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2007年5月

大規模プロジェクト8

いくら大規模プロジェクトとは言え、要はオフィス移転である。

そのわりに、とてつもない労力と時間を必要としたのは、ひとえに様々なタイプの勘違いな人々のおかげである。

彼らは明らかに悪人ではないが、とにかく何でも大袈裟にしたがるクセがあるのには困りものだった。

そんな彼らに振り回されながらも、何とかあとは移転するだけ・・というところまで漕ぎ付けた。

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この頃には、すっかり「有能なプロジェクトマネージャー」振りを発揮していたおぼんは、実は何もしていないのだが本人は肝心のターニングポイントはしっかり仕切っているという勘違いをしていた。

引越しに不可欠の車両手配も、さも自分が最初から最後まで大車輪の役割をしていたかのように、意気揚々と始めた。

そして、車両手配は私が責任持ってやるから・・・と、意味もなく額に手の平を押し付け、軽くため息をつきながら、私たちへ配慮をしている風な自分に酔っているのだった。 数日後、彼女はまたもや意気揚々と私達の打合せブースにやってきて、大変だったが車両の手配は完了しました・・と詳細を伝えて、コツコツとハイヒールを鳴らして帰って行った。

引越し当日は土曜日、社内インフラを日曜に完了させ、月曜から新オフィスというスケジュールも確定したある日、おぼんと私達が最後の打合せをしていたその席で今度こそ ”地球がひっくり返りそうな”言葉が、おぼんの口から飛び出した。

「手配車両は2t車です」 「・・・・・」2t車って小さいよね?? 普通の家の引越しだってもっと大きいよね?? どれだけ荷物があるか・・間違ってない?? 私達は心の中の声にならない声に苦しめられた。

一体どうしてそんな奇妙な事になったのか・・・どう考えても答が出ないその疑問を、気付いたとき私は口にしていた。

すると会社を背負って立ってるとも勘違いしているおぼんは「経費削減です」と、どうだ!と言わんばかりに自慢げに言い放った。 これにはまたもや言葉を失った。

経費削減は結構だが、2tトラックで企業が引越しをするなど、聞いた事もないしどうしてそんな非常識な事を考え出したのか、まったく分からなかったが、とにかく配車は完了していた。

引越し前の1週間くらいは、当然の事ながら毎日終電で、最後の調整に追いまくられたが、あと1週間でこの任務から開放されるという安心感は、確かにあった。

だからと言ってこの配車に異議を唱えなかったわけではないが、実際のところ2tトラックで引越しをすると、どれくらい大変なのかはハッキリ分かってはいなかったし、引越し先は女性の足でも徒歩10分ほどの近さと言うのもあったのかもしれない。

いざ当日、おぼんと私達、そしてケチ男は朝早くから新オフィスでトラックが来るのを待っていた。

そもそもその到着時間も遅れ、オフィス移転は初っ端からケチが付いたが、こうなったら忍耐力しかないのは誰もが理解していた。

果たして30分以上遅れて到着した第1便が積んでいた荷物はキャビネ3本、しかも小ぶりながらエレベーターが3基あるビルだったがどういうわけだか1基しか確保されておらず、大き目のキャビネだと1本しか入らない。

私達は気が遠くなりかけた。このペースであの荷物を全部運ぶのに2tトラックが2台・・・何時まで掛かるのか・・・。

挙句の果てに、引越し業者に全ての指示を出していたのは、例の計測が苦手な業者だったのだが、私達との決め事が何も引越し業者に伝わってなかった為、私達はいちいち運び込まれた荷物をどこに置くか指示を出し、確認する必要があった。

力仕事だけに若者が占める引越し業者は、ただ言われた通りに荷物を設置するのが責任なのだが、彼らが困り果てる事態が発覚した。

業者が引越し業者に渡した図面に、重大な情報が抜け落ちていたのだ。

年配の責任者が血相を変えて私達の所にやってきて「このキャビネの設置予定場所は防火シャッターなので置けません」と汗を拭き拭き訴えたのだ。

私達はもう目の前が真っ暗だった。

いくらプロジェクトメンバーでも素人なので、窓や空調には目が行っても防火シャッターには気付かなかったし、それくらい業者が気付いてよ! 第一どうして引越し当日に彼らは来ないのか? と、ふつふつと怒りがこみ上げてきたが、こんな時、やっぱり責任ある立場のケチ男の行動力は頼りになった。

無責任な業者より、はるかに手際良く測量し周囲を見回し、一番適切な動線を見つけ出し、その通りにレイアウトするようテキパキと指示を出し始め、何とか荷物の搬入がスムーズに進み出した。

いろいろ苦労してきた、この数ヶ月の思いがあるので、段々と荷物が入り、オフィスらしくなっていく様子を垣間見るのは私達にとって嬉しい事ではあったが、数個づつ2人の若者によって運び込まれる荷物には、時間的にも一抹の不安があった。

果たして朝早くから始まった引越しは、夜10時になっても終わらず、メンバーの中にはこの日の3回の食事を全て会社で取る羽目になった人もいたが、どう考えても帰る事ができないのは明らかだった。

もう少し・・・もう少し・・・と自分に言い聞かせながら、ようやく「これで最後です」と言う声を聞いたのは、なんと午前2時だった。

何故だかみんなから拍手が沸き起こり、Oさんなどはホッとしたのか涙をこぼしていた。

でも、もう私達の体力は限界だった。

ただでさえ睡眠不足の日々だったのに、引越し業者に置き場所の指示を出していて声が嗄れていたし、喉も痛かった。

こうして2tトラックでの引越しは完了し、月曜には新オフィスの1番大きな部屋での小宴が企画され、私達は労ってもらえるらしく、既にケータリングも手配済み、とおぼんから聞いたのは午前3時近かった。

タクシーでそれぞれ帰宅し、泥のように眠り、月曜に備えたが、果たしてOさんと私は発熱し、新オフィス初日に出勤できなかった。 小宴などどうでも良かったが、やっぱりちょっぴり残念に感じるのは人情だった。

そして火曜日、出勤した私達がケチ男から聞いた言葉は「残念だったね~。美味しい料理だったのに」

「・・・・」

オフィス移転が無事終了しても、A社の勘違いは延々と続くようだった・・・

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大規模プロジェクト7

A社はとにかく東京の一等地にある。周囲は大使館や外資系が多く、大都会の割には緑も多かった。

ランチに行くと、巷に背の高い、いかにも「日本人が想像する外国人」が当たり前のように歩いていて、立地は申し分なかった。

そんな環境のいいA社の社員がみな東京人かと言えば、そうでない人が殆どなのは却って当然かもしれないが、通勤圏内の千葉や神奈川と決定的に違うのがゴミの分別だった。

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外資の多くは環境への配慮を徹底しているが、もちろんA社もそうだった・・・と言うより、このお話の時代背景の頃は環境配慮が声高に叫ばれ始めた時期だったので、女王様やおぼん、噂のチャンネルなどは、それを気にする事が時代の最先端!とばかりに、うわ言のように「分別・・・分別・・・」と言っていたのである。

引越しとなれば各種書類の整理整頓は不可欠だが、A社の古い書類は「フロッピー」などと言う時代の産物で保存されているものも多く、これがまた厄介な代物だった。

何しろデータ流出を防ぐためにも分解しなければならないのだった。

先ず、力任せにシャッターを剥がし、メディアを取り出す為に渾身の力を振り絞りジャケットをこじ開ける。

そして小さなバネと肝心のメディアを取り出すのだ。 シャッターだけをを外しチラッと見えるメディアをカッターで裂けばいいじゃない!!と思ったが、私達は結局その作業を延々と続けなければならなかった。

軽々と1000枚近くはあるフロッピーを、である。

何故ならあんなに小さな物体なのに、ジャケットとシャッターは不燃ごみ、メディアは産廃、バネは危険物、と3種類に分類しけなければならないからだった。

この作業を一番沢山しなければならないのは、成果物を保管しているコンサル部隊であったが、ここのリーダーは「じーじ」だった。

米軍基地のある、関東の都市で生まれ育った彼はもちろん東京人ではないし住んだ事もないので、ゴミを分別するという事にまったく慣れていないおいうレベルではなく、どうやら「分別」という言葉すら認識していないようだった。

各部で行われている整理整頓をざっと見回ろうと、コンサル部隊を通り掛った時である。

透明な東京都指定ゴミ袋の中身は丸見えで、その中にはフロッピーの各部品や紙のファイル、定規やシャーペンなどなど、ありとあらゆるゴミが詰め込まれていた。

そして傍らには、ニコニコとゆーーーっくり手を動かしているじーじと、その隣にぴったり貼り付いて「できなぁ~い」などと、凡そ会社には不似合いな声でじーじに甘えているドーム女がいた。

いくら東京人ではないとは言え、ここはれっきとした東京である。ましてみんなが忙しいのに軍手をはめながら細かい作業に勤しんでいると言うのに、呆れ返った事には「いったーい・・手切っちゃったみたい」などとバカげた事をほざくドーム女の手を自分の膝に乗せ「大丈夫?」などと本気で心配しているじーじを見た途端、分別できていないゴミの山に無性に腹が立った。

気付いた時には、その一角だけに漂っている甘いムードを切り裂くように「なんで分別してないの?」と、まったく無表情な声で聞いていた。

2人の世界を邪魔されたのが気に入らないのか、見下したように言い放った私に怒ったのか、じーじは冷酷な目で「そんな細かい事いいじゃん」と、意味不明な切り返しをしてきた。

A社の花形部隊であるコンサルのリーダーの自分が言えば私が引き下がるだろう・・・という甘い目論見はまんまと外れ「他の部は全部出来てるのに、どうしてここだけ出来てないの?」と更に喰い下がった。

ちょっぴりしつこいかな?と思わないでもなかったが、こんな事もできない、女好きの勘違い男が年収1500万というのが癇に障ったのか「とにかく全部きちんと分けて」と言い残して他部署に廻った。

どうやら私の雰囲気で、何か怒った事を察知したおぼんが、さも「相談に乗るいい先輩」のような顔付で近付いてきたので当事者の名前は言わずに、分別できてないゴミがあったと伝えたら、何の関係もない彼女が烈火のごとく怒り出し「誰ですか?その不届き者は!私がガツンと言ってきます」と息巻いた。

そんな事言ったって、相手はかつてあなたが同棲してた相手よ!しかも今行くとドーム女とイチャついてるよ!と思ったが、引き下がるような彼女ではないので、さっさと伝えた。

果たして彼女は一瞬ひるんだが、眉を吊り上げ、カツカツとハイヒールを鳴らしながら、大股にコンサル部隊の方へ向かった。

そして数分後「話をつけてきました」と、まるで低予算で作られたヤクザ映画のキメ台詞のような事を言いながら満足げに戻った彼女によれば、面倒臭そうにしているじーじはさておき、ドーム女に必ず分別するように”命令”してきたらしい。

今や、おぼんにとってはゴミの分別などどうでも良く、ドーム女の風上に立つ事が重要になっているようだった。 まったく何とも呑気なひと時である。

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大規模プロジェクト6

社内外のわけの分からない人々に振り回されながらも、何とかプロジェクトを期日までに仕上げなくてはならない私達はあまり深く考える時間もなく、とにかく片っ端から業務を片付けるしかなかった。

歴史の浅いIT業界の中ではパイオニアのA社は、それでも20数年の社歴があるので、引越し前の荷物整理は大変だった。

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なにしろこの会社の人達は、全く「捨てる」という行為を忘れてるような人種なので、自分達が新入社員だった頃の書類などを、あたかも自分の歴史であるように、大切に保管していた。

中でもケチ男は、ダントツに多い自分の書類ファイリングを私に頼んでいたが、これが傑作だった。 当時、企業のペーパーレス化が推進され始めた頃で、新しい事に目がないケチ男などは声高にペーパーレスを叫んでいて、当然、取引先に送る契約書や見積などは全てpdfの添付だったが、ケチ男はこのメールを印刷してファイルするというバカげた事を、日々繰り返していたのだ。

しかもフォワードメールも全てなので、ファイリングする私は、何度も何度も同じ文章を見かけることになるのだった。 こんな事をしているケチ男なので、各取引先毎に用意した背幅10cmほどのファイルは、1週間くらいでパンパンだった。

ケチ男というだけあって、何でも取っておく性分なのか、本当に彼は書類以外の荷物もハンパじゃなかった。

いつの間にかケチ男専用になっている棚やキャビネは数知れず、それを全部新しいオフィスに持って行くと言い出した時には、ギャグかと思って笑ってしまったが、心底自分の書類たちを整理するのは無理と信じているらしく、<真顔で困惑していた。

冗談じゃない!!こんな大昔からの歴史を引きづられちゃぁ、困惑するのは間違いなく私達である。

でも、とにかく何とか捨てさせなくては・・・と真剣に考えた私にも名案などある筈もなく、とにかく収納スペースがないから処分してもらわないと困る!! 持って行っても結局捨てる事になる!!と真っ向からお願いするという正攻法で攻めるしかなかった。

もちろん周囲にも充分な根回しをして応援してもらい、案外あっさり納得したケチ男は、当然のように私にその作業を依頼してきた。

捨ててもらえないのも困るが、その処分を頼まれるのもある意味もっと大変だった。

でもやらなければどうにもならないのは明らかだったのでYにも一緒に作業してもらう事にし、ある1日、私達は明けても暮れても古い書類と睨めっことなった。

その20数年分の書類の量たるや、気が遠くなりそうだったが、昔の事でご丁寧にクリップやホチキスなどで留められている。 それを要不要に判別しいらない書類はダンボールに詰めていた私達にケチ男がニコニコ近付いてきた。

彼のことだからご褒美のアイスをくれるわけじゃないな・・・とは分かっていたが、果たしてその笑顔から繰り出された発言に、私達は凍りついた。

「クリップ外さないと、勿体無いお化けが出るよ」

「・・・・・」

ただでさえ、ケチ男の書類は上から入れる透明なポケットのついたファイルに収納されているものも多く、取り出すだけでも面倒なのに、クリップも取れと言う事らしかった。

まったく名実共にケチの王道なのだ。

気が狂いそうになりながら、私達は半ば意地になってクリップ類も外し、こんな作業なのに夜まで残業し1日で終らせたのだが、良く見たら大きなおせんべいの缶に2つのクリップが集まっていた。

ようやく終ったと思った頃に、我に返ると空腹なのは当然だった。

それを察したようにケチ男がまたもやニコニコ近付いてきて

「助かったよ。ありがとう!ご飯食べる?残業食取ろうか??」

「・・・・・」

まったく悪意のない人ではあるが、どんな場合でもケチ男はケチなのだった。

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大規模プロジェクト5

何が何だか分からないうちに、プロジェクトメンバーの意思を無視してさっさと進み始めたプロジェクトはメンバーの忙しさとは一切関係なく、どんどん佳境に差掛かって行った。

IT担当、Oさんと私の最初の大仕事であるキャビネや様々なものの大きさを測る作業では、それを専用ソフトで平面図にし、業者と打ち合わせるというおまけが付いてたが、この業者がまた ”なんちゃって”だった。

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プロジェクトメンバーだからやっているとは言え、計測などはまったくの素人なので、もちろん業者にもしてもらったがそれが間違っている。 計測値を付け合せると全く違うし、それを元にレイアウトしているので、私達の図では入るわけのない場所にしっかりはまってるキャビネなどが多いのだ。

プロの仕事だから間違いない、と計り直しは辞退したが、ヘラヘラ笑いながら「まぁ念のため」と言う業者を見て下らない自慢をしたいんだなぁ・・・忙しいのに面倒だなぁ・・・と感じながら、しぶしぶ付いて行った。

就業時間中でもあり、社内で仕事をしている社員たちに会釈しながら、彼はおもむろに専門的なメジャーを大袈裟に取り出し、さも慣れた手つきでキャビネを計測した。 1度目は失敗したようだが余裕で計り直した。

ところが何度計っても彼の信じている数値ではないらしく、次第に汗をかき始め動きも早くなっていった。

ただでさえ時間がない私達はイライラしたが、彼は私達はもちろん、周囲の景色が何も目に入らなくなったらしかった。

慌しく動き回り、おかしいな??と小さく独り言を繰り返し、何度計っても変わるわけのない数値が、間違っていると何とか証明しようと必死になって、もがきまくっている。

その姿はクモの巣に引っ掛かった昆虫のようで、プロなのにヘンなの!と、その慌てぶりがおかしく、でもちょっぴり可哀想で、私達はどうしていいか分からなかった。

結局、ずぶの素人の私達の計測がことごとく合っていて、彼はそのデータをPCで送付してくれと頼んでくる始末だった。

普通、クライアントが大体の希望を言い、それに沿って専門の業者が詳細なレイアウトを行いものだが、今回はどうした事かクライアントがレイアウトの詳細を決め、実行に移すという、奇妙な事になってしまった。

元々プロジェクトマネージャーが仙人でメンバーは苦労していたので、せめてレイアウトくらいはプロにビシッとやって欲しいと切望していた私達の願いも空しく、業者は毎日、安心したように足繁く私達のもとに通い始めた。

そしてちょっとだけ仕事の話を盛り込んだ世間話をして、何故だかゴキゲンに帰っていく。

あまりな事に、現責任者のおぼんや、その他の関係者に相談したが、再度業者と話し合ってみても埒も明かず、時間もないのでその業者と最後までタッグを組むことに決定した時の、私たちの落胆と不思議な責任感は、何と説明したら良いのやら。

結局、この業者は引越し当日までこの調子で、実質的に引越し業者を指揮する事まで、私達がやるようになるとは流石の私達も想像していなかったのだが、もちろんこの時は目先の事を見るのが精一杯で、気付く由もなかった・・・。

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大規模プロジェクト4

何度も書いているように、このプロジェクトのリーダーは「仙人」である。

リーダーと言うのはその名の通りメンバーをまとめ、プロジェクトを適切な方向に導き成功させるのが義務である。 それは本人も充分分かっていると思うが、何故だか彼は全く何もせず「飄々としている」という表現がピッタリの日々を過ごし、一人だけ場違いなほどゴキゲンである。

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当然、最初はみんなその無責任さに怒りを感じていたが、何事もそうであるように、ある一定の基準を超えた常識外れに対しては怒る気もなくなるのは時間の問題だったので、彼の事は「いないもの」として、すっかり透明人間扱いになり、誠におかしな事態だがリーダー抜きでさっさとプロジェクトは進み始めた・・いや、彼を除いた事でようやく進み始めたと言うのが適切かもしれなかった。

社内インフラ担当のOさんと私しか実質的なメンバーがいなくなった時、A社の勘違いでお節介な人々が、正義感をふりかざして立ち上がったのは予想通りの展開だったのかもしれない。

何より真っ先にクビを突っ込んできたのは「勘違い女王」おぼんである。

しかもお得意のハイヒールをコツコツ言わせながら私の所に歩み寄り「安心して下さい。これからは私が仕切ります」と大真面目な顔をして言い放ったものである。

面食らったのは私達だった。

リーダーが変わるなど聞いていないし、何よりおぼんの性格を熟知しているので、些細な事が大騒ぎになるのは、火を見るより明らかだった。

彼女は決して悪人ではないし、仕事を一生懸命するのは確かなので、私達としては、逆に彼女を上手く使う事が重要課題だが、とにかく何事も大袈裟になるのには閉口だった。

彼女としては私達が骨身を削ってプロジェクトを遂行しているのを見ているし、”結構高い地位にいるのに、私達にも丁寧に接している自分”が大好きなので、毎日様々なお伺いメールが飛んでくる。

果たして頼みもしないのにプロジェクト全般について細かく質問し、今までの経緯報告のためのミーティングが開催される羽目になった。

ただでさえ時間が足りないのに迷惑至極な話だったが、取り敢えずプロジェクトにかかる費用の申請や許可などの役を彼女が買って出てくれたのは、ありがたいと言えなくもなかった。

どうしても勘違いな性格の彼女は、勝手に買って出たリーダーとは言え、私達の上に立っている~それは現段階で1番大きく重要な社内プロジェクトのリーダーである事を意味していた~と思っているのか、益々張り切りだした。

自分の容姿や働きぶりによって、本人の意思と関係なく目立っていると勘違いしているのが、元々目立ちたがりな性格なので従来の仕事そっちのけで、キャビネの移動を手伝ったりしている彼女を、周囲の関係者は苦々しい思いで眺めていた。

そんな事は気付かないのか、かなり窮屈そうなタイトスカートにも拘わらず生き生きと肉体労働にも精を出し始め、5分も働いていないのに大袈裟に汗を拭い、終ると私達に大きな声で労いの言葉を掛け、相変わらずコンビニアイスを配るのに余念がなかった。

おまけに私達がキリがないので帰ろうと、彼女の様子を見に行くと「まだ少し片付けものがあるのでどうぞお先にお帰り下さい」などと、疲れた微笑を浮かべた顔でやけに丁寧に言い、今度はあたかも自分が会社を背負って立っているという勘違いに酔い始める始末だった。

こうして何が何だか分からない状態でプロジェクトは転がり始め、私達はまたもや勘違い会社の人々に振り回されるのだがこの時はまだエピローグに過ぎない事に気付いてないのだった・・・。

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大規模プロジェクト3

相変わらず勘違いの上に成り立ってはいるが、前段階の準備も終わり、いよいよ本格的に引越しプロジェクトが始動する事になった。

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以前書いたように、このプロジェクトのリーダーは「仙人」である。

キックオフでミーティングの日程を決めたにも拘わらず、一向にミーティングは開催されないばかりか、プロジェクトなんて全く知らないという顔つきで、日々暢気に過ごしている。

仕方がないので他のメンバーで少し準備を進めながら、様々な判断を仰ぎに行くと「分からない」とか「適当にやっておいてよ」などと威厳のかけらもない発言を繰り返し、まったくインチキ仙人を地で行っていた。

最初はA社でのキャリアが長くない彼が、仕事に追われて大変なのだろう・・・と暖かい眼で見ていたメンバーだったが、毎日ノーテンキな世間話に余念のない、彼の笑顔を見ていると、自分たちの考えに疑いが芽生え始めた。

要は「やる気がないのでは??」と言うものだったが、それが図星なのは彼の行動を見れば明らかだった。

プロジェクトと言うのは期限や予算が決まっているが、特に社内プロジェクトなどの場合、できるところは自分達でこなす事になる場合も多い。

我が引越しプロジェクトもその通りだったのだが、その「自分達でこなす」事の中には、社内のレイアウトなどと言う、本来ならその道の専門家のすべき作業も含まれているところがまた、A社っぽかった。

しかもこの作業の驚くべきところは、現在使っているキャビネを全て持っていくというもので、おかげでIT関連業務で選ばれたOさんと私の女性2人は、数え切れないほどある全てのキャビネや袖机などの大きさを測る事が、最初の重要任務となった。

プロジェクトメンバーとは言え通常業務がある上、昼間は社員が使用しているキャビネなどを動かす事は不可能だったので必然的にそれは「夜の作業」となった。

今思えば、女性2人で夜の9時頃から、よっこらおっちら、メジャー片手にキャビネを動かしている様は不気味と言えるが、この時の私達は真剣である。

ここで、プロジェクト開始の多忙な時期に「仙人」は何をしていたか、書いておく必要があるかもしれない。

その①

「仙人」が何もしない事に頭に来たある社員が彼のデスクに行った時、一目で業務に関係ないネットを見て楽しそうに笑っていた。

勿論、同じエリアには彼の部下がたくさんいて、それぞれ真面目に仕事をしているのに、である。

その②

「仙人」が来客中に彼の席に行った社員は彼のメール全てが「未読」だったと証言した。

その殆どは、エグゼクティブ・マネジャーという重要なポジションにいる「仙人」への、承認申請や質問・許諾などという、本人が見なければ先へ進まない、速さと正確さを必要とするものばかりの筈なのだが・・・。

その③

当然、定時より早く「寄るところがある」などと言う不透明な理由で。

通常業務やプロジェクトの進捗を全く気にする事無く、軽く手を挙げてにこやかに帰って行く。

このようなプロジェクト・マネジャーの元、コンサルであるメンバーの1人が担当している重要な社外プロジェクトに大問題が生じ、彼は全てのウィークデーをプロジェクトの作業場所である、日本海側の都市で過ごすという事態となった。

プロジェクト・マネジャーはいないも同然、メンバーの1人は不在となり、Oさんと私はそれこそ死に物狂いとなった。

まったく、肉体労働を含むこのプロジェクトを動かすのが、社内インフラ設定用に選ばれたOさんと、派遣社員の私だというのが滑稽極まりないのだが、ここでもA社らしさが存分に発揮されてると言えるかも知れない。

この後、様々な勘違い人間がこのプロジェクトに関わるのだが、それは次回に!!

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大規模プロジェクトⅡ

何とかキックオフミーティングをクリアした「引越しプロジェクト」だったが、外資は新しい会社と言えども20年以上の業歴のあるA社なので、その時に向け、整理整頓する必要のある書類は山のようにある。

それを引越し直前に片付けるとなると至難の業で、結局全部移動させるというような事態に成りかねないので私は比較的ヒマなお盆の時に、各部のキャビネ整理をするよう提案した。

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イヤな顔をされるかな?というYと私の予想を全く裏切り、さも素晴らしい思いつきだと言わんばかりに、何故だかみんなが張り切りだした。

「書類整理」という、何とも単純な名前のついたその作業は、お盆の1週間前くらいから各部で手順などが決められ全社的なイベントとなっていったが、こういう時に目立ちたがるのが、勘違い女筆頭のおぼんだ。

何度も書くようだが、おぼんは自分はバイリンガルでIT企業と言う最先端の会社で、エンジニアとしてトップに立っている、しかも男性が全員よだれを垂らして自分を見ていて、服装のセンスは全社員の注目の的・・・と、どうしてそんなに自分を美化できるのか、首をひねりたくなる思考の持ち主で、今回は一流のエンジニアでありながら、書類整理などという肉体労働的な業務にも率先して汗を流す自分にも酔っていた。

A社の自社ツールはどれも高額で、その中で1番安価な50万のソフトは、その値段の割には良く出来たスケジュール管理ツールだが、おぼんは頼みもしないのにそれを使って詳細なスケジュールを立ててくれた。

でも彼女はこの時点ではプロジェクトメンバーではないので、あたかも「縁の下の力持ち」であるかのように、表に出たくないフリを貫いていた。 準備期間を慌しく過ごし、各種注意事項などを掲示板に載せたりしていると、あっという間に当日になった。

お盆でもあるし、男女ともTシャツなど動きやすい服装で出勤したその日、いつもは「忙しくて疲れている」という、他社では全く通用しない理由で11時ごろ出勤してくる彼女が、9時前に会社に来ていただけでもビックリだったのに、軍手に防塵マスクを身に付け、当時流行っていたカーキ色のワークパンツで意気揚々と社内を駆け巡っていたのには、笑うしかなかった。

どうやら彼女はサポート部隊の指揮を取っていたようで、これはあっち、それは箱に詰めて、などという声が聞こえていた。

書類などと言うものは、その時には大切だと思ってファイルしておいても、以後20年数年来放置されているなどというものも多く、いざフタを開けると処分にも時間が掛かるし、環境に配慮する事が声高に叫ばれ始めた頃だったので、その分別だけでも一仕事で、進捗状況に関わらず無常にも午後になってしまった。

ランチもそこそこに必死で片付けていた私達を、おぼんの声が捕らえたのは、いい加減体力がなくなってきた頃である。 おばさんでもあるまいし、注意を引くためなのかパンパンと手を叩き「一休みして下さぁい」とコンビニで買ったらしいアイスキャンディーの箱を、うやうやしく冷蔵庫から取り出した。 まるで家の改築をしている大工さんのおやつタイムのようだったが、日頃PCに向かってばかりいるA社の社員は、確かに甘いものが食べたいと感じるほど疲労していたので、ありがたく頂戴する事にした。

それを尻目に、おぼんはまだアイスが行き渡ってない人たちに、「些少ですけれど」などと、いつも通り全く間違っている言葉遣いで腰を低くして言って回っていた。

にこやかに「ありがとうございます」と言いながら、ちゃっかりソファに座ってアイスを食べていた私達は、その姿を見ながら、この分では引越しが近付いたら、目立つ事にだけ、どれだけしゃしゃり出るか知れたものではないな・・・と同時に感じていたが、これがまんまと図星になるのを、このとき私達は確信していたのかもしれない。

でも、これはまだ引越しプロジェクトの、ほんの序曲に過ぎない事に気付くのは、もう少し後だった。

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大規模プロジェクト

A社の業務は様々なプロジェクトと深い関係がある・・・というかプロジェクトで成り立っている。

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そしてごく稀だが中には社内プロジェクトもあり、何故だか私は、その中でも大規模なものに関わる羽目になった。

「引越しプロジェクト」・・・それはそう呼ばれていた。 良く考えると、全てのプロジェクトは関わる人が決まっているが、自分たちのオフィスが移転するこのプロジェクトは社員全員に関係ある事なので、最終的には大騒ぎになるのだが、今日はその序盤から。

それは、そろそろ昼休みという時間帯に突然上司からこう告げられた。

「オフィス移転のプロジェクトチームが立ち上がるんだけど、営業代表を頼めないかな?」 社員でもない私が・・・と散々固辞したが、丁度その頃の営業部隊はとてつもなく大きく重要なプロジェクト始動に向けての大切な時期、しかもそのプロジェクトは大阪だった事もあり、週の半分以上は営業部隊が留守がちになるという事情から「社員でなくても対等に意見を言える」事を条件に、最終的には引き受けざるを得なかった。

そして各部から選出されたプロジェクトメンバーが集まりキックオフミーティングが開催された時、まだこのプロジェクトがそれほど大変だとは思われていなかった証拠には、メンバーはたった5人だった。

これからのメンバーそれぞれの役割と、毎週同じ曜日の同じ時間帯にミーティングをする事を決めてキックオフは終ったが、このプロジェクトのリーダーが振るっていた。

そのプロジェクトの性質から当然とも言えるが彼は管理部門の責任者で、その役職はエグゼクティブ・マネジャーだった。

彼もまた高学歴&バイリンガル大好きの女王様のお眼鏡にかなって入社した、外資畑を歩んできた人だが、外資にありがちなカッコつけた雰囲気や、人を寄せ付けない個人プレー、いかにも高給取り的なバリっとした様子ではなく、どちらかと言えばざっくばらんな、所謂「どこにでもいそうなオッサン」ちっくな感じだった。

外資は特にスーツを着なくてもいい職種の人も多いが、彼はその役職から最初の頃は毎日紺のスーツに身を包んでいたが極度の寒がりのようで、秋めいてきた頃には、ただでさえ厚ぼったいカウチンセーターに毛糸のマフラーで口まで隠し、まるで風邪を寄せつけない!という決意の表れでもあるように、おおよそオフィスには不似合いな姿になり、冬にはカウチンが野球の監督のジャンパーにようなものに「進化」してしまった。

まったく彼は、仕事に関係ない世間話は延々とするが、仕事の事になると「またあとで」と、良く分からないタイミングで軽く手を挙げ去っていく。

忙しいのか・・・と思い、相手がメールでその内容を送ると、いつまで経ってもレスはなくこれまたそんなに忙しいなら・・・とポイントだけでも訊こうと思って席に行くと早退していたりする、なんとも浮世離れした、仙人のようなオッサンなのだった。

その彼がリーダーを務めるプロジェクトなので最初から雲行きは怪しかったのだが、取り敢えずキックオフミーティングは何とか終了した。 この後様々な不思議で不可解で、でもA社らしい出来事が勃発するのだが、それは次回のお楽しみ。

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高学歴な食い倒れ

キョーレツな異臭と共にA社に入社した食い倒れは、入社前から、日本では最高の部類に入ると思われる高学歴が、期待と羨望の眼差しと共に社内の人々の口の端にのぼっていたが、Yと私はそんなモノは頭から信じていなかった。

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そもそもA社には、彼ほどではなくても高学歴はゴロゴロいる・・・というより高学歴の人しかいないのだ。

でも彼らが人間として、社会人として優れているかと言えば、まったくそんな事はなく、ハッキリ言って短大卒の私達の方が、ずっと頭の回転が早いのは明らかだった。

なので日本最高峰の学歴だからと言って、特別な期待は全くしていなかった。

遂に運命の日・・・食い倒れの入社日がやってきた。その学歴ばかりが注目されがちだが、特に女性陣はどんな男性か気になるのが人情だったが、小柄でやや猫背の体格を包むスーツは、まるで昨日買ってきたように「取ってつけた」様子で、手の甲まで掛かりそうなほど長めの袖でありながら、パンツはくるぶしが見えるほど短いという、誰もが噴出しそうな姿で登場した。

服装に関しては、失礼ながらこの学歴ならアリかな・・・という気もするので、不思議な事にみんな納得していたが、仕事となれば期待してしまうのは仕方ない事だったのかもしれない。

少し仕事に慣れた頃、高学歴大好きの女王様は、これから彼が参加するプロジェクト名をじーじに伝えた。

このあたりも流石は女王様で、食い倒れの高学歴だけが好きなので、彼に直接言う事はしないのだ。

言うなれば食い倒れのように「高学歴だが男性としては全く興味がない」タイプは、仕事さえきちんとやってくれたらそれでいいという感覚なのだった。

そのプロジェクトは西陽がリーダーのもので、食い倒れ入社時には面倒な導入部分はほぼ終りかけていたので、食い倒れの役目はその決まったシステムをお客様の要求通りカスタマイズして正常稼動に持っていくことだった。

これは卒業後ずっとシステム系の仕事に携わっていた、自称「ハイクラスエンジニア」の彼には、朝飯前・・・のはずだった。

最初は西陽と同行してプロジェクトについての詳細説明を受け、そのうちに単独でシステムに向き合う事になったがこれがお客様のキョーレツな怒りを買う事となった。

何しろプロジェクトの基本であるお客様のニーズを理解できないばかりか、自分の知識にやたらと自信を持っているせいかお客様の話も聞かなければ、挙句の果てにわけの分からない持論を振りかざし、呆れ返ったお客様が閉口して黙ると、自分の知識の前にひれ伏したと勘違いしていたようだった。

そうとは全く気付かず何度かそんな失態を繰り返した後、遂に苦りきったお客様の担当者から女王様に連絡があった。

食い倒れからの報告と全く食い違った内容のその電話は、会社の大損害に繋がりかねない驚愕の事実が満載で流石の女王様も言葉を失う程だった。

お客様は冷静に自分たちがどんなに困っているかを報告し、最後に「御社もうちのプロジェクトに、あのような担当者を付けなければならないなんて大変ですね」と、半分哀れむような口調で言ったらしいが、即担当者の交代を要求されたのは当然だった。

電話を切ってすぐさま、食い倒れは関係者一同に詰問されたが、彼は心底そう信じているかのように自分は間違っていないと力説し、お客様が怒っているとすれば○○が悪い・・・とシステムやその周囲の事柄のせいにするという、まったく大人とは思えない幼稚な言い訳を繰り返すばかりだった。 思った通りである。

高学歴などは妙な自信を持つだけで、人の気持ちが判らない人間を作る手助けをする事も往々にしてあるものである。 これを機に女王様も心を入れ替えるだろう・・・とホッとしたのも束の間、また高学歴な社員を雇い入れるのに余韻がなかった。

まったく、高学歴だけが自慢の食い倒れと言い、こんな大失敗をしたのにまた同じ過ちを繰り返す女王様と言い本当にA社は勘違い集団だという事を改めて思い知った事件だった。

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やっぱり彼も・・・

このブログに最多出場している「おぼん」は、どうしてここまで勘違いできるのか、何が彼女にそんな自信を植え付けるのか、私達からはまったく理解できない思考の持ち主だった。

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仕事だけではなく、女性としても自信満々で、世の中すべての男が自分を狙っているというほとんど被害妄想的な発想をするのも彼女の特徴の一つだが、傍から見ていると何とも面白いその行動も、ターゲットにされた人には迷惑なだけにしか映らないのは当然だった。

同じくこのブログへの登場回数が多い「西陽」は、自他共に認めるフェミニストなので、女性には気を遣っている・・・というか女性に気を遣っている自分に酔っているのだが、いくらなんでも好き嫌いがあるのは仕方がなかった。

例えばYと私は、頻繁に彼にご馳走になるが、そんな時彼は必ず、自己への嘲笑が混ざったような、でもやっぱりそんな自分に酔っている表情で「何のメリットもないのにご馳走した女性はキミ達が初めてだよ」と言うのが常だったが、それでもメリットがないだけに人間対人間として本音で話せるのが楽しいらしく、その集いが終わる事はなかった。

おぼんは男好きだが、どうやら「こざっぱり」して自分に優しい男が好みのようで、西陽もまぁまぁそのお眼鏡に適っているらしかった。

ある日の午前中、私が西陽の後ろの書棚に必要な本を取りに行った時、おぼんが西陽と楽しそうに談笑しているのが目に入った。

そして彼女の手に2ヶ月が一目で見られるカレンダーが握り締められていたのを横目で見ながら、特に気にせず書棚に向かった後、2人の会話が勝手に耳に入ってきたところによれば、どうやら執拗におぼんが西陽を食事に誘い、西陽が困惑している様子だった。 おぼんは手に持ったカレンダーを2人の間に広げ、いつなら都合がいいか、聞きだそうと必死である。あまりの執拗さに閉口した西陽は、そばに仲良しの私がいる事に気付き、咄嗟に逃げ場にしようと思いついたらしく「この間話したこの店、いつ行く?」と、急に話を振ってきた。

驚いたのは私である。

そんな話はしてないし、おぼんはまだ西陽の隣に陣取っている。西陽はその場を切り抜けたい一心で、さも前から私とそのお店について話し合ってたような素振りで、偶然手元にあった男性向け高級志向情報誌のグルメページを広げ、私に同意を求めたのであった。

アテ馬にされてる私は迷惑極まりなかったが、いつもご馳走になっている立場と、何より彼の瞳に浮かんだ必死の懇願の色が、私に心を決めさせた。

「そうですねぇ・・・来週あたり行きましょうか???」と、おぼんの存在など忘れたように入れたアドリブを受け、「そうだね。割り勘でねっ!」と、こちらも全くおぼんを無視した角度で、ホッとした 笑顔でウインクする西陽は満足げで、それはまるで「キミの割り込む隙はないんだよ」「俺たちはこういう冗談をいつも言い合ってるほど仲良しなんだよ」と、おぼんにアピールしているようであった。

プライドの高いおぼんは、ここで怒るほど私はモテない女じゃないわ・・・という勘違いをしてくれたようで自分宛の電話で呼ばれたのをいい機会と、何も言わず、優しげな微笑を浮かべながら立ち去った。

後で聞いた処によれば、おぼんは何度も何度も西陽のところにカレンダー持参でやって来ては、同様のバトルを繰り広げていたそうで、流石のフェミニスト西陽も困り果てていたそうだ。

彼曰く「彼女と食事なんて行ったら、ご馳走した挙句『西陽に誘われちゃった』なんて言われて『やっぱり彼も私を狙ってるのね』とか『下心ありあり』なんて、ありもしない事を言いふらされるんだから冗談じゃないよ」と思っていたそうで、私達は彼の、珍しく賢明な選択を褒める事にした。

何はともあれ、おぼんの超ド級勘違いから逃れられた事は、彼にとても感謝され、彼がおぼんへの当て付けに広げたグルメページのお店でご馳走になったのは言うまでもない。

食べている間、私達はおぼんの勘違いに感謝し続けた・・・かな。

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社長就任!!

技術部→コンサルの各事業部長を経て、現在は副社長となっている女王様は、関西の一流大学を出て大手製鉄会社にOLとして勤務したのが社会人キャリアの始まりである。

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以前聞いた処に拠れば、かれこれ30年前のその時代、お茶入れをしたりコピーをとったりと言った「フツーのOL」だったそうだ。

一流大学を出ても、女性であるというだけで誰でも同じような仕事しかなかった時代だったそうで、案外当時の女王様は普通にこなしてたらしい。

ところが周囲の上司達が女王様に「こんな仕事をしているのはキミには勿体無い」と言い出し、それが現在のITキャリアを築く第一歩となったらしい。

その事に女王様は感謝してるようだし、そう聞くと実に先見の明のある上司達と言えるが、本当のところは女王様に早く出ってて欲しかったのでは・・?と勘ぐってしまう私達なのだった。

ひとクセもふたクセもある女王様だが、彼女がかなりの努力をして、現在の地位を築いた事は誰もが認めているところである。

今の若い子だったらとても我慢できそうもない、理不尽な仕事や就業体制をものともせず知識と経験を積むには、先ず人より強靭な体力と精神力ががなければならないし、割と早めに結婚し「いい奥さん」をしていたのに、短い年月で破局を迎えた事も、ある意味では彼女の仕事への執着のせいと言えなくもなかった。

なので、がむしゃらに仕事をしてきた彼女が順調に出世をし、外資であるA社で初の「生え抜き社長」となった事に、社内では喜ぶ声も少なくなかったらしい。

こういった事は、実際の就任よりかなり前に社内外に聞こえるものだが、就任日のその日は何となく社内がザワついていた。

別に特別なセレモニーがあるわけではないが、とにかく女王様の「お言葉」があるらしいのだ。

規定の時間に一番大きなミーティングルームに全員が集まり、ある人は緊張気味に、またある人は会社の未来に明るいものを見出したような希望に溢れた顔で、彼女の登場を待った。

果たして、相変わらず忙しい女王様は予定より10分ほど遅れて現れた。

あまり社員に好かれているとはいえない彼女だが、とにかく社の事を何も知らずにやってきて、あーでもない、こーでもない・・と掻き回すだけの「雇われ社長」にうんざりしていた一同は、社内の稼ぎ頭で生え抜きの彼女の就任に、”前よりはマシだろう・・・”という、儚く、でも確固とした期待を持っていたので、彼女が部屋に現れると、自然と拍手が沸き起こった。

そして派手めな、いかにも関西人という顔に満面の笑みを浮かべ、小柄な身体に自信と期待を漲らせている彼女の第一声を、静かに待った。そしてその言葉は、少なくても私達の眼を瞠らせるのには充分だった。

「企業とは・・!稼いでこそ企業といえます!」 新入社員研修じゃあるまいし、ただでさえ平均年齢の高い会社で、今更そんな言葉が必要なの??

第一、そんな事を知らない人がいるの??

今、この言葉を聞く事にみんな納得なの??もう、私達はパニックだった。

そして大きく深呼吸をし周囲を見渡すと、いかにも納得しているような、「こういう人を待ってたの!」的な羨望の眼差しとでも言える視線を女王様に送っている、おぼんやおっかさんが目に入った。

一瞬、私達も彼女の手腕に期待しそうになっていたが、この言葉と光景を目の当たりにして我に返った。

そして『会社自体が、勘違いの上に成り立っている』という事に、改めて気付いたのであった。

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キョーレツな登場人物

それは暑い暑い、夏真っ盛りな日の夕方だった。

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金曜だったので私は早めに帰りたくて、さっさと仕事を片付けるべくピッチをあげて仕事をしていたがのそのそ~っと、じーじが近付いてきて「お茶2つ、ミーティングルームにお願い」と言ってきた。

来客の予定はなかった筈だけど??と思いながらも、涼しげな器に冷茶を2つ用意して、指定された部屋をノックし、うやうやしく一歩足を踏み入れた途端、私はめまいがしそうな感覚に襲われた。

????なんだろう・・・この異臭は???

息もできない状態に追い込まれながらも、持ち前の愛嬌で「いらっしゃいませ」とニッコリ微笑んでお茶を出そうとした瞬間、そのお茶を飲むであろう相手が、その眼もくらむような異臭の基だと気が付いた。

見ると、ただでさえ暑苦しそうな、うっすら吹き出物の浮いた顔に、これでもか!というほどかいている汗を拭こうともせず、口を半開きにして肩で息をしている彼は、道頓堀の有名人『食い倒れ』のそっくりだった。

しかもその姿で意気込んで喋っている彼は、どう見ても滑稽な生き物にしか見えなかった。

とにかく、この場を逃れなければ・・・という事しか考えられなくなっていた私は、それでも控えめな微笑を絶やさずに礼儀正しく退出すると、今度はこちらが肩で息をする羽目になった。

暫くしてミーティングルームから出てきたじーじに「彼、取引先の人なんだけど、どんな印象だった?」と訊かれた私は、ヘンな事訊くなぁ~と思いながらも「例えば彼がコンサルだったら、お客様と話す時にあの感じじゃ取引不成立ですね」「焦って、畳み掛けるように喋る様子が、落ち着きがなく見えますね」などと、正直に話した。

金曜なので、その事はすぐ忘れてYと一緒にさっさと帰途についた道々で、面白おかしく、『食い倒れ』の話をしていた時、Yが大笑いしながら「どんな異臭なの?」と訊いてきたので、暫く考えて「獣のような腐ったような酸っぱい匂い」と言った私は、あたかも彼がそばにいるような異臭を思い出して吐きそうになったのだが、その後のYの発言は、ひっくり返るほど私の気を動転させた。

「じーじが今日の夕方、面接があるって言ってたよ」

ガーーーーン!!食い倒れて社員候補??もし入社したら毎日あの異臭がするの??

もう私は完璧なパニック状態だった。 Yと私は「食い倒れが面接で受かるわけないよね」と、自分に言い聞かせながら言いながら、もし彼の学歴がとっても高かったら社員になっちゃうかも・・・と一抹の不安を抱えて駅に向かっていた。

そんな事も、楽しく過ごした週末のうちにはすっかり忘れ月曜を迎えた私達は「すごい高学歴の人がコンサルに入るらしい」という噂を聞きつけ、背筋に冷たいものを感じた。

じーじに確認するのは怖かったが、何としても嘘だと信じたい気持ちから、私は早速じーじの席に行き真偽を確かめた。

するとじーじは本当に困ったといった顔で「俺はKも言ってた通りの印象を受けたから断ろうと思って女王様に報告したら、そんな高学歴の人を入社させないなんておかしいって言うんだよ。女王様もチラッと会ったんだけど、気に入らないのは髪形だけって言うんだ・・・」と話したのである。

余談だが女王様の好きな男は、全員髪型が「センター分け」という共通項があったが、食い倒れはとにかく髪がボサボサで、分け目がどこか・・・などと言う事は二の次という有様だった。

ただでさえ憂鬱な月曜は、このじーじの発言で益々ブルーになった。

最終的な全ての権限を握っている女王様は、とにかく高学歴や、英語・システム系の資格を持ってる人が大好きで、人物など全く気にせず、バンバン入社させるクセがあったが、さすが稀に見る男好きの彼女は、彼にはまったく「男」としての魅力は感じないらしく、評価の対象は、その高い学歴だけだったようである。

彼は入社後、やけに高い学歴は何の役にも立たないという事を次々と証明して見せるのだが、そのエピソードはまたそのうちに・・・・・。

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個性派ファッション

人生で一度だけしか輝いた事のないSさんは、148cmと小柄だった。

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普通ならそれだけで男性の興味をひく事もあるのだが、彼女は常にふてくされた顔をツンと突き上げ、不機嫌そうな顔をしているばかりか、単なる日常会話も刺々しく、全ての人を敵と見ているような有様だったので、特に男性陣にはまったく評判が悪かった。

しかも技術部所属ではあるが事務方、という立場でありながら「どうして私がやらなきゃならないの?」と言う気持ちを常に態度に出すので、次第に周囲が彼女を避け始めるのも自然の成り行きだった。

何しろこの会社は技術者集団で、事務方と言えば総務部と私とYしかいないのだが、彼女がいつもこの調子なので、全く別の部署なのに技術部の人が細々とした事を私に言って来るのも仕方なかった。

A社の事務方はデフォルトの仕事+「みんなのお世話係」的なポジションなのだが、彼女は何を勘違いしているのか、お世話が罪悪でもあるように毛嫌いし、益々不機嫌な顔になるのだった。

彼女の滑稽さは、こんなに「ご立腹」なのに周囲の人達から苦笑されている事だったが、それは彼女の、良く理解できない怒りの風情に加え、服装に原因があるらしかった。

148cmと小さいわりに細くはない身体を包むそれは、大きいのか小さいのか良く分からないという、何とも妙なものだったが、中でも某6大卒のKさんが見るたびに大爆笑していたのが、モスグリーン系チェックと思われる、冬のワンピースであった。

襟や袖などは丁度いいらしかったが、どうにも長い。

マズイ事にそのワンピースはウエストのくびれが全くない ”ズトン”としたもので、くるぶしまであるワンピースが余計、彼女に不釣合いで、Kさんは「あ・・またSさんパジャマで会社に来ちゃったみたい」と、抑揚のない声で言いながら、楽しそうに大爆笑するのだった。ところがご本人はこれをいたく気に入っているようで、彼女的な「特別な日」には必ず着てくる。

逆に、30半ばを過ぎているのにも拘わらず、小柄なのが自慢なのか膝上10cmくらいのスカートもたびたび登場する。

そんな時のトップはやけにピチピチのTシャツやセーターだからたまらない。

細くもない彼女の身体が強調され、またもや違う意味で男性陣の眼を釘付けにする。

こうして人生で一度だけしか輝いた事のない嫌われ者のSさんは、奇妙なところで周囲の人々の視線を独り占めしていることに気付いていないのも、何とも皮肉な展開だった。

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こわ~い女

A社には勘違い女性が多い・・・と言うか、殆どの女性が自分に都合のいい勘違いをしている。

技術部の事務方のSさんもその1人である。

もっとも彼女がサポートする人々は、おぼん・化粧水・噂のチャンネル、そして上司はおっかさんという最強メンバーが揃っているので、影響を受けたという見方も出来なくはないが、どうやらSさんは元々ひねくれ屋で、猜疑心が強く、一言でいうと「性格が悪い」のだった。

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自分に影響力の持っている、おっかさん始め彼女がサポートする人々には、影では悪口を言っても表面上は卑屈なほど従順で、しかも自分の気に入らない人への仕返しに彼女たちを利用する狡猾さも持ち合わせている、まったく油断のならない事務員だった。

彼女は私達が、社内の男性陣と何のわだかまりもなく仲良くしているのが、殊の外気に入らないようで、西陽と私が喫煙室でグルメ話をしているところに彼女がやってきた時の事・・・ 実は西陽はSさんが大嫌いなのだが、自他共に認めるフェミニストの彼は彼女が話に入れないと可哀想だと思ったらしく、「子羊って美味しいよね」と、お決まりのポーズでちょっぴり自分に酔いながら、話を振った。

普通の大人なら、適当に話を合わせるのだが、ひねくれ者の彼女の答えはふるっていた。

「あの匂いが嫌い」と、ニコリともせずそっぽを向いたのである。

狭い喫煙室は一瞬凍りついたが、それでもフェミニストの彼はひるまなかった。

そんな反撃は痛くも痒くもないという薄笑いを浮かべながら「でもさ、岩塩だけで焼いた子羊は絶品だと思わない?」と続けたのである。

Sさんは、会社の男性にちやほやされたい、美味しいものをご馳走になりたい、注目されたい、認められたい・・・と思いながら、自分に全く見合わない自己顕示欲が強過ぎるために全く逆効果にしかならないジレンマにイライラしているせいで、ひねくれ者になっているようなので西陽のこの言葉にムカついたらしい。

「そんな高級なもの食べた事ないから分からないの!!」と吐き捨てて、プリプリ出て行ってしまった。

流石の西陽も苦笑していたが、Sさんは誰にでもこの調子で、特に自分をちやほやしない男性には目くじらを立てるのだが、考えてみたらSさんをちやほやする男性など、どこを見渡してもいるわけもなかった。

そう言えば、いつも不機嫌にムクれている彼女にも、人生でたった一度だけ輝いた瞬間があった。

飲んだ時に少し自慢げに話していたのだが、東日本の政令指定都市出身の彼女は、小学校時代に地元のデパートで開催された「ピンクレディーコンテスト」に出て、渚のシンドバッドを見事な振り付けで歌い踊ったというのだった。

もちろんコンテストに入賞していない事は、彼女の話が出場したところで終っているので明らかだが、その話を聞いた時、何十年も生きていて最大の自慢がそれなのか・・・と思ったら、Sさんの性格がひねくれるのも仕方ないのかな??と思えなくもなかった。 とは言え、結局彼女は殊に男性陣に嫌われていて、まだエピソードがあったりするので、そのうちに・・・。

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ネタ系勘違い

社内の勘違い女NO.1のおぼん

は、いつでも世の中全ての男が自分を落としたいと思ってるとも勘違いしているらしく、「私ったら罪なお・ん・な」と、ありもしない男性の視線を集めているという、根拠のない自信をふりかざして歩いているような女である。

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不倫してるじーじが、妻子を捨ててでも自分と結婚したがってると思っていたり、社内イチ若い20代後半の男性が、女性としても先輩としても自分を憧れの目で見ていると勝手に思い込み、彼が高熱を出して数日休んだ時には、わざわざデスクから彼に電話をし「大丈夫?ちゃんとご飯食べてる?今晩ご飯作りに行ってあげようか?」と言い放ったものである。

おぼんが彼に色目を使っている事はあからさまだったので、周囲は別に反応しなかったが、そのメンツが噂のチャンネルや化粧水だった事を考えれば、彼女の行動には敬意を表すべきかもしれなかった。

もちろん彼は、苦しい息の下から鄭重にお断りしたのだが、彼の迷惑にも全く気付かず「遠慮しなくていいのに」と、さも面倒見のいいお姉さんぶっている様子は、滑稽でしかなかった。

さて、そんな勘違い生活を満喫しているおぼんは、自分の外見やセンスにも絶大な自信を持っていた。

外見は特にヒドくも良くもなく、ごくごく普通で、まずいことにかなりのガニ股だったが彼女は常に「外資IT企業の出来る女」を気取っているため、よくそのテの女が勘違いするようにシャープな黒っぽい服が多かった。

冬の初めのある日、私達は目を疑った。いつものようにコツコツとハイヒールを鳴らして出勤したおぼんは、意気揚々と白地に紺の大きなダイヤ柄のコートを身に纏っていたのである。

スーパーモデルクラスにしか着こなせないような、とんでもない柄のそのコートに、みんなは呆れ返ってあんぐりしていたら、またもや勘違い絶好調のおぼんは「やだ・・またみんな私に注目して・・」というような満足げな微笑を湛えながら、うやうやしくコートを脱いだ。そして次の瞬間、私達は第2次驚愕の時間を迎えるのだった・・・なんとコートの下には、まるでカルピス社の回し者のような、白地に大きな紺の水玉模様の、身体にフィットする服を着ていたの0だ。

もう全員、見なかった事にするしかなかったが、おぼんはこの一連の光景に「やっぱりミスA社は私以外いないわね」と再確認したようで、その日は終日上機嫌であったのは言うまでもない。

あまり自信満々なのが可笑しくて、ある時私は「いつもステキなお洋服を着てらっしゃいますけどどちらで買われるんですか?」と、噴出したいのを堪えて訊いてみた。

彼女は勘違いしてるだけで、悪人でもなんでもなく、むしろある意味素直なので、からかわれてる事など露ほども感じず、得たり!と思った時に多用する「いえいえ・・」という言葉の後に詳細な説明をした。

この一言のおかげで、数日後おぼんの買い物に、ありがた~く付き合せて頂く事になったのだがその話はまた今度!!しかし・・おぼんのこの勘違いの数々はネタのようだが、彼女はいたって真剣なのだった・・・

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毒牙の結末

女王様が大の男好きだという事は周知の事実だが、その守備範囲はかなり広かった。

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前回、新しく入社した独身男性Sさんに触手を伸ばした事は書いたが、それまでにもそれこそ数多くの社内の男性、しかも妻帯者にでも構わず色目を使う、困ったおばちゃんだった。

これまでも、その権力に屈して餌食になった男性社員は多いが、そのきっかけの多くは出張で、大抵の場合、それは大阪で起こった。

A社の取引先の多くは、大阪にある事は既に書いたがそのテのプロジェクトのミーティングは、恐ろしく長い場合が多く、朝から夜10時・11時まで続く事も珍しくなかったので、メンバーが心身ともに消耗し、多少の食べ物を口に入れ、シャワーを浴び、何も考えずにベッドにもぐりたいのも当然だった。

あっという間に吸い込まれるように眠りにつき、至福の時を過ごしている彼らを、しのびやかなノックが襲うのは、大体夜中3時頃だった。

冴えきらない頭と視界でドアの方を向くと、ノックと共に多少苛立った、女王様の鼻にかかった声がする。

「ちょっと言い忘れた事があるんだけど、開けて~」・・・・ ぼんやりした思考能力で事態を整理しようと、取り敢えずドアを開けたらおしまいだった。

もう夜中なのに美しくバッチリ化粧をした女王様は、するりと小さな身体をドアから滑り込ませ後はお決まりのパターンだった。

じーじの様な勘違いな女好きや、高学歴のKさんのようなマジメなサラリーマンは、ドアを開けてしまうがSさんは、そういう様々な噂を耳にしていたので、寝たふりを決め込んだ。

女王様の策略か、仕事上本当にそれが適切だったのかは知らないが、この時の出張は女王様とSさんの2人だけだったので「今夜こそ」と意気込んでいた女王様は、かなり長い時間ドアの外で粘っていて流石のSさんも「社長だし、仕事の話があるのかもしれない・・。

もし無いにしても女性に恥をかかせるのは可哀想かな」と考えながら、でも本当に睡魔には勝てず彼女の足音が寂しげに去っていくのを聞きながら、また深い眠りに落ちていった。

次の日は大切な提案をする日だったが、当然朝から女王様はご機嫌ナナメである。

Sさんは内心やりづらいなぁ・・・と閉口しながら、何も気付いてないように、いつも通り振舞っていた。

果たして客先での大切な提案の時、女王様は「Sさん、そんな事も分からないの!!」「それはどういう事??」等と、まるで敵対するライバル会社のように、Sさんを客の面前で罵倒・追及し始めた。

Sさんは、この展開に驚いたが、もっと驚愕した顧客が、2人の間を取り持つ羽目になったのはまったく滑稽極まりない事態だった。

こうして大切な提案の日は修羅場と化し、東京に帰る前にSさんがこのプロジェクトから外されたのは予想通りの結末だった。

こうして女王様は、モノにした男だけをいいプロジェクトにアサインし、給料を上げるという暴挙を繰り返すのだが、この事が、自分の征服欲とプロジェクト充実の両方を満たすものだという事に、女王様自体は気付いてなかったが、女王様の男好きが、会社の利益に大いに貢献しているという、納得できない結末になっている事は確かだった

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女王様は可愛い子ちゃん

勝手気ままに振舞う事、そして年甲斐も無く可愛い子ぶる事にかけては、女王様の右に出るものはいない。

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例えばオフィスレイアウト変更の時、自分の仕事は機密性が高いので、デスクをパーテーションで囲んで欲しいと言い出し、みんなで言われた通りにしたのだが、座ってみたら孤独感に見舞われたのか「いや~ん・・・こんなんだと寂しいぃ」という一言で、再度の変更を余儀なくされたり、事業部長時代、午後のオフィスではキーボードを叩く音しか聞こえない様な静寂の中、お気に入りのじーじに「ねぇ・・今度の土曜日空いてる?社長のお宅のホームパーティに招待されてるんだけど、一緒に行ってぇ~」と鼻にかかった声でおねだりするのである。

みんな、また始まった・・・と思いながらも聞こえないフリに徹するが、この「私って女の子」攻撃は重要な来客の際にも遺憾なく発揮されるので、関係者はたまったものではなかった。

~女王様、社長就任~

ある時、誰でも知ってる会社の、かなりエライおじさんが、女王様の社長就任祝を言いに来社した。頼まれてお茶を持って行った時、私は目を疑った。

なんと女王様は彼の背後に回り、顔を大接近させて「暑いでしょ~?上着脱いで下さいねっ」と言いながら、彼が上着を脱ぐのをいそいそと手伝っていた。ここはクラブなのか??と思いながら、何も気付かないふりでお茶を出したが、顧客にまでそんな態度で接しちゃうんだ・・・と思ったら、こちらが恥ずかしかった。

まぁ女性らしい気遣いと言えなくもないし、企業のおエライさんの多くは女王様より年上なので、どんな女性に対しても「取り敢えず女性だから」的な発想で優しく接してくれていたので、女王様は自分がどれだけ滑稽かという点には、思いが及ばないらしかった。

~女王様とのプロジェクト~

当時A社の顧客は大阪に多かったという事は既に書いたが、女王様はお目付け役としてそのプロジェクトに参加しているので、当然毎週大阪出張があった。

中途入社してきたSさんは、一流大学出身の独身男性で、周囲の女性はすぐに彼が女王様のお気に入りになりそうなタイプだと気が付いた。

果たして入社3日目に彼は女王様から一緒のプロジェクトに参加するよう仰せ付かった。

彼は同業界の出身なので知識はあるが、何しろまだ3日目で顧客の事も全く分からないのでもう少し勉強してから・・・と当然の理由を持ち出し断るのは当然だった。

この時も女王様はクスッと笑いながら「だ・い・じ・ょ・う・ぶ!!私がちゃーんと教えてあげるから」と、安物のAVのような台詞を、小首をかしげて恥ずかしげも無く、彼に言い放つのだった。

~女王様は、体調不良!~

大抵の場合、その気味の悪い攻撃は男性に向けられるのだが、時々女性にも垣間見せるのは、全く厄介な話だった。

セクレタリーのKはみんなの面倒を見る係りなで、体調が悪いから午前半休するなんていう連絡も受ける事が多かった。

それは女王様も同じで時々朝「○○です・・・Kさん??」と消え入りそうな声で電話をしてくる。

それだけで充分体調不良は分かるのだが「具合悪いの・・・アレで」と、聞きたくもない詳細な理由も、ちゃーんと言ってくれたりするのだ。

Y曰く「まだ私も女なのよ~」というアピールだと言うのだが、単なるセクレタリーにそんな発言、しかも体調不良だと言うのに、それにどんな意味があるのだろう・・・・未だに全く謎である。

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じーじはプロジェクトリーダー

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ドームは嫌われ者なので、社内に仲良しは皆無である。

なのにどうにも「つるみたがる」傾向があり、一仕事終えた10時頃に近所のスタバのコーヒーが飲みたくなるらしいのだが、まんまとじーじを誘い出す。そして買って帰ってくるのかと思いきやしっかり「店内でお召し上がり」なのである。

忙しいと徹夜だわぁ~と行ってる割には、スタバでお互いに見つめ合って、微笑みあって、手を繋ぐ時間は作り出せるらしかった。

そして軽々と2時間近くを過ごした後、さも出来る女に必要なブレイクだったという顔で席に着き、30分くらいすると、もうランチである。

これまた、じーじは見事に罠にはまり、いそいそとドームの後に付いてエレベーターに乗り込みスタバと同じように永らく帰ってこない。

彼らは時計を持っていないか、企業で仕事をしてお金を得ると言う事が理解できないかのように、2人の時間の流れはアバウトに過ぎてゆく。

こんな有様なので、出張の多いコンサル部隊に属する彼らが、一緒に出張しようと思い立つのも当然の成り行きで、じーじはリーダーの地位を利用して、ドームを自分と同じプロジェクトに組み入れた。

化粧水の話も以前書いたが、このテの勘違い人間ほど別居や不倫に社費を使う事さえも当然の権利だと思い込んでる、セコイ輩が多いのだ。

全く公私混同も甚だしいバカ者達である。

当時A社は製薬業界を得意先として沢山抱えていたが、これらの大企業の所謂「頭脳集団」である開発部門と言うのは、その殆どが大阪にあった。

A社は自社システムをカズタマイズして売るのが主な仕事だったが、この導入には億単位のお金がかかる。

顧客にそれだけの金額を吐き出させるには、それ相応の成果をあげなければならないのは当然で、ある製薬会社のプロジェクトは、その会社の全ての仕組みを変える大掛かりなもので、メンバーは毎週大阪詣でをする為に日々の業務に追いまくられていた。

そのリーダーがじーじで、何の必要があるのかドームを急にプロジェクトメンバーに組み入れた。

既に「そんなに必要なの?」という人数をつぎ込んでいるのに、である。

プロジェクトを成功させなくては自分たちの給料も上がらない仕組みのA社で、何人ものメンバーがいるにも拘わらず常に一緒に行動し、驚くべき事には2人だけは毎週1泊多い出張をするのだ。

私の業務の中には出張手配がある事は既に書いたが、割とじーじとは仲良しだったので、ある時「どうしていつも2人は帰京日がみんなより1日長いの?」とバッサリ訊いてみた。

「ドームは完璧主義だから打合せも長くなっちゃうんだよ」・・・。

ここまでは、まぁふーん・・・と思える。

しかしその後のじーじの答えと、その時の楽しそうな顔は、私を呆れさせるのに充分だった。

「でもさ、いつも取ってもらうホテルの支配人とうちの社長って友達だろ?だからチェックアウトを2時まで伸ばしてもらえるから、一仕事終わってシャワー浴びられるんだよ。これっていいよな」

「・・・・・・・・」どんな一仕事か知らないが、ただでさえ他のメンバーはミーティングが18時間続いたなどと嘆いているのに、午前中に終るミーティングなどあるわけもなく、顧客と会っている筈はなかった。

例の、アニメのキャラクターに似た悪気の無い顔と、のんびりした口調で言われると、怒る気も起きず黙って立ち去るのが最善の策のように思えるのだった。

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じーじの社内不倫

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以前「じーじ」については書いたが、背が高いだけが取柄のアニメの主人公のような容姿の彼は根拠の分からない多大な自信を持っている男である。

しかし驚く事には、そんな彼に「男としての魅力」を感じる女が、こんな小さな会社に複数いるのだった。

じーじとおぼんが不倫関係にあったのは周知の事実だったが、もう1人彼に好意を持っていたのがこれまた、わけのわからない自信過剰なバカ女、ドームである。

じーじとおぼんは同棲までしてた仲だし、お互いにある程度本気だったのは確かだったがドームとの仲は、全くそういう匂いはなく、この勘違い者同士の社内不倫は、一般的な感覚を持った社会人には、理解できない事が多かった。

例えば、ドームに仕事の相談をされたじーじが彼女のPCの前に行った時、何故だかドームの椅子をシャアして座っていた・・・つまり1つの椅子を仲良く半分コしてたり、会議の最中に手を繋いでたり、キスシーンを目撃した女性もいたらしい。

彼らの出張手配も仕事の1つだった私は、ある時その部全員が海辺の施設でする1泊2日研修の切符の手配をする事があったのだが、手配書を見ると行きは7人分、帰りは6人分、部員数より少ない。

間違えては面倒だと思い、リーダーであるじーじに確認に行った時「あ~・・俺は往復車だから」という答が返ってきたが、帰りのもう1人は??と不審に思って聞き直した時、ハッと気付いた。

聞いて失敗だったなぁ・・・と思ったその時、彼は何食わぬ顔で「帰りはドームも俺の車で帰るから」と言い放った。

全く恐れ入った度胸である。

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女王様とOA機器

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何度も書いているがA社は外資のIT企業である。一般的にそのイメージは、社員の殆どがPCに詳しく、専門用語を多用する・・・的なものだと思うがそれは大きな誤解である。

確かに普通の人よりは知っているが、中学生の機械好き少年や、オタッキーな大学生には到底敵わないレベル程度のものである。

ましてや社長、しかも出身がコンサルとなれば尚更である。 その頃、コンサルのKさんは、A社のシステムを導入してくれた、誰でも知ってる超大手通信会社のマニュアル作りに没頭していた。

彼は子供の事から「神童」並に扱われ、小学生の頃には「行くなら東大」と決めていたというツワモノである。

しかも東大に入ってみたものの「なんか違うなぁ~」と思い続け、結局退学してしまった。

その理由が「もっとアカデミックな所かと思った」とあっさり言う彼は、良く東大生にいる「テストはできる」タイプの典型であった。

その彼が作るマニュアルなので完璧かと思いきや、残念ながら彼はWordに疎かった。

提出したマニュアルに不備があると客先に指摘され、訂正にかかったが、あまりにも不出来な上、300ページちかくあるそれは、訂正しない部分の方が少ないような代物だった。

女王様は当時、彼(というよりその学歴)を愛していたので、その手直しを手伝うと言い出した。

ところがフタを開けたらあまりにも大変そうで、私達にその尻拭いが廻ってきた。

どう考えても彼らよりWordに詳しい私達は、手分けしてさっさと手直しし、終電に飛び乗った。

問題はその後発覚した。

女王様とKさんにメールで送った完璧なマニュアルを、意気揚々と女王様が客先にメールしたところ「ファイルがおかしい」とクレームが入った。徹夜で会社に残っていた女王様が驚いてファイルをクリックすると、めちゃくちゃになっている。焦った女王様は、ずれた箇所などを手でコツコツ直したそうで、次の朝、手直しする作業がどんなに大変だったか、私がやったからマニュアルが完璧になった・・・と言うような事を、徹夜明けで目の下にクマを作りながら、出社した私達に自慢げに説明するのだった。

そして次の瞬間、私達のうちの1人Yは耳を疑った。

「このマニュアルFAXで送って」。

FAX???このご時勢に、しかも客先は超大手通信会社なのに、だ。

めちゃくちゃになった原因について女王様は全く理解の外のようであったが、私達のものよりかなり低いバージョンのオフィスを使っていた為、ファイルが正しく見れなかったのは明らかだった。

後から考えると、Yから送れば何の問題も無かったのだが、この時ばかりは常に冷静な彼女も勝手が違った。

「FAX」という一言に度肝を抜かれ、良く考える間もなく印刷したマニュアルをFAXし、何とか全て送信し終わった時は、とっくにお昼を過ぎていた。

驚くのはこれだけではなかった。

私達のうちの1人Kはセクレタリーで、完全な事務職である。

この頃には女王様も、オフィスのバージョンが失敗の原因だった事を聞きかじっていたのだが突然Kの席までやって来て「オフィスの入替できる?」と言ったものである。

誰がどう考えても、少なくてもA社でのそれは社内OAの仕事で、セクレタリーに関わりのある業務である筈が無かった。

ポカンとしてるKに、女王様は少し苛立ちを覚え「出来るの?出来ないの?」と声を荒げたのには、益々驚いた。

その後、オフィスのバージョンアップが社内OAの業務だと言う事も悟った女王様は2度とKに、そんなバカげた事を訊く事も無かったが、この一連の不思議な事件はある意味、A社の本質を現していて、今でも私達にとっては大いなる笑い話となっているのは言うまでもない。

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