ボンバーねえちゃんはフレンドリー
勘違い集団のA社では、その多くの勘違いが自分への大いなる自信の上に成り立っている。 彼女の入社の話を聞いた時も、その素晴らしい経歴によって、また同じような勘違い女が増えるか・・・とYと私はうんざりしたのだが、出社初日からその考えはちょっと違うのかも・・・??と気付かされた。
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なにしろ彼女の経歴たるや、A社の人が逆立ちしても届かないような素晴らしいものだし、ある意味ではA社の人たちのもっとも苦手とする分野に精通していた。
彼女は先ず語学に堪能だったために、手始めに所謂「産業翻訳」的な業務をしていたが、これがまた早くて美しい翻訳で今迄、自分は語学に堪能・・・と勝手に思い込んでいたA社の人々は、目から鱗だったに違いない。
初登場の彼女については、いくつか披露しておくべき特徴があった。
先ず、その才能や経歴とはうらはらに、服装が変わっていた・・・というか、毎日ほぼ同じだった。
間違っても痩せているとは言えない彼女は、どうやらカジュアル志向らしくTシャツにパンツが定番で、そのTシャツは90%くらいが白の無地と決まっていたが、そのサイズが合ってるのか合ってないのか、実に奇妙なのだった。
小さくないのは、Tシャツに全くと言っていいほどシワがない事を見れば明らかだが、大きいかと言うとそんなに余裕があるとも思えない。
髪はセンター分けのボブで色つきフレームの細いメガネの丸顔の下にそのTシャツがあるのは、何とも不釣合いでつい目で追ってしまうのだが、西陽などは彼女を影で「ボンバーねえちゃん」などと呼んでいた。
そんな彼女はかなりのヘビースモーカーだった。
A社では社内に喫煙室があり、喫煙者はそれぞれ決まった場所にタバコを置いていたがその場所は暗黙のルールで決まっていた。
私は喫煙スペースに割りと近い棚の中段が”指定席”だったが、最近やけにタバコが減るなぁ・・・吸い過ぎかしら?
と感じ始めた矢先、何故だかボンバーが私の苗字に”ちゃん”をつけて親しげに近付きながら「ごめん、さっき1本もらっちゃった」と言いに来た。
部も違うし席も遠い、何よりろくに話した事もない彼女が、どうして私に親近感を抱いてくれたのか分からないがそれ以来彼女は私を「社内の親しい人」の1人にカウントしてるようで、何かにつけて「Sちゃん、ちょっといい??」と言いにくるようになり、時々はアイコンタクトだけで私を喫煙室に誘うのだった。
ある時、彼女がちょっぴり落ち込んだような、心配しているような顔で「ちょっと、いい?」と、いつになく深刻な顔で私のところにやってきたが、いつもの事ながらボンバーはそんな時、私の答を待つような事は一切無く、足早に喫煙室に向かう。
いつもと様子が違うので私も急いで後を追ったら、彼女はタバコに火を点け、考え込むように外を見て黄昏ていたがそれは、思い悩んでいるような、簡単に声を掛けられないような雰囲気だったので私もそっとタバコに火をつけてボンバーの様子を見ながら、彼女の言葉を待っていた。
するとじっと窓の外を見たまま「○○さん・・・大丈夫かな」と、独り言のように呟いた。
私はその言葉の意味が分からなかったので「どうかしたの?」と探りを入れると、「○○さんよ・・離婚したんでしょ?」と、初めて私を振り向いた。
その○○さんはつい最近入社した、ある部の女性部長で、時々私が彼女の仕事を手伝うのだが、もちろん特に親しいなどと言う事はないし、彼女のプライベート事情など全く知らないし興味もない。
ボンバーは私なら詳しい事を知ってるかと思った・・のような事を言いながら、2本目のタバコに火を点け、明らかに○○さんに同情しているようだった。
しかし、新参者の彼女が○○さんと親しいのも妙だと思い「離婚したの?」と聞き直すと「えっ?だって名前変わったじゃない?」と、どうしてそんな事聞くの?というような顔をして「大丈夫かな」と再び呟きながら、まじまじと私をみるのだった。
でも、私は知っていた。
○○さんは元々旧姓で入社してきたのだが、何かの理由で現在の結婚後の姓に変更したのだ。
ちょっと可笑しくなってその事をボンバーに告げると「あぁ~そういう事??心配しちゃった」と、あっけらかんと納得しまたもや足早に喫煙室を出て行った。
彼女はA社の勘違い人間とは明らかに違う人種だったが、やっぱり不思議な人~それもかなり不思議~で、ある意味究極の「勘違い」と言えなくもない証拠には、この後も全く悪意のない、かなり的外れな行動が続くからなのだが、それは次回のお楽しみ。
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