モテ男もラクじゃないぜぇ~
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西陽と姉さんが付き合ってるという噂は、まことしやかに流れ、聞いた人全員が納得するという、この2人にピッタリの展開を見せた。
要はみんな「あの2人なら・・・」と思ってるわけだ。西陽はいい人だけど、妙に自信たっぷりで女性好き、姉さんに至っては単なる男好きで、ちょっといいと思う男とはコロッと寝る・・・という具合である。
ある意味、大阪支店を仕切ってる状態の姉さんは、仕事はもちろん、出張に関しても勝手気まま・・・まるで個人旅行のように展示会やミーティング、セミナーなどにかこつけて、月に1度は東京に通ってくる。
私は姉さんと話す唯一の女性社員だし、いつも仕事を押し付けられているので、1度くらい食事に誘ってくれても良さそうなものだが、そんな提案は全くなかった。それどころか、彼女が何度も電話で言ってくる、訳の分からない要望をクリアする宿泊先を予約するのに結構な時間を掛けなくてはならない事も多かった。
もちろんそのホテルが西陽との愛の巣になるわけで、知らない間に「社費で不倫」の片棒を担がされている私もとんだ役目を担っていたものである。
どういう訳だか私達は、会社の男性陣にご馳走になる機会が多かったが、西陽はその筆頭で彼は、勿論足を交差させながら「何のメリットも無いのに食事ご馳走する女性は君たちが初めてだよ」などと髪をかきあげ、あまりコミュニケーションが密とは言えないA社で、本音で語れる相手は君たちだけかもね・・と憂いを帯びた目で遠くを見つめるのが常だった。
ある時、白金に美味しいイタリアンがあると聞きつけた私達は、次の会でそのお店に行ってみた。グルメも自認する彼は「やっぱりイベリコ豚は格別だね」とか「ラムには岩塩が一番合うね」などと独り言のように呟きながら、かなりの量のワインと共に食事を楽しんでいた。
楽しい時間も終わり、会計を済ませた彼は「酔い覚ましに少し歩こうか?」と言い出した。
白金から目黒まで、昼間ならいざ知らず、もうかなり夜も更けているし、女性の足では楽々20分は掛かる道を、冬の季節に歩こうと言うのだ。
明日も会社である事を考えると鄭重にお断りしたい気持ちだが、かなりの額をご馳走になっている身では頷く他、選択肢はない。
道々、暗さとワインのせいで、いつもよりもっと滑らかになった舌は、「この道、彼女と歩いたなぁ・・」と、空に向かって大きく息を吐きながら言い放ち、突然私達を驚かせた。
そして相槌に困って沈黙する私達に、追討ちを掛ける様に「結婚して欲しいって言い出されてさぁ・・ビックリしたよ」と、懺悔か自慢か分からない薄笑いを浮かべながら続けたのである。
愚問と分かっていても「それで何て答えたの?」と訊いてしまった自分を情けないと思いながら答えを待ってると「キミの事は好きだけど家庭を壊す気はないよ、って言ったら泣かれちゃってさ」と、すっかり映画のワンシーン気分で、目黒に向かう並木道を、風に髪をなびかせ歩いている彼を、妄想の世界から引き戻す術は、既に無かった。
何とか駅に辿り着いた私達は、彼が駅の雑踏で現実に戻った事を知って、密かな安心感を感じていた。
ホームに着くなり「トイレに行って来る」と言って、今上ってきた階段を駆け下りたのである。
何だか可笑しな後姿だったが、帰ってくるときは上質なキャメル色のコートのポケットに片手を入れたまま、一段抜かしで階段を駆け上がり「お待たせ」とウィンクする彼を見た私達は、いつ、どんな時でも自分をモテモテ男だと信じて疑わない彼を、つくづく幸せ者だなぁ・・・とちょっぴり羨望の眼差しを送ってしまうのだった。



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