じーじのカミングアウト
自分を仕事が出来るから高給取り、おまけにカッコイイから女が放っておかないんだなぁ・・・そう言えばこの間も本屋で俺をじっと見つめてた女がいたな・・・などと本気で勘違いしてる幸せ者のじーじは、でも決して悪い人でも何でもなくむしろかなりイイやつだった。
ただ、仕事中に発揮される勘違いぶりと、頭の回転も含めた、信じられないくらい遅い行動には辟易するのが常だったがとにかく悪人でない事だけは確かだった。
============================================
↓バナーをクリックしてね。クリックしてくれたら、明日も面白いネタが書けそうです。面白いブログがたくさんあります↓
============================================
そんな彼は何故だか年収1500万との噂があり、それは仕事に見合わない高給取りが多くを占めるA社の中でも、特筆すべき金額だった。
おまけに彼にはギャンブルの才能だけはあるらしく、大学生の頃からハマってるあるギャンブルで儲けたお金が2000万円あるそうで、典型的な小金持ちだった。
もっともその2000万円はそのギャンブルの元手用に決して手を付けないという意外と堅実な面も持ち合わせている彼は、その誇りの高さから自分が他の人より少しリッチだと理解していたので、仕事で私達のお世話になったり、ちょっとしたグルメ話のついでに、食事に行こうと言う成り行きになる事も珍しくなかった。
え~っと言いながらも、私達が行きたいお店に連れて行ってくれる彼は、ボーナス後なのをいい事に1人10000円以上するコースがいいなーと私達が言った時も「高いなぁ」とボヤきながら、予約しておいて・・・と、あっさり了解するのだった。
これには私達も笑ってしまった。
何しろいくらお世話をしてても所詮会社の人なので、そんな無謀が通るはずはないと思っていたし、当然じーじが断るものだと思い、もう少しランクを下げた第二候補を用意してあったのだ。
でも、流行り物が大好きなじーじの事、雑誌などに載っているニューオープンには並々ならぬ興味があり、私達と一緒という事や、お金が掛かるのは二の次で「そのお店で食事をする」事が重要らしかったので、どちらかと言えば私達も気楽だった。
でもいくら2人だけで行くわけではないとは言え、そう頻繁に高い食事をご馳走になっていては、流石の私達も多少は後ろめたい気持ちを感じるのも当然で、ある時「今度は私達がご馳走するよ」と提案してみた。
「えぇぇぇぇ~珍しいじゃん」とニコニコしながら嬉しそうにしている彼に「でも分相応のものね」と、私達が良く行く銀座の1000円ディナー屋さんである事を伝えるのを忘れなかったが、それでも彼は楽しそうなのだった。
いよいよ私達がご馳走する日、心なしかじーじはゴキゲンで、今日は午後から外出してそのまま銀座に向かうけど、何時頃仕事が終りそうだとか、待ち合わせの場所についての詳細などを何度も言ってくるほどだったが、私達は内心、そんなに期待されても・・・と閉口した。
何しろ安くて美味しくボリュームがある大人気のお店だが、所詮洋食屋さんである。
お店も木のテーブルに赤と白のチェックのテーブルクロスが掛けてあり、食事もチキングリルやオムライス、ハンバーグなど、どれも美味しいながらB級グルメである事は明らかだった。
それでも派遣社員の私達が、唯一ご馳走することになるという事実を何となく感じ取っているのか、外出先から嬉しそうに電話をしてきて、ともかくお互い銀座に向かった。
待合わせは誰でも分かるソにービル前でして、早速お店を目指したのだが、観察しているといつもは牛のように歩くのも遅いじーじの足取りが、今日は少し速いような気がしたので「お腹空いてるの?」と、つい訊いてしまったが、言いながら私達は理由は分からないがじーじがとっても楽しいのだという事を感じていた。
ものの5分も歩けば小さな古びた入口のお店に到着したが、あまりにもいつも連れてってくれてるお店と様子が違うので私達は、流石に彼が落胆するかも・・・と、恐る恐る「ここだよ」と指差すと、満足気にお店を見上げドアを開けて入っていった。
お店は1FとB1Fだが、B1はどういう事になっているのかテーブルの上に付いているランプのコードが繋がっている壁のようなものが頭上に立ちはだかり、女性でも立ち上がる時にぶつかるほど低いのだった。
もちろん180cm以上もあるじーじには危険な天井だが彼は何事もなかったかのようにすんなり座り、楽しそうにメニューを眺めだした。
「ビールも飲んで~」などと言いながら、このお店のソフトドリンクはイマイチなので、私達は水でOKという、ちょっぴりセコい決断をし、どうにかこうにかオーダーが完了した。
たぶんじーじはこういったお店にあまり来た事がないのか、珍しそうに店内をひとしきり見回し「トイレに行ってくる」とうっかり立ち上がってしまった・・・当然の事ながら例の危険な天井にぶつかり、かなり大きなゴツン!と言う音がしたので私達は目を見張って大丈夫?などと、ありきたりの言葉を口走っていたが、なんとじーじはそれでも楽しそうにニヤニヤしながらいつもの調子でスタスタと階段を上がっていったものだから、全てにおいて呑気な様子に私達は大笑いしてしまった。
食事も終わり、まだ9時前なのでお茶しようという話になったのだが、じーじが「じゃぁお茶は俺がご馳走するかな」などと、いつも勘違いする時そうであるような雰囲気で言い出し「どっか落ち着ける店知ってる?」と訊かれたので「いいとこがあるよ」と言いながら私達はさっさと帝国ホテルに向かった。
B級グルメをご馳走して、その倍もするお茶をおごってもらう事になるのはある意味想定内だったが、それはじーじにとっても同じらしく、しかも帝国ホテルで女性からおねだりされてお茶してるというシチュエーションに酔っているようだった。
洋食屋さんで飲んだ、たった1杯のビールにイイ気分になったわけでもあるまいが、いつもより更にじーじの舌は滑らかで突然「ここ1年は不倫してないなー」などと言い出した時には、何千円もするデザートをパクついていた私達のスプーンが止まった。
じーじと言えば、おぼんとかなり真剣な不倫をしている事を知らない者は社内にいないほど有名だが、ここ数ヶ月、別れたらしい・・という噂がまことしやかに流れていたので、それが真実だと悟った瞬間だった。
そんな事をここでカミングアウトされても・・・と困惑しながらも、そこは百戦錬磨の2人なので「ホントなの~?」「で、不倫と浮気って違うのかなぁ??」とか言いながら、より深く真相を探るのに余念がなかった。
その後もゴキゲンでじーじは自分の恋愛を回想し、楽しそうに次々とカミングアウトしたのだった。
この日私達が2人で支払ったのは4000円弱、そしてじーじは1人で10000円近く払い、挙句の果てにとても社内の人に言うべき事ではない事柄を次々に明かしていたのは、じーじの勘違いと優しさの混ざった性格から来る「誰かに聞いてもらいたい」という気持ちと、帝国ホテルのゆったりした空気のせいかもしれなかったが、帰りの電車で逆方向に乗っちゃったよ~と次の朝聞いた私達はやっぱりこの人って給料貰い過ぎ!!と、またもや大笑いだったのは言うまでもない。
彼もA社の、愛すべき勘違い野郎な事を再確認した夜だった。



最近のコメント