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2007年7月

女王様の「お・す・き・な・も・の」

究極の男好きである女王様でも、流石に他に好きなものも感心のあるものもあるらしかった。

ある昼休み、Yと私が食後の歯磨きをしていると、いつものように小柄な身体をパンツスーツに包み、うつむき加減で入ってきた。

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当然私達は無意識に一歩下って、歯磨き状態なので 「おふはれはまです(お疲れ様です)」と軽く会釈をしながら言った。

女王様はこれまたいつものように、可哀想なほどやつれた顔に満面の笑みを浮かべながら「お疲れ様っ」と、鏡越しに返してきた。

その笑顔がいつもよりちょっぴり誇らしげな気はしたが、その後特に会話はなく私達は歯磨きを終え軽いお化粧直しをしていた。

すると突然女王様が、また鏡越しに「どうしてそんなに肌がキレイなの?」と話しかけながら近付いてきた。

常日頃、例えば外資のA社では自分のお茶は社長と言えども自分で入れるので、パントリーなどで会った時に多少一般的な会話はするが、お互いあまりプライベートな事まで踏み込む事はないので、この質問にはちょっと驚いたし、A社の勘違い集団と違い私達は特に自分の肌に自信があるわけではないので答えに詰まった。

すると女王様は、まるで自分が何の質問もしていないかのように「私も最近肌の調子がいいのぉ~」と、頬に手を当て鏡に向かって微笑を投げかけながら喋りだした。

ある意味、自己完結型の女王様に驚きはしたものの、こういう展開はA社で珍しくない上に、答えに詰まっていた私達はチャンス到来!とばかりに「何か特別な事をなさってるんですか?」と質問する側に廻る事にしたのだが、果たして女王様は「やっぱりそう思う?」と、脈略のない発言をして一瞬私達をひかせた。

普通の会話の流れと違う形式の会話~それは勿論彼らの大いなる勘違いの上に成り立っているが~は、A社では全くと言っていいほど珍しくないので、すぐ立ち直った私達は、驚きなど微塵も表情に出す事無く「えぇぇ・・」と微笑を返しながら言った。

すると女王様は、やっぱりね・・・と満足した様子で、子供が秘密の基地を教えたいけど勿体ぶってる・・というような、ちょっといたずらっぽい目で「どうしても聞きたい?」と言い出した。

私達にしてみれば、1時間の昼休みはもう終りそうだし、第一そんな事に全く興味がなかったので、一刻も早く席に戻りたいのだがそこはOLの哀しい性で「是非ぃぃ~」と答えていた。

すると女王様は上目遣いに私達を交互に見ながら「実はローヤルゼリーを飲んでるの」と、また頬に手を当てカミングアウトしたのだった。

「さっすがぁ・・セレブは違いますねぇ」などと持ち上げながら、そんな心にもない事を言っている自分達に腹を立てながら、まだ話は続くんだろうなぁ・・・と、ちょっぴりうんざりしながらも次の言葉を待つしかなかった。

「飲んでるだけじゃなくて顔全体に塗ってるし、すごく私に合ってるみたぁい」などと、自己満足に浸っている女王様に、私達から返す言葉はなかったが、その後もその製品とどうして出会い、どのような使用感覚で、どこが気に入っているか・・・などなどまったく私達には無関係な自慢話が暫し続き、ようやく開放されたのはお昼休みを10分オーバーした後だった。

今日も勘違いな人々との仕事に、心身ともに疲れを感じながら2人一緒に帰る道々、高いローヤルゼリーを使っていてもシワっぽくやつれていてカサカサした肌は相変わらずだね~、でも飲んでるだけで美しくなったと勘違いできるんだから高い買い物じゃないかもね・・と、大笑いになったのは言うまでもなかった。

数日後、私は営業部にいらしたお客様からの到来物を配っていた。

それは高級で有名なおせんべい屋さんの、小さなおかきの詰め合わせだったが、女王様が大のおせんべい好きな事を知っていた私は全種類揃っているうちに、うやうやしく女王様の席にその箱を持っていくのを忘れなかった。

果たして女王様は「わーい」と、先ずは可愛い子ぶって「どれにしよっかなぁ」と小首をかしげていたが「1種類しか取っちゃダメ?」と、社長のクセに派遣社員の私に甘える素振りをみせた。

図々しいなぁ・・・1箱しかないのに・・・と、内心呆れながら「どーぞどーぞ」と言っている自分をちょっぴり恥じながら答えたのだが、その後女王様は驚くべき事を言った。

「ここ3日間、忙し過ぎて食べるの忘れてたから3日ぶりに食べ物を口にするわぁ」「・・・・・」戦争中でもあるまいし、現代において、ましてや小さいながら外資系企業の社長である女王様が言うセリフとも思えないが、忙しくてご飯も食べられないというのが、彼女のキャリアでは自慢の一種なんだろうな・・・とその言葉を聞きながら、 「そんな事してるからローヤルゼリーも効果がないのよ」と、洗面台の鏡を自慢げに見つめていた女王様を思い出し、少し可笑しくなるの事実だった。

そう言えば前におせんべいを配った時には「私おぜんべいだーいすき♪だって私の主食はおせんべいと赤ワインだもん」などと自慢だかネタだか分からない事をのたまわってたなぁ・・・と、女王様の小さく、細かいシワの中に埋まったファンデーションを見つめながら、社長であってもこんな哀れに年とりたくないぁ・・・と、つくづく感じるのだった。

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ニッポン!!チャチャチャッ!!

やけに高いスキルを持っているが、他のA社の勘違い社員のようにそれを大袈裟に宣伝する事もなく、ホントに凄いのに本人がそれに気付いてないのか???と心配になるほどスキルに淡白なボンバーは、それでも流石に仕事は早かった。

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相変わらず白無地Tシャツの日々は続いていたが彼女は悪人でも何でもなく、ただ結構変わってる人なのだった。

2002年はサッカーファンだけでなく、全ての日本人がサッカーに注目した年。 何故なら初めて日本でワールドカップが開催されたからだったが、果たしてボンバーは熱狂的なサッカーファンだった。

面白いもので、こう言った世界中が注目しているようなスポーツ競技がある時は、例えば普段サッカーなど見た事も無い人が俄かに「オフサイド」「フリーキック」などのサッカー用語を使い、やけにサッカーに興味を持つ事が多い。

かく言う私も俄かサポーターの1人だったが・・・。

ところがボンバーは、どうやら筋金入りのサポーターらしかった。

時々Jリーグの試合を見に行っていたのは知っていたがもちろんワールドカップは特別で、ベッカムやジダン、フィーゴなどと言う超有名人でない選手についても、その経歴などについて詳細に知っているのだった。

海外で開催される世界レベルのスポーツイベントの殆どは時差の関係で日本では真夜中に行われる事が多くサラリーマンには辛いので、日本開催は嬉しいし待ち望んだものだったが、実際その時になったら困った事に気が付いた。

ワールドカップは1ヶ月かけて決勝戦までを戦うトーナメントなので、当然の事ながら平日の昼間も試合があり、それは開催国でも同じ条件に決まっていた。 開催1ヶ月くらい前になると、それこそ日本中どこでTVをつけても話題はワールドカップ一色となり、いよいよ俄かサポーターが巷にあふれ出したが、A社も例外ではなかった。

Yと私も常日頃サッカーの「サ」の字も言わないが、これだけ世間が騒いでいるとイヤでも気になるもので、かと言って有給を取るほど入れ込んでるわけでもなく、でも見たいなぁ・・・と、実にミーハー的な気持ちでいたのだった。

いよいよ明日は日本の初戦という前日、俄かサポーター達はニュースで仕入れた試合の展望などをかしましく話題にしていたが、何となく社内もやけにザワめき始めた。 それは奥のほうから聞こえてきて、イチ早くこれに気付いたYが自販機で飲み物を買う振りをして様子を探り、私の所に飛んできた。

それによると明日の初戦を、奥の通称「P部屋」で見ていい事になったと言う事だった。

その後、矢継ぎ早に聞こえてくる情報を繋ぎ合わせると、明日の開催時間までにP部屋に大きなスクリーンが設置され、勤務時間中だが無礼講でこの歴史的瞬間を全員が見ていい事になったらしい。

ちなみにP部屋の”本名”はプロジェクト部屋で、その名の通りシステム系緊急プロジェクトの行われる、ある意味もっともA社らしいと言える部屋かもしれなかった。

機密性重視のため、フロアーの一番奥にあり関係者以外殆ど足を踏み入れないその部屋は、その性質から常に使われているわけではなく、ワールドカップ開催に合わせたかのようにこの時期はまんまと空いていた。

こういう、ちょっとみんなが感心を持つ事項になると必ず表舞台に登場するおぼんが、普段はサッカーなど全く興味が無いのにいそいそとP部屋にスクリーンを設置しPCと繋いでテストをしていたが、Yと私の予想ではたったこれだけの事なのに「やっぱり技術系の中心人物は私なのね」と、勝手に納得して満足していると思われた。

2002年6月4日は、朝早くから全てのTV局で試合会場からの中継を流し、新聞も政治も全て日本VSベルギー戦一色だったのは言うまでもないが、社会人たるものそんな事で浮き足立ってはいられないので通常通り出勤し、取り敢えず一服しに行った私は、目が真ん丸くなり、一瞬息が止まったのが自分でも分かった。

そこには、全日本の青いレプリカユニフォームを着てGKのような格好をして意気込んでいるボンバーがいたのだ。

彼女は私を見つけると何事もなかったように朝の挨拶だけすると、真剣に初戦の戦略を練ってでもいるのか、首を傾げたり目を瞑りながら小さく独り言を言い、その間にも足はステップ・・・いや反復横跳びのような動作を繰り返していた。

私はその一挙手一投足が気になって仕方がなかったが、仕事に入るとそんな事は忘れてしまい、あっさりキックオフの時間になった。

電話中だった私をYが呼びに来てP部屋に行くと、全社員が集まっているのではないかと思うほど満員だったのだが、その最前列に陣取っていたのが熱狂的なサッカーファンのボンバーと、何故だかおぼんだった。

ボンバーはユニフォームはもとより、たぶんJリーグの試合会場で売っている全日本応援グッズをたくさん持ってきてスクリーンに向かって大声で叫び、おぼんはおおよそスポーツ観戦らしからぬキリッとしたタイトスカートのわりに、どこから仕入れたのか全日本のメガホン、スポーツ観戦にもっとも相応しいフィンガーフードのポップコーン、会場で良く売っているようなスポーツドリンクなどを沢山持ち込んで、すっかりサッカー慣れした風情で大騒ぎだった。

ボンバーは選手の動きひとつひとつに「あ~っっ!!」とか「遅~い!!」「上がれ~!!」など、まるで関係者の如く声を上げ本物のサポーターの気概??を示していた。

まぁこの時は日本中全員がそんな気分だったので誰一人笑う人もなく、スクリーンに釘付けだったが、その試合が引き分けたので大変だった。

もちろん試合終了後しばらくは、A社内でもその話題がHOTだったが、ボンバーは勝っていた試合なのに追いつかれて引分にされた事がどうしても悔しいらしく、大声で全日本の不甲斐なさを罵り、大層ゴキゲン斜めだった。

でもYと私が何より可笑しかったのは、ボンバーが恒例の白Tではなくツルツルの青いレプリカユニフォームを着ていた事だった。

いくら熱狂的なファンでも、廊下で来客に遭遇するかもしれない会社に、全日本ユニフォームで登場したボンバーに驚きもし、その勇気と熱意に、敬意を払う気分でもあった。

そしてその姿と行動は、全日本の試合が完了するまで続くのだった・・・。

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ボンバーねえちゃんはフレンドリー

勘違い集団のA社では、その多くの勘違いが自分への大いなる自信の上に成り立っている。 彼女の入社の話を聞いた時も、その素晴らしい経歴によって、また同じような勘違い女が増えるか・・・とYと私はうんざりしたのだが、出社初日からその考えはちょっと違うのかも・・・??と気付かされた。

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なにしろ彼女の経歴たるや、A社の人が逆立ちしても届かないような素晴らしいものだし、ある意味ではA社の人たちのもっとも苦手とする分野に精通していた。

彼女は先ず語学に堪能だったために、手始めに所謂「産業翻訳」的な業務をしていたが、これがまた早くて美しい翻訳で今迄、自分は語学に堪能・・・と勝手に思い込んでいたA社の人々は、目から鱗だったに違いない。

初登場の彼女については、いくつか披露しておくべき特徴があった。

先ず、その才能や経歴とはうらはらに、服装が変わっていた・・・というか、毎日ほぼ同じだった。

間違っても痩せているとは言えない彼女は、どうやらカジュアル志向らしくTシャツにパンツが定番で、そのTシャツは90%くらいが白の無地と決まっていたが、そのサイズが合ってるのか合ってないのか、実に奇妙なのだった。

小さくないのは、Tシャツに全くと言っていいほどシワがない事を見れば明らかだが、大きいかと言うとそんなに余裕があるとも思えない。

髪はセンター分けのボブで色つきフレームの細いメガネの丸顔の下にそのTシャツがあるのは、何とも不釣合いでつい目で追ってしまうのだが、西陽などは彼女を影で「ボンバーねえちゃん」などと呼んでいた。

そんな彼女はかなりのヘビースモーカーだった。

A社では社内に喫煙室があり、喫煙者はそれぞれ決まった場所にタバコを置いていたがその場所は暗黙のルールで決まっていた。

私は喫煙スペースに割りと近い棚の中段が”指定席”だったが、最近やけにタバコが減るなぁ・・・吸い過ぎかしら?

と感じ始めた矢先、何故だかボンバーが私の苗字に”ちゃん”をつけて親しげに近付きながら「ごめん、さっき1本もらっちゃった」と言いに来た。

部も違うし席も遠い、何よりろくに話した事もない彼女が、どうして私に親近感を抱いてくれたのか分からないがそれ以来彼女は私を「社内の親しい人」の1人にカウントしてるようで、何かにつけて「Sちゃん、ちょっといい??」と言いにくるようになり、時々はアイコンタクトだけで私を喫煙室に誘うのだった。

ある時、彼女がちょっぴり落ち込んだような、心配しているような顔で「ちょっと、いい?」と、いつになく深刻な顔で私のところにやってきたが、いつもの事ながらボンバーはそんな時、私の答を待つような事は一切無く、足早に喫煙室に向かう。

いつもと様子が違うので私も急いで後を追ったら、彼女はタバコに火を点け、考え込むように外を見て黄昏ていたがそれは、思い悩んでいるような、簡単に声を掛けられないような雰囲気だったので私もそっとタバコに火をつけてボンバーの様子を見ながら、彼女の言葉を待っていた。

するとじっと窓の外を見たまま「○○さん・・・大丈夫かな」と、独り言のように呟いた。

私はその言葉の意味が分からなかったので「どうかしたの?」と探りを入れると、「○○さんよ・・離婚したんでしょ?」と、初めて私を振り向いた。

その○○さんはつい最近入社した、ある部の女性部長で、時々私が彼女の仕事を手伝うのだが、もちろん特に親しいなどと言う事はないし、彼女のプライベート事情など全く知らないし興味もない。

ボンバーは私なら詳しい事を知ってるかと思った・・のような事を言いながら、2本目のタバコに火を点け、明らかに○○さんに同情しているようだった。

しかし、新参者の彼女が○○さんと親しいのも妙だと思い「離婚したの?」と聞き直すと「えっ?だって名前変わったじゃない?」と、どうしてそんな事聞くの?というような顔をして「大丈夫かな」と再び呟きながら、まじまじと私をみるのだった。

でも、私は知っていた。

○○さんは元々旧姓で入社してきたのだが、何かの理由で現在の結婚後の姓に変更したのだ。

ちょっと可笑しくなってその事をボンバーに告げると「あぁ~そういう事??心配しちゃった」と、あっけらかんと納得しまたもや足早に喫煙室を出て行った。

彼女はA社の勘違い人間とは明らかに違う人種だったが、やっぱり不思議な人~それもかなり不思議~で、ある意味究極の「勘違い」と言えなくもない証拠には、この後も全く悪意のない、かなり的外れな行動が続くからなのだが、それは次回のお楽しみ。

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女王様にはかなわない!

何を勘違いしてるのか、自分よりキャリアも年齢も上のコンサルタントやエンジニアを怒鳴りつけて、自分の存在を誇張しているかのようなドームの横暴ぶりは、日々進化していた。

何様のつもりか、ヒステリックに怒鳴り続けるその姿はどこか滑稽で、怒鳴られている人達には申し訳ないが、その内容とは裏腹に周囲の失笑をかっていた。

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それほど彼女が彼らを怒鳴る事は、その能力やキャリアに見合っていなかったのだ。

と同時に、周囲はどうしてあんな「ガキんちょ」に仕切られて、働き盛りの彼らが黙って我慢しているのか、歯痒い気持ちでいた。

ところが、人間イイ気になってると、ろくな事はないと証明される事件が起きた。

ベテランエンジニアのTさんがキレたのだ。

初登場の彼については少し説明が必要だが、エンジニアのイメージ通り、寡黙で真面目に黙々と仕事をこなし家庭もきちんと大切にし、目立たないがその技術力と勤勉さは会社にとって大いなる財産になっている。

そんな彼は、一緒に怒鳴られているコンサルタントのKさん(以前登場した、女王様が監禁までした大好きな男性)の、真面目に仕事に取り組む姿勢を尊敬しているようだったので、自分はともかくKさんを頭ごなしにバカにし切って怒鳴りつけるドームを許す事ができないらしかった。

「システムの事を何も分からないのに、いい加減にしてくれ!」と彼にしては精一杯、でもどこか弱々しい声で言い放ったのだ。

いつも物静かで黙々と仕事をこなし、ドーム的には「存在感の無い」Tさんがキレた事には、流石のドームも驚いたらしく一瞬無言になったが、逆ギレした彼女はヒールをイラついた音でコツコツ言わせながら、コンサル部リーダーのじーじの元へ向かった。

事の顛末を興味深く見守っていた私達は、Tを応援しながらもドームの逆襲がどんなものか心配だった。

でも流石にドームにデレデレしているじーじも、最近のドームの横暴振りには辟易していたようで、その言動を注意したらしくこの後、Tさんがキレた一連の事件は表立っては語られず、次の日からドームの怒鳴り声も鳴りを潜めた。

しかし、ある意味ドームを見直す事実を私達が掴んだのは、彼らを怒鳴る事で自己の存在をアピールし、ついでにストレス解消もしていた彼女が新しく「おいしい仕事」を見つけた直後だった。

ある朝、Yと私は一緒に会社のエレベーターで、閉まりそうなドアを無理矢理開けて飛び込んできたドームと一緒になったのだが、あまりの驚きに朝の挨拶も忘れてしまった。

それは、前から何故だか他のコンサルメンバーより1泊多い出張をしていたドームが出張に出発する朝だったのだが、ただでさえ厚化粧の彼女がより一層「塗りたくって」いた上に、今時「on the 眉毛」の前髪にチークはまったく「おてもやん」、しかも数年前のスーツを着てるもんだから、どっかの若作りのおばちゃんのようないでたちで、ご丁寧にキッツい香水のおまけ付だった。

たぶんポカンと口を開けてた私を横目にYがやっとの思いでドームに「イ・・イメチェン?」と訊くと「え~っ・・」とガラにもなくはにかみを見せたが、どう考えてもドームはイカしてると勘違いしてるのは明らかだった。

そのまま意気揚々と席に着くと、果たして周囲の人は「どうしたの??」と、ギョっとしながらも訊いていたが、ここでもドームは「やっぱり私って人目をひく可愛さなのね」と勘違いしまくっているようで、ニッコリ微笑んだりしていた。

ところでドームの「おいしい仕事」だが、社内の人も自分を見くびっている、唯一の頼みの綱のじーじさえ自分を庇いきれない。

キャリアや知識もなく人間的にも人気の無い彼女は、プロジェクトの基幹とも言える顧客を取り込む作戦に出た。

A社の中でこの当時羽振りのいい部と言えば、なんと言ってもコンサルだったが、そこである程度の地位を保とうとすれば何としてもプロジェクトの、しかも金額の大きい、できれば難しいものに関わっているのが最低条件だったので、平たく言うと顧客のシステム責任者と関係を持ち、自分をシステム担当に加えてもらったのだ。

まったく汚らわしい勘違い女だがすぐ男を取り込む手腕と、そこまでする仕事への執着心には、ある意味感心するのも確かだった。

どうやら彼女の自称「イメチェン」は、その相手へのアピールの為にしている事らしかったが、日々みんなが自分をうっとり見つめているという自己満足に浸っていた彼女をあきれ返って観察していた周囲の人々は、ある日の女王様の一言で溜飲を下げた。

「あら、イメチェン?あなた髪型も顔もヘンよ」と真面目な顔であっさり言ってのけたのだった。

もう私達を含め周囲の社員は笑いを堪えられず、思い出しては噴出し・・の繰り返しでその日は仕事にならないほどだったが誰よりも笑いが止まらず喜んでいたのは、KさんとTさんである事を考えると、私達はこの時ばかりは女王様に拍手喝采を送ったし、いくら偉そうにしてもドームごときが女王様に太刀打ちするのは無理な事だった。

しかし、本当にいつもドームが自慢しているように、電話1本ですぐ駆けつけてくれる弁護士や医者が周囲にたくさんいるなら身体を張ってまで仕事にしがみ付く必要はないと思うんだけどね・・・・。

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