女王様の「お・す・き・な・も・の」
究極の男好きである女王様でも、流石に他に好きなものも感心のあるものもあるらしかった。
ある昼休み、Yと私が食後の歯磨きをしていると、いつものように小柄な身体をパンツスーツに包み、うつむき加減で入ってきた。
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当然私達は無意識に一歩下って、歯磨き状態なので 「おふはれはまです(お疲れ様です)」と軽く会釈をしながら言った。
女王様はこれまたいつものように、可哀想なほどやつれた顔に満面の笑みを浮かべながら「お疲れ様っ」と、鏡越しに返してきた。
その笑顔がいつもよりちょっぴり誇らしげな気はしたが、その後特に会話はなく私達は歯磨きを終え軽いお化粧直しをしていた。
すると突然女王様が、また鏡越しに「どうしてそんなに肌がキレイなの?」と話しかけながら近付いてきた。
常日頃、例えば外資のA社では自分のお茶は社長と言えども自分で入れるので、パントリーなどで会った時に多少一般的な会話はするが、お互いあまりプライベートな事まで踏み込む事はないので、この質問にはちょっと驚いたし、A社の勘違い集団と違い私達は特に自分の肌に自信があるわけではないので答えに詰まった。
すると女王様は、まるで自分が何の質問もしていないかのように「私も最近肌の調子がいいのぉ~」と、頬に手を当て鏡に向かって微笑を投げかけながら喋りだした。
ある意味、自己完結型の女王様に驚きはしたものの、こういう展開はA社で珍しくない上に、答えに詰まっていた私達はチャンス到来!とばかりに「何か特別な事をなさってるんですか?」と質問する側に廻る事にしたのだが、果たして女王様は「やっぱりそう思う?」と、脈略のない発言をして一瞬私達をひかせた。
普通の会話の流れと違う形式の会話~それは勿論彼らの大いなる勘違いの上に成り立っているが~は、A社では全くと言っていいほど珍しくないので、すぐ立ち直った私達は、驚きなど微塵も表情に出す事無く「えぇぇ・・」と微笑を返しながら言った。
すると女王様は、やっぱりね・・・と満足した様子で、子供が秘密の基地を教えたいけど勿体ぶってる・・というような、ちょっといたずらっぽい目で「どうしても聞きたい?」と言い出した。
私達にしてみれば、1時間の昼休みはもう終りそうだし、第一そんな事に全く興味がなかったので、一刻も早く席に戻りたいのだがそこはOLの哀しい性で「是非ぃぃ~」と答えていた。
すると女王様は上目遣いに私達を交互に見ながら「実はローヤルゼリーを飲んでるの」と、また頬に手を当てカミングアウトしたのだった。
「さっすがぁ・・セレブは違いますねぇ」などと持ち上げながら、そんな心にもない事を言っている自分達に腹を立てながら、まだ話は続くんだろうなぁ・・・と、ちょっぴりうんざりしながらも次の言葉を待つしかなかった。
「飲んでるだけじゃなくて顔全体に塗ってるし、すごく私に合ってるみたぁい」などと、自己満足に浸っている女王様に、私達から返す言葉はなかったが、その後もその製品とどうして出会い、どのような使用感覚で、どこが気に入っているか・・・などなどまったく私達には無関係な自慢話が暫し続き、ようやく開放されたのはお昼休みを10分オーバーした後だった。
今日も勘違いな人々との仕事に、心身ともに疲れを感じながら2人一緒に帰る道々、高いローヤルゼリーを使っていてもシワっぽくやつれていてカサカサした肌は相変わらずだね~、でも飲んでるだけで美しくなったと勘違いできるんだから高い買い物じゃないかもね・・と、大笑いになったのは言うまでもなかった。
数日後、私は営業部にいらしたお客様からの到来物を配っていた。
それは高級で有名なおせんべい屋さんの、小さなおかきの詰め合わせだったが、女王様が大のおせんべい好きな事を知っていた私は全種類揃っているうちに、うやうやしく女王様の席にその箱を持っていくのを忘れなかった。
果たして女王様は「わーい」と、先ずは可愛い子ぶって「どれにしよっかなぁ」と小首をかしげていたが「1種類しか取っちゃダメ?」と、社長のクセに派遣社員の私に甘える素振りをみせた。
図々しいなぁ・・・1箱しかないのに・・・と、内心呆れながら「どーぞどーぞ」と言っている自分をちょっぴり恥じながら答えたのだが、その後女王様は驚くべき事を言った。
「ここ3日間、忙し過ぎて食べるの忘れてたから3日ぶりに食べ物を口にするわぁ」「・・・・・」戦争中でもあるまいし、現代において、ましてや小さいながら外資系企業の社長である女王様が言うセリフとも思えないが、忙しくてご飯も食べられないというのが、彼女のキャリアでは自慢の一種なんだろうな・・・とその言葉を聞きながら、 「そんな事してるからローヤルゼリーも効果がないのよ」と、洗面台の鏡を自慢げに見つめていた女王様を思い出し、少し可笑しくなるの事実だった。
そう言えば前におせんべいを配った時には「私おぜんべいだーいすき♪だって私の主食はおせんべいと赤ワインだもん」などと自慢だかネタだか分からない事をのたまわってたなぁ・・・と、女王様の小さく、細かいシワの中に埋まったファンデーションを見つめながら、社長であってもこんな哀れに年とりたくないぁ・・・と、つくづく感じるのだった。



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