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2007年6月

ドームのたくらみ

A社の上得意の多くは製薬会社で、その「頭脳集団」は大阪に集結している事が多いことは以前書いたが、これは新薬開発などというものが20年近い歳月と、少なくとも百億単位の費用がかかる事を考えると、A社にとっては最重要業界であった。

もっともプロジェクトと一口に言っても、その中身や規模は様々で、当然コンサルタントとしてそれに当たるにはかなりの知識と高い技術力が必須なのは明らかだった。

勘違い人間の宝庫であるA社の中でも、最も可愛げのない勘違い女はドームだが、マズイ事に彼女もコンサルの一員だった。

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かなりハイレベルと言う、女王様からの触れ込みで入社したドームだったが、1ヶ月もしない内にそんな事は全くの風説で実は何もできない、単なる事務員レベルである事が表面化した。

そこで彼女はコンサル部のリーダー、じーじと不倫関係になり”誰でもできる簡単な仕事”を割り当ててもらう事で、製薬会社のプロジェクトの末席に連なるという作戦に出た。

これも以前書いたが、じーじも流石にドームの実力は理解してるので、とても危なくて自分の参加してないプロジェクトにはアサインできない。 そこで毎週いそいそと2人一緒に泊りがけでプロジェクトに勤しんでいた。

何故だか他のプロジェクトメンバーより1泊多いドームは、これも前泊するじーじとマンツーでコンサルとしての教育を受けていたらしいが、そんな付け焼刃で、何十年もの経験を持つ他のメンバーに太刀打ちできる筈は、どう考えてもなかった。

女としてだけではなく、社会人としてコンサルとしてもエベレスト並みのプライドを持つ彼女は、その事が我慢できない。

A社のプロジェクトはコンサルと技術者がセットにならないと進めようがないので両者の足並みを揃える事が不可欠だが、これを調整するのも大変な作業だった。

ドームは自分の無力を棚に上げて、常日頃から技術者に文句を言っていたのだが、寝物語にでもじーじにおねだりしたのか自分が参加しているプロジェクトの技術部門を担っている、技術系リーダーと、経験豊富なエンジニアの仕事を監視する役目を勝ち取った。

この日から彼女の暴挙はエスカレートし「5分でやってみて」などと、技術者2人のある作業を、腕組みしストップウォッチを片手に彼らの後ろで監視し、5分が過ぎると「まだ出来ないの??バカじゃないの?」「やる気あるの?もっと要領よくこなせないの?」などと、まったく目上の人に対する礼儀を忘れ去った様子で怒鳴りつけたりしていた。

困った事には、稀に会社にいる女王様は「仕事に男も女も無い」と信じ込んでいて、同じようなタイプであった事だが、決定的なドームとの差は、彼女は充分の経験と知識も持っているプロジェクトのプロで、周囲の人もそれに異存はないという点だった。

なので女王様に怒鳴られるのとドームに怒鳴られるのでは、まったくその受け取り方が違うのは仕方のない事だったが、じーじとの不倫関係だけでその役目をgetしたドームは、意気揚々とストップウォッチ片手に怒鳴りまくっていた。

まったくそれは当事者のみならず、例えば技術者2人と同じシマに座っていたYも大いなる被害者だった。

あまりの大声にそばに座っている彼女はうるさいのと気分が悪いのとで、その日から耳栓をして仕事をしなければならなかったほどだったが、そんな威張り散らしているドームの作成したドキュメントはめちゃくちゃで、それを手直しするのがYだったのも皮肉だった。

ちなみに、Yから聞いて大笑い&どうしても理解できないドームのドキュメントの不思議な部分は、消しても消してもその下からテキストボックスが出てくる事で、どうしてそんなに重なっている必要があったのか全く不明だったが、とにかくそんな仕事ぶりの彼女が技術者を怒鳴りつけているのだから、何とも納得できない事柄だった。

こうして「俄か権力」を手にしたドーム女だったが、この後大きなツケが廻ってくる事になるのだった。

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大事件勃発

いつまでも「女の子ちゃん」を気取る女王様の大本命、Kさんは女王様の気持ちを知っててさり気なく付き合ってるのか、はたまた本当に気付かないのか、傍から見ていると「これ以上無い」ほど適切なスタンスで女王様とビミョ~な距離を保っている。

しかも、それが全く計算されたものでなく自然体でできるものだから、女性陣の人気は高まるばかりだった。

女王様もそんなKさんに誠実さを見ているらしく、夜のお付き合いがなくても、よいしょされなくても、変わらない態度で接する唯一の相手のようだった。

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そんな女王様を観察していたYと私は、女の子ちゃん扱いされる事や、褒め称えられる事は大好きな女王様が、どんなに出世してもそこは普通の女性であり人間なので、本当は「人として」尊重しあいながら付き合える相手を必要としているのを見抜いていた。

A社の殆どの人は女王様の顔色を伺って言う事を決めたりして点数稼ぎに余念が無いが、Kさんだけは自分の信念に沿って発言し、たとえそれが女王様の意見と違っていても納得するまでディスカッションするものの、決して険悪な状態にならないという、稀な男性だった。

女王様の男性の好みの中に「センター分け」、つまり髪の分け目が真ん中でサラサラヘアの人というのがある。

同棲しているSさん、社内のお気に入りであるコンサル部リーダーのじーじ、中途入社のSさん、取引先のおエライさん・・・と言われて見れば全員センター分けだが、中でも最もトラディッショナルなセンター分けをしているのがKさんだった。

そのせいだけではないと思うが、とにかく女王様は哀しいほどKさんが大好きなのだった。

そのKさんを悲劇が襲ったのは、A社お得意の大手製薬会社のプロジェクトも佳境に入った頃だった。

仕事の特性上ミーティングが多く、しかも長時間に亘るのはある意味当たり前で、それが深夜に及ぶ事も珍しくない。

でもこの時ばかりは異常事態だった。 なんと女王様は「最重要課題のミーティング」と銘打ち、Kさんと2人で夕方からミーティングルームに籠ったのだが後でKさんがこぼしたところに拠れば、それは朝5時過ぎまで、ほぼ半日続いたそうである。

私達はあまりの事態に驚きKさんに同情もしたが、はっきり言ってちょっぴり興味本位になるのはどうしようもない事で、つい探りを入れたところでは、大の男と女が1つ部屋に半日籠っていても、何事も起きなかったそうである。

もちろん会社のミーティングルームという場所柄もあったと思うが、女王様がこれを好機と捕らえていた事は想像に難くないだけに、その必死さが益々女王様を可哀想で寂しい女性に思わせたし、Kさんのあまりの真面目さが歯痒い気もした。

しかし、考えてみればKさんは立派な妻子持ちであり、女王様がSさんと住んでいる事は周知の事実であったのでKさんが妙な事に巻き込まれて家庭にヒビを入れたくないと考えるのも当然なのかもしれなかった。

ただ、女王様があまりにも堂々と男性を口説くものだから、ついうっかりその野望の行方を見守ってしまうという感じだった。

こうして女王様最後の賭けも不発に終わり、流石に女王様もKさんを我が物に・・・という妄想から覚めたようでそれ以降、Kさんの上に陽が当たる事はなく、行く末を案じたのかKさんは1年後に退職した。

その送別会の席でKさんの近くに座った私達は、如才なく楽しそうに飲み食べしているKさんを横目に、女王様とKさんが会う事はもう2度とないだろうな・・・と確信していた。

しかし、これらの事が全てKさんが描いたストーリー通りだとしたら、Kさんもなかなかやるものである。

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女王様の悲哀

いくつになっても、社長になっても「可愛いコちゃん」ぶるのが大好きな女王様は、誰もが認める男好きで守備範囲もかなり広いが、そんな彼女にも好き嫌いがあるのは当然だった。

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彼女が気に入っている男性は、内容的に美味しいプロジェクトにアサインされ、地位や年収も自然と上がる仕組みとなっていて、勿論これには泊りがけの出張や夜のお相手も含まれる場合が多く、日常的に彼女を「女の子扱い」するのは不可欠だった。

ところが、これを全くしないのに女王様の一番お気に入りの男性が存在した。

彼はコンサルの元マネージャーで、何事に対しても真面目に取り組み人当たりもいいが、仕事や礼儀などの件でおかしいと感じる事があれば、ハッキリ物を言う、所謂「一本筋の通った」人であった。

外見は中肉中背だが、高校球児だったというだけあって肩幅など広くガッチリしているし、奥様のおかげと思われるがいつもパリっとしていた。

折り目正しく女性には殊の外優しいが、決してデレデレしないところが女性にウケて「結婚するならKさんのような人」と女性達から言われているタイプであった。

何事につけても女王様はKさんに相談という名目で近付き、何とかして特別な関係に持ち込もうと必死なのは見ていて哀れなほどだった。

もちろん女王様は立場上、仕事の話で近付くのだが、その魂胆を知ってか知らずか、その都度Kさんは生真面目に応対し、結果として女王様に付け入るスキを与えないのだが、これが女王様には歯痒い事この上ないらしい。

実際、彼女はトップコンサルのSさんと永らく不倫関係にあるのだが、どうしてもKさんの事も気になるらしくアピールは続いた。

外資なのでもちろん本社は海外にあるのだが、本社で各国の代表が会議をする出張に、なんと社費を使ってKさんを伴った。

その出張の詳細は分からないが、Kさんから聞いたところによれば女王様は終始上機嫌で、会議も日本支社に優位なものとなり、驚くべき事には、得意の英語でイヤミまで言い放ったという。

女王様の秘書も兼任していた私はある日彼女からの電話で、滅多に誰も近付かない女王様の机で探し物を頼まれた。

急ぎの用だったので電話をしている間は必死だったが、終わってふと机を見渡した私は、そこで見つけたものにドキドキした。

絶対に座っている人からしか見えない巧妙な位置に、ロンドンで撮ったと思われる、Kさんと腕を組んで満面の笑みを湛えている女王様の写真を発見したからだった。

それは本当に今まで見た事も無いほど楽しそうな女王様であり、その腕は執拗に捲きつくヘビの如くKさんを捕らえている。

自分には何の関係もないのに、何だかとても罪の意識を感じ、私は慌てて転びそうになりながら急いで女王様の席から脱出した。

私は何だか女王様が可哀想になった。 その世界では有名人で、講演会をすれば何万円もの券があっという間に売れ、著書も多い。

マンションを3つ所有し億単位の年収を稼ぎ、着ている物はアルマーニを始めとするブランド品という、人も羨むプチセレブだ。

なのに一番手に入れたいものは入らない。

でも今日も女王様は一生懸命仕事をし、その合間にKさんに色目を使い、Sさんと住んでいる。

公私共に何とも忙しいのだが、彼女の心には風穴が空いているに違いない。

そう考えると、ちょっと甲高い声も、せかせかした話し方も、仕事中にヒステリーを起こすのも仕方ないような気がして彼女の意味不明の要求にも応えて見ようか・・って気になるのだった。

Kさんへの執着はかなりなもので、この後ちょっとした事件が起きるのだが、それは次回に・・・。

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続Pink Collection

まだ少し肌寒いが、春の足音がそこまで聞こえているこの日、私達はお気に入りのカフェで仕事の疲れを癒していた。

美味しいお料理と他愛の無い会話、ちょっとオシャレな立地でストレス発散をしていた私達の隣のテーブルに、一度会ったら決して忘れない、いや忘れる事のできないおばちゃんが現れたのは、ちょっと気だるい風の夜だった。

前回書いた通り、この浮世離れしたおばちゃんはどうやら若いイケメンと食事をするのを、人生の課題としているようで、観察したところによると、彼らのうちの右手に座っている男性におネツのようである。

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どんな職業なのか、彼らの髪は肩の少し上まである茶色で、スーツも一般企業のサラリーマンという風情ではない。

もっとも主役のおばちゃんからして、全身ピンクに金髪にちかい茶色の長い髪なのだから、別段おかしな組合せではないのだが・・・。

おばちゃんは、まるで10代の女の子のようにキャァキャァはしゃぎ、甘ったれた声で首をかしげながら彼らに話し掛けお気に入りの彼にしなだれかかって笑転げている。

その様子を、丁度食事が終って飲み物タイムになっていた私達は、口をあんぐりさせて背後からとっくり拝見する事になったのだが、暫くしておばちゃんが急に後にガクッと首を垂れたのには、少々焦ってしまった。

後から見たら年齢不詳の彼女をハッキリ前から見てる私達には、彼女がかなり年配だと分かっていたので、あまりにもエキサイティングな気分の中で、体調に支障を来たしたのでは???と心底心配になったのだ。

前方に首を垂れたなら睡魔に襲われたかな?とも思うが、何しろ後にのけぞるように、しかも全身から力が抜けてしまっている証拠には、これ以上垂れられないというくらいの反り方が、まったくイナバウアー状態である事でも明らかだった。

あまりにも今迄の出来事が面白かったので、このギャップはかなりの衝撃だった。

ところが同席しているイケメン達は涼しい顔で、むしろニヤニヤしてるではないか・・・ もしかしたらこの男達は悪者で、おばちゃんにいい顔して騙すつもりなのかも・・・と、またもや何の関わりも無い、言葉を交わした事もないおばちゃんの事が心配になって、それこそ固唾を呑んで見守るしかなかった。

そのまま緊迫した5分ほどが過ぎ、すっかり私達の紅茶も冷めてしまった頃、にわかにおばちゃんが動き出した。

不安と期待の入り混じった気持ちで見つめていると、おばちゃんは何事もなかったように、さっきと同じ甘ったれ声で笑いながら、イメケン達にしなだれかかっている。

おまけにイケメン達も何のわだかまりも無く話を聞いている。

私達は今目の前で見た光景は夢だったのかと、ホントにお互いの頬をつねってみたが普通に痛いので、現実だったのは間違いない。 なのに、当の本人たちは空白の時間など数秒もなかったように、無邪気に笑っている。

何だか拍子抜けしたような、安心したような、騙されたような、ちょっぴり納得できない気分でお茶に手を伸ばした私達の目に再びイナバウアーなおばちゃんの姿が飛び込んできたのは、そろそろ帰る準備をしようとしていた時だった。

この時もイケメン達はニヤニヤしていただけだったが、前と違ったのは私達の方を見ている事だった。

どうやら私達が彼らのテーブルで起きている出来事に興味津々なのをすっかりお見通しのようで、私達が面白がっているのを見て、楽しんでいるのだった。

そしてあと2度、イナバウアーは繰り返され、その頃には私達もおばちゃんが年齢のせいか体質なのか、急に寝てしまう事に気付いていたし、イケメン達は慣れっこらしかった。

でもこの日、おばちゃんはハシャぎ過ぎたのか、イケメン達の様子からもいつもよりイナバウアーの回数が多い事が察せられた。

そして流石の彼らもお店の中央の席で、自分達がネタの一部にされてるのが恥ずかしくなったのか、3度目以降は「何とかしてよ~」という助けの色を目に浮かべ、席から私達に助けを求めてくるのだった。

もうこうなると私達も、何だか良く分からないながらも彼らに同情し始めたし、この劇の幕が下りるまで帰る事はできない気持ちになったのは当然だったが、どう考えても彼らを助けてあげる事などできるわけもなく、彼らもためにも、もちろん私達のためにもおばちゃんが帰るのを待ちわびるだけだった。

こうして4度イナバウアーを繰り返し、上機嫌で清算した彼女は、送ってもらおうという気は微塵もないようで「じゃ、またね」と最後まで鼻にかかった甘い声で手を振って席を立ったが、この後に続いた彼女の言葉がまた傑作だった。

「私ちょっと眠くなっちゃった♪」 まったく幸せなおばちゃんもいたものである。

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Pink Collection

今夜はA社の勘違いな人々の事から離れ、その人々と毎日一緒に仕事をしていたYと私が出会った、とてもキュートなおばちゃんについて触れてみたいと思う。

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私達は派遣社員だったと言う事もあるが、ハッキリ言って仕事がとっても早かったので、だいたい6時頃には退社できる日々だった。

A社は桜の季節になると観光バスが数珠繋ぎになる大人気の桜の名所がそばにある都心の一等地にあり、交通の便も非常にイイので会社の帰りの寄り道には事欠かなかった。

中でも私達お気に入りのカフェは2駅先にあった。

そこはアクセスがいいだけでなく、女性雑誌に載りそうなほどオシャレな創りで、季節のいい時にはテラス席に座り、近くのセレクトショップを訪れる、今時風なカップルを見ているのも楽しい。

何よりも嬉しいのはカフェ・ディナー・スイーツ・お酒と、どの時間帯でも何でもオーダーでき、その上メニューも豊富な事だった。

その日も私達は、ディナーには少し早い6時半頃その駅に着き、付近のお店を冷やかしつつ、7時半頃お店に入った。

まだ少し肌寒い季節ではあったが、何となく半袖が着たくなったり、薄目の色が良く見えたりする「先取り気分」と同じで冷製パスタなんてメニューも気になったりする。

何種類かの食事をオーダーし話に花を咲かせていると、私達の視界の隅に鮮やかな色彩がチラついた。

そしてそれはどんどんこちらに近付いてきて、ついに隣のテーブルに座ったのだが、その姿は私達の会話をストップさせるのに十分過ぎた。

彼女はブロンズの長い髪で、着ている物は上から下まで微妙に色の違うレーシィなピンク、お化粧も白塗りにピンクの口紅、そして常連らしくスタッフに話しかける声はとても甘かったが、どう贔屓目に見ても60才は超えていた。

彼女は上機嫌で、いつもの定席らしい席に座り、若いイケメンスタッフに「ねぇえぇ・・・○○くんの携帯いくら掛けても留守電なんだけど、番号これで合ってる??」などと、鼻に懸かった甘い声で媚びるように別のスタッフの携帯番号を確認していたが、明らかにそのスタッフが困っているのは、その端正な顔に浮かんだ苦笑で明らかだった。

そしてメニューを手に「これはどんなのぉぉ?」「こっちはぁぁ??」などと、やけに語尾の延びる言い方で訊いていたが「春らしいからこ~れ!!」などと、菜の花の冷製パスタといちごのサラダという、季節感溢れるセレクトをしたのだった。

お料理が運ばれてくると、これまた大仰に「美味しそ~」と喜び、いちごのサラダを見ては「かぁわい~ぃぃ」とはしゃぎながらスタッフを横に立たせたまま、味わっては感想を述べている、どうやら迷惑な常連客らしかった。

暫くすると、若い男性客が2人店に入ってきた。

驚くべき事には彼らの姿を見つけるや否や彼女が「こっち!こっちぃ~」とまた例の語尾の延びる言い方で立ち上がって手を振ったのだ。

前述の若いスタッフと同じ種類の苦笑を浮かべながら彼女のテーブルに近付いた彼らを、手を取らんばかりに出迎えた彼女はお店中に聞こえる様な大きくウキウキした声で、来てくれて嬉しいというような事を言い、今日の出来事などを話していたが「あ、そうそう・・・」とうやうやしくバッグに手を伸ばした。

私達はこの時初めて気付いたのだが、このバッグがヴィトンでいかにも春らしいほんのりピンク系の、Yによれば日本には売ってない代物だった。

その中から彼女が取り出したのは、ディズニープリンセス・リトルマーメードのアリエル模様の、これまたピンクのファイルだった。

この頃には私達は食事も終わりお茶していたのだが会話はなく、彼女の一挙手一投足に釘付けだったので、そのファイルから彼女が取り出したものに瞬きも忘れるほどだった。

それは、ピンクの衣装を纏った彼女が、にっこり微笑んだ写真が印刷された大判サイズのハガキで、彼女はとても気に入っているようで、彼らに自慢げに見せた挙句、「あ・げ・る」とちょっと恥ずかしそうな風情を見せながら手渡したのだった。

私達はもうお茶も会話も眼中になく、このLIVEで目の前に繰り広げられている面白い見世物に夢中だった。

彼女と彼らはどういう関係か分からないが、彼らはどう見ても好き好んで時間を共にしているとは思えないので、もしかしたら仕事上とても重要で、夕食のお誘いを断れないとか、彼らにとっては頭の上がらない、大切にしなくてはならない立場の人物らしかった。

それにしても仕事の話など微塵もなく、次々と高級バッグから飛び出してくる、彼女ご自慢の品々を褒め称えなくてはならない彼らに同情してしまった。

この後も彼女のオン・ステージは延々と続くのだが、第2幕は次週のお・た・の・し・みぃ。

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バカえもんの仕事ぶり

少し前に入社した、高学歴な「バカえもん」は、その学歴だけで仕事ができると心底から思っている、本物の「おバカさん」だった。

A社は途中入社が多いとは言え、その業務の専門性の高さからズブの素人が入社する事は絶対なく、彼も多少はその筋の知識はあるらしく、実際入社前からその評価は格段に高かった。

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多くの勘違い人間がそうであるように、彼もまた「自分はこんなにハイクラスなのにフレンドリー」と考えていて、それは例えば私のような事務系の人間に対して一層顕著に現れ、やけに丁寧でにこやかに接するのだった。

その事は「下々にも分け隔てなく接するいい人」と、彼らを益々勘違いの渦に巻き込むのだが、不思議な事にそれがまた彼らのエベレスト並みに高いプライドを満足させる一因らしかった。

バカえもんも最初はプロジェクトに参加していなかったので、同じ部のYに様々な質問をしたり、私に社内の事を聞いたり、情報収集に余念が無かったのだが、丁寧にかぶっている仮面も、本当は見下している私達などより自分が知らない事があるとすぐボロが出て、隠しようも無いイヤな表情を見せるのだった。

そんな彼も2ケ月ほど経って仕事や社内の様子が飲み込めてくると、プロジェクトに参加する事になった。

プロジェクトなどと言うものは、期限があるのが当然だが、A社のそれは大手企業の命運を掛けた大規模なものもあり何年も必要な事が多かったので、途中から参加するにはそれまでの経緯や取引先の細かい事情などを把握している事が大前提である。

ところがバカえもんのような、自分を中心に地球が廻っているような錯覚をしている人間にはそれが理解出来ないのか、取引先の事情より、自分の能力を誇示したがるという、全く不可解な思考回路の持ち主だった。

彼が参加したのはA社お得意の大手製薬会社のプロジェクト。

これは大型には違いないが女王様はじめ沢山のメンバーが参加しているのでバカえもんに掛かる負担は少ない割に、プライドを満足させるという、彼が初参加するには「うってつけ」のものだった。

そのプロジェクトに参加が決まると、彼はまるで彼の高学歴でこのプロジェクトは既に成功したような、意気揚々とした態度で、あたかもプロジェクトの中心人物のように振舞いだした。

彼に割り当てられたのは、連絡係とちょっとしたマニュアル作りだったのだが、彼にとっては大型プロジェクトに参加してるだけで満足してるようで、それは私達への態度の変化でも明らかだった。

例えば私に、ちょっとしたコピーを頼むだけで、まるで総理大臣か大統領のような素振りで高いところから物を言ったり、Yにマニュアルの修正を頼むのにも「君にできるかな?」というような薄ら笑いを浮かべる始末だった。

考えればコピー数枚など、コピー機の前を通り過ぎて私に頼みに来るより自分で取った方がはるかに早いし、マニュアルの修正だって要は自分が勘違いして修正を求められたものなのだ。

良く観察していると、バカえもんは「自分が使う下の者」が欲しいらしくそれが私達だったようなのだが、どう贔屓目に見ても私達より仕事ができるとは思えない所が滑稽で可哀想なのだった。

もっとも、このテの勘違い人間に慣れ切っている私達は、扱いを心得過ぎているほど心得ているので、上辺だけは鄭重に接するという事が実に自然にでき、バカえもんのプライドも満足させているようだった。

こう考えると、この勘違い集団のいる会社に就職した私達は、人を見る目により磨きを掛け、その人達を手の平で転がす術を日々身に付ける修行をしていたようで、まんざらでもないなーと、特にバカえもんと接する度に思えるのも収穫だった。

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ユーザー会のマドンナ

このブログの中で、圧倒的な最多出場回数を誇るのは、なんと言ってもおぼんである。

それは彼女の勘違いぶりが圧倒的だと言う事に他ならず、面白いのは彼女が真剣に勘違いしている事で、人から見たら嘘のような事でも”やらせ”でも何でもなく、心底そう信じての行動だから、たまらなくおかしいのである。

何度も書いているが、彼女は自分の容姿・仕事ぶり、その他全てにおいて、誰にも説明できる根拠も無いのに多大な自信を持っている。

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そして、トランプマンのようないでたちで出勤し、みんなの失笑を買っているのに、そのファッションセンスにさえいろいろなシーンでズバ抜けたセンスを発揮している・・・と信じ込んでいた。

その日は、A社のビッグユーザーの会の方々が所属する、所謂ユーザー会的なものの会議があった。

どういう理由かは全く不明だが、何故かこの会を牛耳っているのはおぼんであり、マズイ事に実務担当が私であった。

何もしない代わりに、目立つ事は大好きなおぼんは「私がA社の代表です」と言わんばかりに胸を張り、意気揚々とその会を仕切っているつもりになったいた。

もちろん当日の会議資料や、様々な段取りは私の仕事だが、あくまでも「縁の下の力持ち」で表面には出ない。

前日から何だか大騒ぎをしていたおぼんは、果たして当日、社外の方々との重要な会議なので、きっちりスーツで現れた。

会議は午後からなので、私は最終チェックに忙しく動き回っていたのだが、会議室の前で何故かおぼんが手招きしていた。

打ち合わせることでもあるのか??と彼女の傍に行くと、何も言わない。

暫くは???だったが、腕組みをしてそっぽを向いてる彼女の姿を見て、はたと気が付いた。

彼女は今日、新調のスーツでご出勤なのだ。

そして忙しい私をわざわざ呼びつけたのはそれを見せびらかし、褒めて欲しかっただけなのだ。

全く分かり易いと言うか単純と言うか、このクソ忙しいのに・・と、半分怒り、半分呆れ果てた私は「あぁぁ・・新しいスーツですかぁ?キリッとしてるのにディティールにレースがあったりして凝ってますねぇ。これもいつものお店で買われたんですか??」と、思い浮かぶだけのお世辞を口にした。

ようやく腕組みを解いたおぼんは、初めて気付いたような顔で「あぁ?これですか?ちょっとレースが可愛すぎるかなと思ったんだけど、お店の人が私にしか着こなせないっていうので、売れ残っても可哀想かと思って・・」と、目の玉が飛び出そうな事を恥ずかしげも無く言ってのけた。

確かに、生地はサッカー地を厚くしたように、冬物なのにヨレヨレし、そのくせ色は若草色で、良く見ないと分からない小さな白い模様が刺繍されていて襟と袖口に可愛らしい白のレースが付いているそのスーツは、どう見ても「いんちきマジシャン」的でとてもではないが普通の人がステキだと思う代物でなかったので、おぼんしか買ってくれる人などいるわけもなく、ある意味「彼女にしか着こなせない」のは当然かもしれなかった。

午後になって会議が始まり、私は指定の時間に紅茶を出した。

その日は2月上旬だったのだが、彼女はまたもや勘違いして会議に来ている全男性にスタバのチョコレートを買ってあり「一休みして召し上がって下さい」などと微笑んでいた。

いかにも、私は仕事も出来るけど、こういう細かい気配りも得意なの。

だから男性に狙われるのかしら?それにしてもあなた達,私からチョコレートをもらえるなんて果報者ね・・とでも言いたげな有様で、私が運んだ紅茶とチョコを、いそいそと配り始めた。

果たしてお客様は、早く会議を終らせて帰りたい様子で、全員困った顔をしていたが、まぁバレンタインのチョコをもらって悪い気がするわけではなさそうなので、全員少しリラックスしていたようだったが、どう考えてもチョコレート効果くらいで会議がA社に有利に運ぶとは思えなかった。

その証拠に、このチョコレート騒ぎの後から会議に参加した女王様は、会の幹事を決める際、散々ユーザーの皆様よりお小言をもらったらしい。

要はおぼんはお飾りの代表で、重要な案件は女王様が取り仕切る・・と言うか「こんなお嬢ちゃんに言っても仕方ない」とユーザーさんから思われているのだったが、またもや本人だけは気付いてないようだった。

会議終了後、片づけをしていた私に「お疲れ様でした」と深刻ぶって声をかけたおぼんは、不思議な事を言い出した。

おぼんを持ち上げて利益を上げていると思われる「いつものお店」は恵比寿にあるらしく、新調のスーツを褒められたのがよほど嬉しかったのか「今度ご一緒に如何ですか?」と真剣に私を誘ってきたのである。

結局少し後に「お供」する事になるのだが、このエピソードはまた後日!!

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バカえもんという男

勘違いな人々で埋め尽くされているA社だが、社内を見回せばやたらと高学歴の人が多い。

外資には中途入社が多いのは常識だが、入社する人が皆、揃って高学歴なのは女王様の意向でもあり、次々と入社するそのテの人達が、これまた勘違いの集団ときているので、一般人の私達はたまったものではなかった。

中でもヘタな国立大より高い偏差値を誇る私大卒業後、日本一の頭脳を持ち、その卒業生はノーベル賞受賞者も多数出している国立大院卒の男性は、高学歴だけで人生が決まる考えている、本当にレベルの低い男だった。

彼の名前は「バカえもん」、もちろん本名ではなくYが思いついたのだが、後でYの見る目の確かさに下を巻くことになるのだった。

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彼はその学歴だけを拠り所にしているようなところがあり、仕事の事はもちろん、一般的な話をするにも何とか理論的に進めたがる。 高学歴ゆえに周囲の尊敬を集めたいとでも考えているらしく、斜に構えてカッコつけて喋るのが常だった。

ところが高学歴なだけでおバカさんなので、質問された事や話の流れが全く読めず、その事に動揺すると尚更高飛車な態度に出るクセがあった。

やたらと難しそうな顔と言葉で、益々斜に構え「それは○○って事かな?」などと、さもキミの質問は的を得てないなぁというように、余裕を見せながら上からものを言うのだ。

周りの人に、自分が理解できていないという事を見破られるのがイヤだと見えて、殊更見下した風情を見せるのだ。

私達はこの様子が可笑しくて「バカえもん」と名付けたのだが、彼はその奇妙な態度が自分のプライドを満足させるらしく会社に慣れるに従って、高飛車度は加速して行った。

彼の容姿は角が無い(要は丸い)上に大きめで前屈みに歩くので、その姿はまるでエサを探す熊のようだったが、これまた彼一流のプライドの高さを現した、威張り切った態度と顔付でのっそのっそ歩き回る。

あまり外出のない職種の彼はスーツで出社する必要はないのだが、観察していると彼的にはなかなか服装にも気を使っているようである。

どうやらその基本はトラッドらしく、ピンクストライプのボタンダウンに紺のコットンパンツ、ベルトもカッコイイわけではないが同じトラッド系でまとめている。

しかし、彼の服装は仕上げが時代錯誤だった。

なんと今時、パステルカラーのセーターをゆったりと肩に掛け、フロントで結んで意気揚々と歩いているのである。

彼の世代はたぶんバブルを経験しているので所謂”トレンディードラマ”世代と思われるが、Yが面白がって「バカえもんの服装って石田純一みたいですねぇ」などと、からかった。

何を勘違いしたのか、本当に石田純一を見本にしてるのか、「そう?ありがとう」と嬉しそうに頷いたのだ。

傍で聞いていた私も、言った本人のYも、あやうく噴出しそうになるのを奥歯を噛締めて抑え、必死の作り笑顔で走るようにその場を立ち去りトイレに駆け込み、耐え切れず大笑いした。

そうとは知らないバカえもんは、それ以来私達に会うと満面の笑みですれ違うようになり、ともすれば話しかけてくるようになった。

その都度私達は、その奇妙な服装と、根拠不明な自慢話に付き合わされることになったのだが、この時からかった事で、後々イイ思いをする事になろうとは・・・。

誠にもってバカな高学歴男である。

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おとぼけ化粧水

社内イチの腹黒女、化粧水は、何故だかイイ人だと思われているフシがあるのが不可解なのだがよく観察してみると、イイ人でも何でもないが、ちょっとトボけたところがあるのは事実だった。

見た目はごく普通のおばちゃんなのだが、その行動には、やけに子供じみたところがあり、それが所謂「天然ボケ」でない事は、彼女がその事を周囲に言いふらす行動で明らかだった。

その日は彼女が属する本部の歓迎会だった。

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イイ人ぶりたい彼女は、そのテの行事にはなるべく参加するよう心掛けているようで、その日も集金に来た幹事に「お疲れ様~」などと、何かを探るような目をしながら「細かいのがないから、お昼休みにくずしてくるね」などと、またまたイイ人ぶって言うのだった。

約束通り、化粧水はお昼休みに銀行に行ったらしいが、帰ってきた彼女は明らかに疲れきったようすだった。

大人が「大きいのをくずしてくる」と言えば、大抵の場合、万札を五千円や千円にするものだが、果たして彼女もそうだった。

ところがその日は5・10日だったせいか、いくら銀行と言えども両替にも限度があるようで、なんと彼女が”噂のチャンネル”の分も頼まれてしてきた2万円は、全て100円玉になっていたのだった。

銀行まではオフィスから10分程度歩くのだが、その間中200枚の100円玉をぶらさげて歩くのは難儀だったようで疲れきった様子になっていた

それを重たそうに、でもニコニコしながら持って帰ってくるところが、何とも化粧水らしい、わざとらしさなのだが、周囲の一部の人は、それも彼女の「イイ人」がなせる業だと可哀想に思い、自分のお札を両替した100円玉に交換してあげる人もいたらしかった。

私達はその日、社内のある人と食事の約束をしていたのだが、彼が支払いの時大量の100円玉を財布から出し「あ~軽くなった」と言ったのには驚いた。

挙句、「化粧水は人がイイから、銀行で100円玉を出されてもイヤって言えなかったんだろうね。。。可哀想に」と言い出す始末で、私達は内心、「可哀想なのは化粧水の本質を見抜けないあなた達よ!」と思ったが、このテの人々には、永遠にそんな能力が身に付く筈もなく、そんな事を言ったら私達が悪者扱いされるのは明らかあったので、ただ、黙って頷いておいた。

まったく銀行まで利用して自分を良く見せたい化粧水という女は、その行動すべてが計画的で気味が悪いのだった。

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