ニッポン!!チャチャチャッ!!
やけに高いスキルを持っているが、他のA社の勘違い社員のようにそれを大袈裟に宣伝する事もなく、ホントに凄いのに本人がそれに気付いてないのか???と心配になるほどスキルに淡白なボンバーは、それでも流石に仕事は早かった。
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相変わらず白無地Tシャツの日々は続いていたが彼女は悪人でも何でもなく、ただ結構変わってる人なのだった。
2002年はサッカーファンだけでなく、全ての日本人がサッカーに注目した年。 何故なら初めて日本でワールドカップが開催されたからだったが、果たしてボンバーは熱狂的なサッカーファンだった。
面白いもので、こう言った世界中が注目しているようなスポーツ競技がある時は、例えば普段サッカーなど見た事も無い人が俄かに「オフサイド」「フリーキック」などのサッカー用語を使い、やけにサッカーに興味を持つ事が多い。
かく言う私も俄かサポーターの1人だったが・・・。
ところがボンバーは、どうやら筋金入りのサポーターらしかった。
時々Jリーグの試合を見に行っていたのは知っていたがもちろんワールドカップは特別で、ベッカムやジダン、フィーゴなどと言う超有名人でない選手についても、その経歴などについて詳細に知っているのだった。
海外で開催される世界レベルのスポーツイベントの殆どは時差の関係で日本では真夜中に行われる事が多くサラリーマンには辛いので、日本開催は嬉しいし待ち望んだものだったが、実際その時になったら困った事に気が付いた。
ワールドカップは1ヶ月かけて決勝戦までを戦うトーナメントなので、当然の事ながら平日の昼間も試合があり、それは開催国でも同じ条件に決まっていた。 開催1ヶ月くらい前になると、それこそ日本中どこでTVをつけても話題はワールドカップ一色となり、いよいよ俄かサポーターが巷にあふれ出したが、A社も例外ではなかった。
Yと私も常日頃サッカーの「サ」の字も言わないが、これだけ世間が騒いでいるとイヤでも気になるもので、かと言って有給を取るほど入れ込んでるわけでもなく、でも見たいなぁ・・・と、実にミーハー的な気持ちでいたのだった。
いよいよ明日は日本の初戦という前日、俄かサポーター達はニュースで仕入れた試合の展望などをかしましく話題にしていたが、何となく社内もやけにザワめき始めた。 それは奥のほうから聞こえてきて、イチ早くこれに気付いたYが自販機で飲み物を買う振りをして様子を探り、私の所に飛んできた。
それによると明日の初戦を、奥の通称「P部屋」で見ていい事になったと言う事だった。
その後、矢継ぎ早に聞こえてくる情報を繋ぎ合わせると、明日の開催時間までにP部屋に大きなスクリーンが設置され、勤務時間中だが無礼講でこの歴史的瞬間を全員が見ていい事になったらしい。
ちなみにP部屋の”本名”はプロジェクト部屋で、その名の通りシステム系緊急プロジェクトの行われる、ある意味もっともA社らしいと言える部屋かもしれなかった。
機密性重視のため、フロアーの一番奥にあり関係者以外殆ど足を踏み入れないその部屋は、その性質から常に使われているわけではなく、ワールドカップ開催に合わせたかのようにこの時期はまんまと空いていた。
こういう、ちょっとみんなが感心を持つ事項になると必ず表舞台に登場するおぼんが、普段はサッカーなど全く興味が無いのにいそいそとP部屋にスクリーンを設置しPCと繋いでテストをしていたが、Yと私の予想ではたったこれだけの事なのに「やっぱり技術系の中心人物は私なのね」と、勝手に納得して満足していると思われた。
2002年6月4日は、朝早くから全てのTV局で試合会場からの中継を流し、新聞も政治も全て日本VSベルギー戦一色だったのは言うまでもないが、社会人たるものそんな事で浮き足立ってはいられないので通常通り出勤し、取り敢えず一服しに行った私は、目が真ん丸くなり、一瞬息が止まったのが自分でも分かった。
そこには、全日本の青いレプリカユニフォームを着てGKのような格好をして意気込んでいるボンバーがいたのだ。
彼女は私を見つけると何事もなかったように朝の挨拶だけすると、真剣に初戦の戦略を練ってでもいるのか、首を傾げたり目を瞑りながら小さく独り言を言い、その間にも足はステップ・・・いや反復横跳びのような動作を繰り返していた。
私はその一挙手一投足が気になって仕方がなかったが、仕事に入るとそんな事は忘れてしまい、あっさりキックオフの時間になった。
電話中だった私をYが呼びに来てP部屋に行くと、全社員が集まっているのではないかと思うほど満員だったのだが、その最前列に陣取っていたのが熱狂的なサッカーファンのボンバーと、何故だかおぼんだった。
ボンバーはユニフォームはもとより、たぶんJリーグの試合会場で売っている全日本応援グッズをたくさん持ってきてスクリーンに向かって大声で叫び、おぼんはおおよそスポーツ観戦らしからぬキリッとしたタイトスカートのわりに、どこから仕入れたのか全日本のメガホン、スポーツ観戦にもっとも相応しいフィンガーフードのポップコーン、会場で良く売っているようなスポーツドリンクなどを沢山持ち込んで、すっかりサッカー慣れした風情で大騒ぎだった。
ボンバーは選手の動きひとつひとつに「あ~っっ!!」とか「遅~い!!」「上がれ~!!」など、まるで関係者の如く声を上げ本物のサポーターの気概??を示していた。
まぁこの時は日本中全員がそんな気分だったので誰一人笑う人もなく、スクリーンに釘付けだったが、その試合が引き分けたので大変だった。
もちろん試合終了後しばらくは、A社内でもその話題がHOTだったが、ボンバーは勝っていた試合なのに追いつかれて引分にされた事がどうしても悔しいらしく、大声で全日本の不甲斐なさを罵り、大層ゴキゲン斜めだった。
でもYと私が何より可笑しかったのは、ボンバーが恒例の白Tではなくツルツルの青いレプリカユニフォームを着ていた事だった。
いくら熱狂的なファンでも、廊下で来客に遭遇するかもしれない会社に、全日本ユニフォームで登場したボンバーに驚きもし、その勇気と熱意に、敬意を払う気分でもあった。
そしてその姿と行動は、全日本の試合が完了するまで続くのだった・・・。
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