上を行く、と言うか化粧水如きが逆立ちしても太刀打ちできる相手ではない。

つい最近まで永らくトップコンサルだったS氏(もちろん妻帯者)と同棲していたが気になる男には全て手を出すマメぶりは健在だし、重要取引先のキーマンには安ホステスのような目線と態度で接するのだった。

当時営業部にはS氏の「いとこ」M氏がいて、S氏と女王様は、2人の側にいるM氏と化粧水を引き合わせて結婚させようという、冗談にしては怖すぎるプロジェクトに夢中になった。

M氏は椎名桔平をちょっと小柄にしたタイプで、性格は曲がった事が大嫌いな、一本気で体育会系、そして優しい気遣いの出来る人だったが、何を間違ったか化粧水と付き合ってしまいその経緯を考えれば、それは当然「結婚を前提とした」ものだったからマズかった。

M氏は優しい性格から、既に社内で交際が口の端に上っているので別れるのは化粧水に可哀想だと思っているらしかったが、これこそ化粧水の思うツボで、割とイイ男で優しいM氏を計算高い化粧水が手放すわけもなかった。

「私のために無理をしないで」的な言動が、M氏をがんじがらめにするのを充分過ぎるほど見抜いていた化粧水は、本当にそう信じているように耐える女を演じ切り、遂に結婚と言う第一の関門を乗り切った。

さてさて、ここからが化粧水の本領発揮なのだが、この先は次回のお楽しみ☆ ふ~・・・M氏に幸多かれ・・・

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化粧水

パン!パンッ!パン!パンッ!パン!パンッ!パン!パンッ!それは毎日13時過ぎ頃になると必ず聞こえてくる、かなり早いペースの奇妙な音だった。

何だろう・・・?と思う間もなく、その発生源に遭遇したのだが、それが女子トイレから聞こえる、化粧水をつける音だったから驚いた。

音の主は、九州出身だからと言うわけではないと思うが、色黒でお世辞にも肌がキレイとは言えなかった。

にも拘わらず、本人はかなり若いと勝手に納得しているようだったがどう見ても実年齢より上に見えてしまう肌の持ち主だった。

一般に肌が白くキレイなだけで、外見が若く見えるものだが、彼女の肌には「艶」というものが全く無く、ガサガサしてるのが生活を表しているようで哀れだった。

この「化粧水」、社内では何故だか優しくていい人と思われてるらしいが、実は会社一の腹黒女で、人の噂に探りを入れてそれを流布するのが大好き、お互いの上司同士の引き合わせで社内恋愛で結婚したのが自慢なのに、立派に不倫もしてたというツワモノであった。

どうしても彼女の外見的なチャームポイントを探すとなると、かなりこじ付けではあるがパッチリおめめという事に落ち着きそうだが、この目が人に探りを入れるときの輝きほど不気味なものは無かったし、どんな時でも決して目だけは笑わないのが常だった。

そんな彼女は「私ってバイリンガルだし可愛いし仕事も出来るけど、結婚もしててみんなの人者・・・」と、あるとあらゆる美辞麗句を自分に当てはめているようだった。

以前登場した「おぼん」くらい見え見えならまた可愛げもあるが、彼女は「私なんて・・・」と常に控えめを装い、影ではとんでもない事を仕出かしながら周囲の殆どの人がそれに気付かないように行動するという、何とも小憎らしい女だった。

とにかく、少なくても私達は、彼女と目が合うだけで背筋に冷たいものを感じるという、何とも言えない恐怖を彼女に見出していた。

だがそれに気付いてる人は稀なのが尚更「化け物」的なおどろおどろしさを彼女に加えていると考えざるを得なかったのは彼女の「いい人ぶり」をいつも見せられていた私達には自然の成り行きだった。

こんな「化粧水」の結婚生活や、唯一笑えるところについてのエピソードはまたのお楽しみ☆

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露出狂vsドーム女

いかにも安っぽい、田舎者の代名詞のような「露出狂」がコンサルの一員として外出するようになって暫くした頃、彼女がかなりの男好きだという噂が立ち始めた。

なんでも朝、重役出勤すると、それに対するお詫びや言い訳は全くない代わりに 「昨日飲んで帰ったんだけど、朝起きたら知らない男が隣に寝てたのぉ」とニコニコ話すのが通例となっているそうなのだ。

当然、最初は周囲の男性陣も面白がっていたが、うんざりするのは時間の問題だった。 どうやら彼女は、自分が美人だからモテる、大人のイイ女は火遊びの1つや2つ・・・というまったく意味不明な解釈をしている自分に酔っている様子である。

その彼女も男性陣に相手にされなくなると、何としても自慢するターゲットを見つけるのに真剣になった。

そして「同じ穴のむじな」のドーム女に目をつけるのに時間は掛からなかった。

前にも言ったが、ドーム女は自分のファンを集めたら東京ドームが埋まるとか、電話1本で男が50人集まるとか、露出狂に負けずとも劣らない根拠のない自信を持ったバカ女だった。

まずい事にこの2人、同じコンサル部に属していて席も近く、話す機会も多い、しかも吸ってる煙草まで同じ、そして「私の方が上」とお互いが相手を見下しているのも同じだった。

面白い事に、煙草を吸いたくなる時間帯と言うのがあるのか、喫煙室という場所は無人かたくさんの人が集まっているか、どちらかの事が多い。

当然この2人もかち合うことが良くあったのだが、お互い周囲の人を、自分の男話自慢に巻き込もうと必死である。

先ず先輩であるドーム女が、ブランドものプレゼント攻勢話や、言い寄ってくる男が全員医者か弁護士だと言う、全く信憑性のないセレブ自慢をニコリともせず話し出す。

まるでそんな事はどうでもいいの・・・誰か私を心の底から愛して欲しいの・・・と言うような風情を装ってはいるが、昔はお手伝いさんを数人使い、お兄さんは某私立お坊ちゃん学校に幼稚舎から通っていたという経歴もさり気なく披露する彼女はお金持ちに強烈な憧れを持っているのが丸分かりで、哀れだ。

負けじと露出狂が、飲みに行った時知り合った男は○○会社の社長だとか、マンションをいくつ持ってるだとか、田舎者が泣いて喜びそうな話題でみんなをもてなし、ここでも安っぽく品の無さをアピールする。

挙句の果てには、その男が朝まで餌食になったという、全く想像したくない秘話まで、悪気のまったく無いニコニコ顔で話すのが常だった。

こうして広くもない喫煙室は穏やかながら修羅場と化し、一休みしようと集まった喫煙者達は、目を上げず、2分くらいで、もくもくと煙草を吸い終えるや否や、そそくさと自席に戻る以外、この妙な自慢大会から逃げ出すテはなかった。

そしてギャラリーがいなくては話しても面白くないのか、2人以外いなくなった喫煙室ではさっきまでみんなが望んだ静寂の時を迎えるという、何とも皮肉な結果となるのであった。。。

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露出狂の仕事style

世の中にはいろいろな種類の女性がいて、それが男性の生きがいの1つになっていることは確かだか、中にはまったく迷惑な勘違い女もいるものである。

彼女は社内最年少25才。

誠に勝手な話だが、海外留学経験を持つバイリンガルで実家は沢山の不動産を所有するお金持ちという触れ込みを聞けば、いやでもみんなの期待を集めるだけでなく、お嬢様のイメージを持つのも当然だった。

ところが入社した彼女は、見た目はいかにも運動不足でぷよぷよ、お金持ちとは思えないこれでもかっ!という安っぽい服の数々、そして飽くまでも下品な行動・・・。

全然悪い子じゃないので、何とかいいところを探そうと頑張れば頑張るだけ、私たちも疲れてしまうという悪循環なタイプだった。

彼女が徐々に仕事に慣れてきて、誰かについてコンサルとして外出するようになったある日。

誰もがそのミーティングはとても大事なものと理解していたその日、出社してきた彼女を見て仰天しない人はいなかった。

彼女はその姿が、その重大なミーティングに有利に働くと信じているらしかったが、誰がどう見ても仕事には全く相応しくない、露出狂的な姿だった。

胸元がぱっくり開いて、あまりありがたくない彼女の胸が丸見えな仕組みのペラペラのブラウスは困った事に身体にフィットするタイプ、決して細いとは言えない立派な足がゴロゴロ出る丈のスカート、彼女の体型にはまるでそぐわないピンヒール、そしてバッグは布製で肩から掛ける大振りなものである。

その姿で意気揚々と出社しミーティング前の打ち合わせをしている彼女は、また何か勘違いしているようで、大袈裟に足を組み、眉間にシワを寄せて何か語っていた。

そして「行き詰った」という良く分からない理由で喫煙室に行き、さも会社の運命を背負って立ってるという憂いを含んだ瞳を遠くに泳がせ、Salemを吹かすのが常であった。

その後も、その安っぽい雰囲気は延々と続いた。

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おっかさんVSケチ男

家族の為に、ケチケチな毎日を送っている営業部長ケチ男だが彼の名誉のために言っておくと、彼は都心の一等地に土地や賃貸ビルを持っていて、大抵の人より金持ちである。

でも彼の心の拠り所である家族旅行や家族での食事は、健保で取れる格安のホテルやレストランonly、しかもホテルに至っては他の人が当たるとダメ元で「譲ってくれない?」とニコニコ聞きただすのが常である。

ある時、ケチ男とおっかさんという2大ケチケチ人間に小さな諍いが起きた。

お年賀で使う有名おせんべい屋さんがオフィスの真ん前にあるのだが沢山買ったので、何缶かもらえるチケットのおまけが付いたらしい。

そのテのものは総務であるおっかさんの管轄なのだが、実は彼女も転属したばかりで、そのチケットが引き出しに入っているのを見逃していた上に有効期限はとっくに過ぎていた。

その事を私に話してたおっかさんの言葉を、たまたま通り掛ったケチ男が小耳に挟んだので大変だった。

彼は2ヶ月も前に切れた有効期限など歯牙にもかけず「半分でもくれと掛け合ってくる」と、年収1500万の営業部長らしからぬ事を口走りおっかさんにチケットを渡せと迫ったのである。

流石のおっかさんもこれには閉口したらしく「そんなみっともない事止めて下さいよ」と、聞きようによっては彼女らしからぬ発言をしたのだがケチ男は何としても引き下がらない。

結局、チケットは捨ててしまったという、何とも陳腐な言い訳で切り抜けたのだが、この言い争いに費やした10分ほど、無駄な時間を私は知らない。

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ケチ男の日常

おっかさんのケチぶりは前述の通りだが、その彼女も舌を巻く「締り屋」がケチ男である。

社内では女王様に次いでNO.2の地位を誇り、まぁまぁやり手の営業部長、しかも噂によればその年収は1500万は下らないと言う。

外資系IT企業の営業部長である彼は、恐ろしくアナログなこだわりを持っていて、とんでもない悪字でありながら手書きが好きらしく彼のアシスタントも兼ねていたKは、その字がびっしり綴られたメモを入力しなければならない羽目に陥ったものである。

しかしどんなに考えて入力しても、必ず添削される誤入力があるのは彼の字のせいなのだが、その添削するペンがふるっている。

今どき、トンボの赤鉛筆を使うのだ。

それも短くなった2本の赤鉛筆のてっぺんをセロテープでぐるぐる巻きにした代物である。

昔よく見かけた「両側が鉛筆」というヤツだ。

しかも彼の尊敬すべきところは、それが手にすっぽり収まって見えなくなるまで使い切るという節約家ぶりである。

また自分宛に来た手紙の切手から、消印がはみ出ているのを発見するとさも得をした!

という顔をして、大きな手でそーっと切手をはがす様は微笑ましくもあり、情けなくもある光景としかいいようがない。

もちろん再利用しようと言う魂胆だが、大臣並みの環境保護ぶりである。

当然ランチなんていうものは、いい時で会社から2~3m先のほか弁、しかも50才の働き盛り?の彼は、脂っぽいものが大好き。

日々ロースカツやから揚げなど、一目で身体に悪いと思われるものを5分未満で頬張っている。

ちなみに彼の自慢の1つは「奥さんが栄養士」というものなので、だったら奥様にお弁当を作って頂いたら如何ですか?と進言した私に、彼は憂いを帯びた目で「子供たちの分は好きだから作るけど・・・って言うんだ」と洩らしたものである。

そんな扱いをされても家族の為にケチケチしている彼を、一瞬だけ可哀想だと思った。

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おっかさん送別会に行く

おっかさんの自慢の一つに「送別会を欠席した事がない」という素晴らしいものがある。

しかしケチなおっかさんは、ある日の送別会で途中退席するからと、会費を払わないという暴挙に出た。

何でも駅から自宅までのバスが早く終ってしまうのが理由らしいが、「ちょっと顔出して食べずに帰るから」というexcuseを振りかざし、一番乗りで会場に姿を見せた。

しかし、どうだろう!彼女はちゃっかりメイン近くの席に陣取り、さっさと先付けからパクついてるではないか!!

しかも自分は人数に入っていないのに、おしぼりが足りないだの、座布団が少ないだの、もう一膳箸をよこせだの、お店の人に交渉し始めた。 幹事の私はじめ、事情を知ってる者は、ただアングリである。

少し様子を観察していると、バスの話は無かったかのように、来る料理を全て平らげ「○○さんのが足りなかったから、私のを分けてあげた」という優しさまで見せ始めた。

誠にもって、恐れ入った度胸である。

周囲の人達も流石にムッとしたようで「会費集金してきなよ」と私に耳打ちし始めた。

だが、近くの席の人達といかにも楽しそうに談笑しながらタダ喰いを繰り返す彼女に話しかけるスキは、微塵も無い。

そうこうしているうちに、段々お開きの時間が近付いてきて焦る私を尻目に、彼女は何を思ったのか私の席にやってきて、さも細かいところに気付く女性を気取り「私も会費払おうか?」と言い出した。

まったく驚くべき大胆振りである。

そうして終バスがなくなってしまう筈の彼女は、間違っても彼女の分ではない料理を片っ端から食べ、飲み放題に入っていない別料金のお酒を注文し(もちろんこの代金はみんなから集金した中から支払われる・・・)、送別される人の胴上げまでちゃんと見て楽々と帰ったものである。

次の日、何事もなかったかのようにお菓子を溜め込むおっかさんに、誰も終バスに間に合ったか聞ける人はいなかったのは当然であった。

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おっかさんの晩御飯

カビ付きお菓子で会社の人々に恐怖を与え続けるおっかさんは一応主婦なので、週末には夕飯を作るらしいのだが、これも当然の仕儀らしい!

メインが魚の時は、彼女と結婚した事で周囲から「勇気ある男性Best 10 of the worldに入る」と陰口をたたかれているご主人が「今日は魚が安い日だね」と言うらしい。

彼女の答が振るっていて「そう、100円だったの」・・・ 家計を預かるおっかさんは「切り身は100円以下じゃないと食べないの~」と自慢げに会社の人々に言い放つのが常である。

余談だか、ケチな人の常かもしれないが、彼女は会社のお金は平気で使う。

総務部に所属するおっかさんは、切手を買っておくのも仕事のうちだが、ここでも彼女は一流の気遣いを見せ、メルモちゃんやドラエもん、ガッチャマンなどの可愛い記念切手を買い込み、自慢気に女性社員に見せびらかす。

理由も振るっていて「こういう切手だとお客様の目に止まりやすいから請求書を必ず開いてくれるでしょ」・・・・ 見れば柄もさることながら、形も丸や星などで、とてもじゃないが社用で使える代物ではない。 まったくありがた迷惑としかいいようのないおっかさんの、勘違いまっしぐらな気遣いに関係者はただ黙って頷くしかないのである。

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おっかさんのおやつ

おっかさん・・・何と言う暖かい響きだろう。

子供の事を常に考え、優しく慈愛に満ち、ふくよかな女性。こんなイメージ・・・ ところがこの会社の「おっかさん」は、ただの迷惑なおばちゃんだった。

おばちゃんらしく、彼女は会社の裏事情に明るく、そのための情報収集が主な業務かと思えるほど社内営業に忙しいので、当然居て欲しい時に席にいたためしはない。

ちょっとした話を小耳に挟むと、相手の迷惑は全く関知せず詳細を聞くまで、そばを離れない徹底振りである。 そんな「おっかさん」が席にいる数少ないチャンスが、おやつタイムだ。

3段ある彼女のデスクの引き出しの2段目は、お菓子の引き出し。

これ以上ムリというほど詰め込まれていて、ここに入らない、比較的新しいものがデスク上に放置される事となる。そしてちょっとしたお礼に彼女はこの宝物を、古い順に活用する。普通、特に女性はお菓子をもらうと嬉しいものだが、おっかさんの手から渡されるお菓子は、まったく迷惑極まりない。

なぜなら大抵は青カビのおまけつき、状態が良くても期限切れという、世界遺産並みの古さなのだ。

別に彼女は「古物商」でも何でもなく、単に軒並み外れた「ケチ」なのだ。

そして、そのありがた~いお菓子をもらった、選ばれた人々の災難はまだ続く・・・そう、おっかさんはそのお菓子の感想を求めるという念の入りようなのだ。

この彼女が下を巻くケチケチおやじが社内にいるのだが、このお話は後々のお・た・の・し・み

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彼の演出

営業やコンサルなどと言う職業の人は、大抵会社にいないものである。

シニアコンサルという肩書きの彼も毎日忙しそうに、身体に似合わないほど大きな重いカバンを持って出かけていく。

その後姿は「コンサルはやりがいがあるけど忙しいぜ~。

やっぱりオレが出て行かないとダメだな」と言わんばかりな自信に満ち溢れている。

その日は誰でも知ってる超大手ビールメーカーでのプレゼンが、その後の仕事の行方を決めるような大事な日だったので、いつもにも増して彼は自信たっぷり。

まぁ彼のプレゼンの評価は高いので大丈夫だろうなぁ・・・とみんなは彼を送り出した。

仕事が終わりメーカーから出た彼は、弾んだ声で電話してきて成果を報告。

会社としては喜ばしい事なので、何となくみんな彼の帰りを心待ちにしていた。 夕方。

彼が帰ってきてみんな固唾を呑んで彼の第一声を待った。

自分のプレゼンが会社に多大な利益をもたらす事になりそうだし、そんな自分をみんなは敬うような、憧れのような視線で待っている・・・。

でも彼は考えた。

帰った途端に、さも嬉しそうにはしゃぐと、自分の価値が下がりそうだ・・・。

そうだ!あ~その事??そんなに大騒ぎするほどでもないよ・・くらいのスタンスでいこう!

そして大きな窓に面した自分の席に向かう彼は「西陽が眩しいぜ~」と言いながら例の重いバッグをデスクに置きながら、大きく伸びをした。

小柄な彼が西陽に向かって伸びをしている様は、まったくもって笑える光景で彼が練りに練った演出は、、彼の功績よりも面白さを際立たせる結末となった。

実は彼はとってもイイ&本人は全く気付いてないが感覚的に面白い。

小柄なのに女性と話す時は、壁に手を掛けて身体をナナメにしてみたり、外人をみかけると急にカタカナ用語満載の会話になったり、パープルのYシャツにソフトスーツという今時珍しいバブリーな服装をしたり、タバコに火を点ける時も小首を傾げて足を交差させる徹底振りである。

周囲はどうあれ常に彼的な「カッコ良さ」を、涙ぐましい努力で追求するタイプなのだ。

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着ぐるみったら・・・

彼は胸を張って言う 「僕は眠り病なんです」と・・・。

それは彼が入社してすぐ始まった。かなり高い学歴とスキルを保有する彼は、鳴り物入りで入社してきた。

そしてそれは、会社の人々から一目置かれる筈だったが彼が注目を集めたのは皮肉にも高学歴や素晴らしいスキルではなくその席から聞こえる「いびき」だった。

自称眠り病の彼は、出社すると「今のうちに決めておかなきゃ」とでも思うのか始業10分後くらいには、本人だけが一方的に仲良しと勘違いしてる近くの席のIさんに「今日のランチは何にする?」と真剣な目線で訊くのが日課だった。

不思議だなぁ・・・と思う間もなく密やかに響き始める、いびき。

しかも本気で寝てる証拠には、顔はピンク色に上気し、うっすら寝汗さえ浮かべている。

何とも優雅な朝の風物詩である。

サラリーマンにあるまじき行動だなぁ・・・と感心してると、コツコツと社長の靴音。

するとどうだろう・・・今迄夢の中に居たはずの「着ぐるみ」がさも今迄熱心に仕事に集中してたかのようにIさんに近付き「さっきの件だけど・・」と一瞬で仕事モードに切り替わる。

まさにサラリーマンの鏡である。

しかし、流石に周囲の目を誤魔化すのにも限界があり彼の席から、いびきは消えた。

最近よく席を外してるなぁ~と気付いた頃には、男性陣の何人かの口の端に彼の新しい噂が昇っていた。

なんと彼は、トイレの個室という、新しい指定席を確保し「眠り病」と闘っていたらしいのだ!!トイレに入った途端に、かなり大きないびきが聞こえるというのも何とも暢気な会社のひとコマである。

そして彼の企業人としての1日は5時半きっかりに終わり、その後は眠り病も良くなるのか夜の巷へと消えていく・・・次の朝もまた例の日課が繰り返され、楽しいランチが終るとトイレの個室が病室になる仕掛けなのであった。

ちなみに彼の「着ぐるみ」というあだ名は、当然その体型からきているのだがその原因は、毎晩食べる宅配ピザのおかげ・・・。

彼は何軒かの宅配ピザ屋さんの特徴を女性社員に声高に、しかも自慢げに説明し「今度ピザでも一緒にどう?」と訳の分からない誘い文句を、着ぐるみのお気に入りの女性にかなり本気で言っていたらしいが、彼女は影で「あんな後にファスナーのついてそうな人、イヤよ」と大笑いしていた。

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ドーム女登場!!

ある日の喫煙所での事・・・。

ドーム女「このタバコケース(FENDI)、誰にもらったんだっけなぁ?!」

A子「ふぅ~ん。それってもらい物なんだぁ~?!彼氏からのプレゼントじゃないの?」

ドーム女「違うのぉ。私が欲しいって言ったら、周りの男達がすぐに買ってきてちゃうから同じのがいくつもあるのぉ。」

A子「そ・そうなんだ・・・。」

ドーム女「そうそう!お風呂の電気が切れちゃったんだけど、誰に来てもらおうかなぁ。」

A子「そのタバコケース買ってくれら人に来てもらえば?!」

ドーム女「私がちょっと電話すると50人くらい男が集まっちゃうんだぁ」

A子「ドーム女ってすごいねぇ!そんなに、周りに助けてくれる男がいるんだぁ?!」

ドーム女「私のファンを集めたら、東京ドームがうまるんじゃないかなぁ??」

その場にいた、女はもちろん、男まで苦笑。そうですか・・・・。東京ドームがうまるんですか。

じゃぁ、今すぐにでも、うめてください。本当にその男達は、あなたのファンなんですか?
可愛げのない勘違い・・・というより性悪女である。

後日、部内の日帰り旅行の時に、ドーム女は1泊2日用のヴィトンのカバンを持ってきた。

A子「ドーム女、そのカバン高いんでしょう?!それも買ってもらったの?」

ドーム女「値段知らないんだけど2つ持ってるの~。私が、欲しいって言ったら、2人が買ってきてくれちゃってぇ。ふぅ~ん。。これって高いんだぁ・・・ブランドものの事は分からないなぁ・・・。ちょっと私が何かすると、周りの男がいろんな物買ってくれちゃうからねぇ。え??みんなは違うの?」

A子「・・・」

えっ?!ドーム女は、そんなに可愛いのかって?!それは、後のエピソードまで、ひ・み・つ。。。

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じーじとおぼん

登場人物でも紹介したが、じーじとおぼんは勘違いぶりのカテゴリーが同じ「似たもの同士」である。

おぼんは、世の中の男全員が自分を見ている、みんな私を狙ってるのね・・と思っている女である。

かつて、じーじとおぼんは付き合っていた。。。

おぼんは、会社でじーじと親しく話している女を視界に捉えると、カツカツとハイヒールを鳴らして近付き、難しい専門用語や横文字を駆使し仕事の話を始める。

そう、彼女は自分は仕事も完璧にこなす「ウルトラウーマン」だとも、勘違いしているのだ。

そして、じーじと話した女に対して、ひどく冷たい、レベルの低いイジワルをするのである。

よくありがちな、女のみにくい嫉妬だが、なんとおぼんは本気で妻帯者のじーじに惚れているのだ。

2人は誰にも気付かれていないと思っていたが、みんなは2人の奇妙なベタベタ感を、敏感に感じ取っていた。

朝も夜も「時間差攻撃」で出社・退社を繰り返す2人を、ある日、会社の物好きが尾行したら道玄坂の円山町界隈で見失ったらしい。

またある朝、いつも通りの「時間差出勤」で、じーじがおぼんより少しだけ前に登場しコートをハンガーに掛けた。

直後に出社したおぼんは、いそいそとコートのほこりを取ったり綺麗に整え、まるで新妻のような有様である。

誰が、どう見ても付き合っている事があからさまの行動をしでかしながら、誰にもバレていないと根拠の無い自信を持っている2人なのである。

ハイヒールとタイトスカートで「出来る女」を気取っているおぼんは、誰よりも【女の子ちゃん】な性格なのである。

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じーじ本屋での出来事

じーじは、とにかく女好き・・・というより、周囲に居る女みんなが自分を見てると勘違いしている男である。

ある日曜日の午後じーじは、常にそうであるようにその事を意識しながら本屋で立ち読みをしいた。

すると本棚の隙間から同じく立ち読みをしていた知らない女の、ねばっこい視線を感じたのでお茶したと会社で自慢していたそうな。

真偽を確かめるべくさリサーチしたところ、じーじは「見知らぬ女に見つめられてたので、女に対する礼儀で『お茶でもいかがですか?!』と誘った」と、いつもの事さ・・・それが何?とでも言うような顔で言ったらしい。

本当に、お茶したらしいのだが、本屋での見知らぬ女性は、本当にじーじを見ていたのだろうか?未だに謎である。

そして何よりも、背が高いだけが取柄の、マンガのキャラクターに似ているじーじの、あの自信は、いったいどこから来るのか、まったく謎である。

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女王様 on the train

とにかく男好き!!事業部長の地位を利用して、好みの男を次々と自分と同じ仕事につける(出張付き)。

ある日のこと、新人の歓迎会に向かう電車の中。

まったく混んでいない東西線でつり革にもつかまらず、ほんのちょっと揺れただけで、「キャーァッ!」と叫び、じーじにしがみついた。

女王様の奴隷であるじーじは、「あぶないから、つかまって下さい」と言いながら腕を出した。

まったく感心するくらいのフェミニストぶりである。

歓迎会の席は、当然じーじの真ん前。

事業部長なので女王様中心の勝手気ままな「女の子トーク」炸裂。

女王様「今度の土日、スキーに連れてってぇ~♪絶対よ」(・・と小首を傾げてのお誘い発言)じーじ「じゃぁ、皆で行きましょう!」(・・・と相変わらずの奴隷発言)こんな感じで延々と好みの男(この場では、じーじ)を誘う女王様と、奴隷であるじーじのやり取りが続くのを、周囲の社員はただ黙って聞いているという不思議な光景が繰り広げられるのだ。

しばらくすると、仕事の忙しい女王様は「じゃぁ、私は仕事があるので、これで!」と急に仕事の出来る女っぷりを発揮している自分に酔いながら、新幹線で出張先に向かったのである。

やれやれ(^_~;)要するに、『私は仕事も出来るのに、仕事を離れるとこんなに可愛い1人の女なの』というアピールと自己満足の上に成り立ってる、女王様の人生なのだ。

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